必要だったのは「ラクして効果的」なメソッド。股関節ヨガで自発性を育む【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.58 ヨガインストラクター 伊藤香奈さん】#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
前回に続き、「股関節ヨガ」の考案者・伊藤香奈さんにインタビュー。長年のデスクワークによるむくみに悩んだ経験から生まれた股関節ヨガには、「生まれつきだと思っていた脚の形が変わった」「自然に痩せた」などの声が数多く寄せられます。
後編では、股関節ヨガが生まれた経緯、股関節ヨガの特徴、伊藤さん流のヨガインストラクターの心構えを教えていただきます。
教えてくれたのは…
伊藤香奈さん
鎌倉に拠点を置き、スタジオとオンラインでレッスンを抱える、フリーのヨガインストラクター。平日は会社員として働き、休日はヨガインストラクターとして活動。20年間デスクワークによるむくみに悩まされた経験から「股関節ヨガ」を考案し、脚の歪みや、肩こり・腰痛などの日常的な不調を抱える人たちからも支持を得ている。
Instagram:@itokanayoga45
YouTube「股関節ヨガチャンネル【伊藤香奈】」
ポーズを極めるのではなく、みんなの不調に合わせたメソッドを伝えたくて
――教える側になる上で、どんな勉強をしたのでしょうか?
毎朝のルーティンとしてヨガをやっていたのですが、そこから練習量を増やしたりはしませんでした。
ヨガをはじめた頃は難易度の高いポーズを取れることを目指していましたが、自分が教える立場となってからは、生徒さんにたくさんのアドバイスができるようにと、解剖学や骨格、筋肉についての勉強を深めるようになりました。
――ヨガインストラクターの方はポーズを極めるために練習を重ねているイメージでした。
レッスンをする中で、みなさんが求めているものって肩こりや腰痛、朝の目覚めが悪い、夜なかなか寝付けない、といった日常における不調をケアできることだと感じたんです。
だから、自分がすごいポーズを取れることはあまり価値がないのかなと。日常的な不調を抱えている人たちに必要なのは、ラクして効果的にできるものなんじゃないかなと思ったんです。そこで、座ったままでOK、かつ時短でできるメソッドを追求するようになりました。
――伊藤さんご自身もデスクワークに悩まれていたそうですね。
そうなんです。ずっと座り仕事をしていて、下半身のむくみがひどかったんです。お手洗いに行くたびにストレッチをしないと座っていられなかったし、旅行に行くときも、長時間座っているのがキツいという理由であまり遠くに出掛けられなかったり…。
――結構むくみが重症だったんですね。
そんな中、甥っ子を抱っこしたときにギックリ腰になっちゃって…(笑)。整体に行ったら「土台が悪いからギックリ腰になりやすい」と言われたんです。私、O脚だったんですよ。学生時代にソフトボールをやっていたこともあって、アウターマッスルという外側の筋肉もがっしりついていて。
O脚は生まれつきのものだと思っていたのですが、そうではなく、筋肉を正しく使えていないからだったんです。そこで、O脚を治す骨格調整や、外側ではなく内側の筋肉を使うトレーニングをしていったら、O脚だけでなく、むくみ体質が変わったんです。
長年ヨガをやってきましたが、ヨガではO脚やむくみを解消するのは難しかったんです。けれど、ヨガに筋肉トレーニングや骨格調整を組み合わせることで、それが可能だということがわかり、「これは他の人も絶対に知りたいはずだ!」と思い、土台づくりからアプローチする股関節ヨガを考案したんです。
――ポーズは伊藤さんのオリジナルでしょうか?
もちろん他のヨガのポーズやピラティスを色々組み合わせてやっています。自分が心地よいと思ったものを抜粋し、さらにお客様が取り入れやすいようにアレンジを加えました。また、組み合わせや順番にもこだわっています。例えば、最初にほぐす動きを入れることで、つっちゃったり、引っ張りすぎて痛くなったり…という無理な負担を防げるんです。
――「股関節ヨガ」は珍しいのでは?
