移住先・熊本の土地と人を好きになり、地域密着の自宅サロンを経営【Therapy Room Joy & Love あらいみかさん】#1
地方でヘルスケア事業に携わっている方に、事業運営のための取り組みについてインタビューする本企画。今回は熊本県熊本市の整体院「Therapy Room Joy & Love」代表・あらいみかさんにお話をお聞きしました。
前編では、あらいさんがヘルスケアのお仕事を始めた理由と、東京と熊本でのサロン経営についてお聞きします。
お話を伺ったのは…
Therapy Room Joy & Love あらいみかさん
20代から心・体・精神と全体的な健康を目指すホリスティック医学の観点に立ち、さまざまな療法を学ぶ。東京都で整体サロンを経営した後、2012年に熊本県に移住。2019年、完全予約制のリラクゼーションサロン「Therapy Room Joy & Love」をオープン。2020年に解説したTikTokでは、5ヶ月で「整体」「エクササイズ」の2部門で注目度ランキング1位を達成。自宅でひとりでもできる「ソロ整体」動画は、累計7,000万回以上視聴されている。
家庭環境から健康に興味を持ち、心と体のヘルスケア知識を習得
――まずはリフレクソロジストになった経緯を教えてください。
小さいころから家族が病気を抱えていたので、「健康ってなんだろう」と考える機会が多い環境でした。だから大学は心理学に進んだのですが、心の方面からのアプローチだけでは物足りなさを感じたんです。
落ち込んでいるときに、ちょっと背中に触れてもらうと心が軽くなる。そんなふうに体からのアプローチで心がゆるむことに気づき、体のケアを勉強するため大学卒業後はリフレクソロジーの学校に入りました。
当時はリフレクソロジーが日本に入ってきたばかりで、学校は3、4校ほど。流行りとしてはリトリート系の学校が人気でしたが、私は「体をなおす」ことに力を入れているイギリスの伝統的な学校に入りました。健康面への興味がベースにありましたから、西洋医学と対等な位置付けをされている本物の技術が学べることに惹かれたんです。
――心と体の健康について学ばれたんですね。卒業後の活動は?
出張リフレクソロジストとして活動していました。でも周りから見ると無職と変わらなかったんでしょうね。大学時代のゼミ教授が心配して、心理方面のお仕事を紹介してくださったんです。イギリス王室で使われている心理療法の先生が来日して啓もう活動を行うから、手伝わないか…というものでした。
そこから代替医療の会社に就職し、心と体を全体でとらえてみていくホリスティック医学の世界に入ったんです。私の仕事は、心理カウンセラーのように話を聞くこと、自然療法や予防医学の大切さを広報する活動をメインに、ガイダンスや研修会などの企画運営や講師、物販商品の営業など多岐に渡りました。
――そこからリフレクソロジーのお仕事を再開した経緯は?
元夫が治療家なのですが、結婚していた当時、整体サロンを開きたいと言い出して。私にも手伝って欲しいと言われて会社を退職し、集客や広報などサロンの運営面をしていくことになったんです。それで結果的に私も施術するようになりました。
その整体サロンは、東京都大田区にあった自宅で看板も出さずにスタートし、最初はママ友や近所の方たちを中心に活動していました。でも知り合いの人気ブロガーさんがブログや書籍で取り上げてくださったのをきっかけに、本当に日本全国からお客様が来てくださるようになって――。看板や広告を出さず、10年ほど続けられたんです。
熊本移住後は整体サロンとスポーツクラブのインストラクターを兼業
――熊本県に拠点を移された理由を教えてください。
きっかけは、東日本大震災でした。地方で暮らしたいという元夫の強い希望があり、引っ越すことにしたんです。私としては「こんなときだからこそ、本当にお世話になった大田区の皆さんに貢献できることをしたい」という気持ちもあったんですが、家族の希望を尊重することにしたんです。
引っ越し先に熊本を選んだ理由は、友人が旅行で撮影した水源の写真が、すごく印象に残っていたからでした。元夫の希望は九州で、なかでも大きな都市である福岡という案もありました。でもその水源の写真が頭から離れなくて、「どうせ九州に行くなら熊本がいい」と言って、縁も所縁もない熊本県に決めたんです。
――転居後はどんな活動をしていましたか?
大手スポーツクラブに採用していただいて、スポーツインストラクターとして勤務しました。最初はマシーンの使い方を教えたり館内巡回をしたりする仕事でしたが、体の知識はあったのでレッスンもして欲しいと言われて…。運動も苦手でしたし当時37歳くらいでしたが、毎日5時間以上ジムで指導の勉強をするようになり、いろんなレッスンの指導者資格を取得していきました。
そのスポーツジムでのレッスンは、サロンを開いた今でも続けています。コロナ前は年間300本、コロナ後も100本ほど担当していますよ。
――2019年にリラクゼーションサロン「Therapy Room Joy&Love」を開かれていますね。
はい。2019年に開業届けを出して本格的に始めましたが、その前からお友だち相手に施術は続けていました。サロンを再開したのは、スポーツクラブで運動指導をするうちに、まだ運動をする段階ではない方が多くいることに気づいたからでした。
肩や首が凝っていたり体のどこかに痛みがあったりして、可動域が狭く体が正常に使えていない人たちが、そのままの状態で運動しているのを見て…。これでは却って体を傷めてしまう、と思いました。運動する以前に、体を整えたほうがいい。そのほうが怪我の心配もないし、運動の効率や効果も上がります。だから「体を整える」というのは外せない、そこからすることが大事なんだと改めて気づき、サロンを始めることにしたんです。
地方では自分から発信し、とにかく知ってもらうこと
――東京と地方でサロン経営を経験されて感じた違いはありますか?
地方の場合、やはり情報が入ってくるのにタイムラグがあります。だから新しい技術は、まず「知ってもらう」という活動からスタートするんです。
例えば私が熊本に来たのは11年前ですが、当時東京で施術していたアロマホットストーンが、熊本ではほとんど知られていませんでした。東京だとアロマホットストーンを知ったうえで来店されるけれど、地方では「アロマ」は知っているけど「ホットストーンって何?」というところからになる。
だから施術を知っていただくためにイベントに出たり、マルシェやショッピングモールで体験していただいたりと、技術自体を広めるための活動も多かったですね。
その分、新しい技術を持っていれば、まわりとの差別化もしやすい部分はあると思います。都内であれば同じ施術が受けられる多くのサロンから選ぶけれど、地方では「この施術が受けたいならここ」という存在にもなれますから。
――集客面での違いは?
東京での集客面で大きな変化があったのは、先ほどお話したブロガーさんによる発信でした。そういった広告塔になるような方は、やはり東京に集中しているので、地方ではそういった後押しがなかったのは大きかったと思います。
だから地方では、とにかく地域に密着すること、どう地元に根差すかというところが重要でした。最初は本当に足を使って、一軒一軒チラシを配ったりもしましたね。移住した当時は今ほどSNSも発展していませんでしたし、自宅サロンなので看板なども出していない分、市内中のコミュニティボードにチラシを貼りに行ったりして、とにかく知ってもらうことを意識しました。
でも、その後はクチコミだけでやってきました。1人でやっているので受けられる人数も限られますが、ありがたいことに続けられています。
あらいさんが熊本で、クチコミだけでサロンを続けられた理由は、あらいさんの「活動のなかで大切にしていること」にヒントがありました。次回後編で、詳しくお伝えします。
取材・文/山本二季