指導者ではなく「教えさせてもらう」という意識が大切【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.56 ヨガ講師 坂本季実子さん #2】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
前回に続き、相模原市でヨガスタジオを運営するヨガ講師 坂本季実子さんにお話をお聞きします。前編では坂本さんのこれまでの道のりや現在の働き方について教えていただきました。
中編となる今回は、坂本さんが感じるヨガ講師のお仕事の魅力や大変さ、ヨガ講師を目指す人へのアドバイスをお聞きします。
お話をうかがったのは…
ヨガ講師 坂本季実子さん
KIMI YOGA STUDIO 主宰。ヨガ・呼吸法講師、ウェーブストレッチリングマスタートレーナー。心身ともに調子を崩し、回復のためヨガをスタート。ヨガと呼吸法、瞑想で体と心のバランスを取り戻せることを実感し、講師として活動を始める。18歳と6歳の二児の母。
Instagram:@kimi_yoga
ヨガをすることで元気になる人を見るのが嬉しい
——坂本さんが感じる、ヨガ講師のお仕事の魅力を教えてください。
ヨガ講師の仕事は、言ってしまえば自分が学んできたことや体験してきたことを伝えるだけなんです。でもそこに感謝をしてもらえるのは、とてもありがたいなと思います。
生活をしていると、何となく重だるいことや悩むことは、誰でもいっぱいある。そうして暗い顔でレッスンにいらした生徒さんが、ヨガで体を動かして呼吸をしていくと、ちょっとすっきりしていくんです。「ちょっと楽になりました」「呼吸が浅くなっていたことに気づきました」と言って元気になって帰っていくのを見ると、とてもありがたいし嬉しいですね。
——生徒さんとの思い出深いエピソードはありますか?
別のスタジオに所属していたころ、不妊治療で悩んでいた生徒さんがいました。私はそのスタジオを辞めてしまったんですが、治療のなかで気持ち沈んだときに「坂本先生のところに行けば元気になるかも」と思ってくださって、SNSなどを探してこのスタジオに辿り着いてくださったんです。その方は今でもレッスンに通ってくださっています。
元気になりたい、もう少し自分の体や心を丈夫にしたいと思ったときに、私のところに来てくださったのが、すごく嬉しかったですね。
——レッスンのなかで、そういった面も重視しているのでしょうか?
あえて言葉で言うことはありませんが、でも講師側にいると何となく心の不調を感じることがあるんです。何か悩んでいるな、うまく日々が回っていないのかな、って。それがほどけるような声掛けは、直接的ではありませんがレッスンの中で入れるようにしています。触れることで安心する方には、少し触れに行ったりもしますね。
ヨガをする時間のなかで体と心に向き合うだけでも、心が軽くなる効果はあると思います。それプラス、私の言葉掛けで安心できる部分があるなら、軽くしてあげたいなと思うんです。私も経験したことですし、みんな同じですから。
コロナ禍で変わったレッスン。大切なのは自分のこだわりに縛られないこと
——お仕事で大変だったこと、苦労したことはありますか?
コロナ禍になり、対面レッスンができなくなったときは、本当にどうしようかなと思いました。私はスタジオレッスンしかしていなかったので…。でも割とすぐにZOOMのレッスンを自分でスタートしました。
——オンラインへの移行は大変でしたか?
まずは準備が大変でした。機材とか、あまり得意ではないので(笑)。だからレッスンをしながら、生徒さんに見える?とか聞こえる?と聞いたりして、少しずつ必要な機材を買い足して、快適にレッスンができる環境を整えていきました。
画面越しでの伝え方というのも悩みました。対面であればポーズを見せて、あとは触れながら伝えられましたが、オンラインではそれができません。どうしても説明に必要な言葉数が増えるので、オンラインは水も飲めないくらい話し続けています。言葉で生徒さん自身が動けるように、話すスピードにも気を遣いながら、事細かに伝えるようになりました。
オンラインに移行できたことで、コロナ禍で「タオルヨガ®」の考案もできました。大変でしたけど、やってよかったです。
——すぐに移行できたのは大きかったですね。
まわりにはオンラインレッスンを躊躇するインストラクターさんも多くて、私も最初は「対面じゃないと伝わらないよね」という気持ちがありました。でも一度、自分でZOOMでのヨガレッスンを受けてみたんです。そうしたらオンラインはオンラインでいいところがあるなと感じられたので、やってみようと思えました。そこで乗り遅れずにできたのは大きかったと思います。
講師だからと驕らず「教えさせてもらっている」という意識を持って
——これからヨガ講師を目指す方にアドバイスをお願いします。
いろんなヨガ、いろんな先生のレッスンを受けて欲しいです。同じことの説明でも先生が経験されたことによって全く違ってきますし、どの言葉が自分に浸透するかはレッスンを受けてみないとわかりません。そして浸透した言葉というものは、必ず自分から出てきます。いろんなレッスンを受けることで、純粋に引き出しが増えていくんです。
また、自分がヨガをしている理由や、ヨガをして変わったこと、気づいたことなど、その気持ちはずっと忘れないで欲しいですね。それが絶対に、活動のベースになると思います。
——坂本さん的「ヨガ講師の心得3か条」を教えてください。
1.常に生徒であること
2.レッスンさせていただける環境に感謝する
3.自分のヨガの時間を大切にする
以前、学んだ先生から「ヨガ講師は偉くない。ふつうの人はヨガをしなくてもいいのに、自分たちはヨガを教えさせてもらうことで少しずつカルマが減っている。だから、劣等生であることを忘れないで」と言われたことが、すごく心に残っているんです。
いっぱいカルマを持っているからヨガをしている。人にヨガを教えさせてもらうことで、やっと一人前になれる…。だから指導者という気持ちはあまりなくて、レッスンをしているときは生徒さんとは同志のような感覚があります。
常に学ぶ姿勢を忘れずに、講師と言う立場でも驕らず、自分がいち生徒でいる場所に身を置き続けたいと思っています。
ヨガを教えることでカルマを減らしていく…という考えは、妙に納得感もあり心に残りました。坂本さんもその言葉があったことで学び続ける姿勢を忘れず、生徒さんと近い距離で心が軽くなるようなヨガレッスンを続けているんですね。次回後編では、坂本さんがコロナ禍でスタートした「タオルヨガ®」についてお聞きします。
取材・文/山本二季
撮影/高嶋佳代