そうですね。実ははじめるにあたり、予めネットで検索したんです。他にやっている人がいないかとか、商標登録されていないかとか。足首、美尻、美脚などはすでに着目されていたけど、股関節にフォーカスしている人は誰もいなかったんです。YouTubeやInstagramでは「股関節」がすごく検索されているので、狙いどころとしては良かったですね。
自分で気づく、ということを大切に
――「股関節ヨガ」のおすすめポーズをいくつか教えてください。
私の股関節ヨガでは、まず筋膜リリースをする。次に骨格調整で骨を動かす。そしてその骨を固定するためのトレーニングをする。そこからヨガに入って、最後に瞑想、という流れでやっています。
腰の横を伸ばすポーズ
まず、右脚の膝の外側に左足裏をつける。次に、右手を体の後ろにつき、右側に体を倒し、右側の腰の横をストレッチ。ポイントは、マットについている手で上半身をぐっと押し起こし、肩はリラックスして腕に寄りかからないように頭を上に引き上げること。
「脚がだるい」「腰が重たい」という人におすすめです。
お尻の奥をストレッチするポーズ
右脚の膝を曲げ、左脚の膝の上あたりに乗せたら、左脚の膝を曲げる。右のお尻にストレッチが入っていることを感じながらゆったりと呼吸するのがポイント。両手でマットを押し、上半身を斜め上に引き上げる(背中を丸めないように)。
「股関節が硬い」「座り仕事が長く続いた」というときにぜひやってみてください。
――伊藤さんの股関節ヨガは、気づきというか、自発性が促されるようなメソッドですね。
股関節ヨガが他のリラックス系のヨガと違うのは、一箇所を動かすごとに、左右差を感じてもらう時間をつくっているところです。「こうやって動かすと、体は変化するんだな」と自覚してもらうんですよ。「自分の力で体は変えられる」ということがわかれば、継続しようという気持ちも沸きますよね。
ヨガインストラクターは「受け入れる」姿勢が大切
――伊藤さんは、どんなときにヨガインストラクターとしてのやりがいを感じますか?
本業では会社員の肩書で仕事をしていますが、ヨガインストラクターはフリーランスでやっているので、自由に自己表現ができています。自分のやりたいことができて、かつ自分にファンがついてくれる。こんなに素敵なことはありません。
今はオンラインレッスンが定着し、お値頃な価格帯で受けられるところもあれば、色々な先生のレッスンを受けられるところもあります。そんな中で、私のレッスンを受けに来てくれる方というのは、きっと私のメソッドや人柄に親しみを持ってくれているからだと思うので、とてもありがたいですね。
――最後に、伊藤さん流の「ヨガインストラクターの心得三箇条」を教えてください。
1.生徒さんの話を聞く
インストラクターというと「教える立場」と考える人が多いんですけど、インストラクターとはあくまで「聞く立場」です。生徒さんの要望に耳を傾けること、生徒さんの動きを見ることが大事です。
2.生徒さんから教えてもらう
生徒さんの声や体に耳を傾けたら、次は「何が必要なのか」を教えてもらうこと。このような姿勢で接することではじめてアドバイスができると思っています。
3. 応援すること
「きちんと動かせば体は変化する」「自分の力で痛みを和らげられる」「自分はまだまだ若返られる」と自分の可能性を信じてもらうことを意識してやっています。頑張るのは生徒さんご自身。それに対し、「頑張っていますね!」「それで良いんですよ!」と励ますのが私の仕事かなと。
「ヨガをやるのは私ではなく、生徒さんご自身」。伊藤さんのレッスンは、自分ごととして自分の体に向き合うことを大切にしているようです。むくみや肩こり、腰痛などの日常生活における不調には継続的なケアが必要ですが、その継続力を身に付けられるのも伊藤さん流ヨガの魅力だと感じました。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(fort)