【例文あり】介護現場で事故が起きてしまったら?事故報告書の書き方とポイントを解説
介護現場では利用者が転倒したり、食べ物が気道に入ってしまったりといった事故が起こることがあります。事故によっては行政機関に届け出が必要なことも。事故が起きないに越したことはないですが、100パーセント防ぐことは難しいのが現実です。
起きてしまった事故は、どうして事故が起きたのか・どうやったら防げるのかを考える必要があります。そこで役立つのが事故報告書です。
ここでは、介護現場で事故が起きてしまった場合の事故報告書の書き方とポイントを解説します。例文とあわせて紹介しますので、参考にしてください。
介護現場の事故報告書とは
事故報告書とは、介護事故の原因・詳細を記載した書類のことです。行政機関に提出するほか、施設全体での共有や家族への説明をするときなどにも使用します。
以前は市町村によって様式に違いがありましたが、令和3年から厚生労働省によって統一されました。以下のリンクからダウンロードが可能です。
ここでは介護現場における事故報告書の目的や、報告が必要な事故とあわせて記入項目について紹介します。
目的
事故報告書の目的は再発防止・スタッフへの周知・隠ぺい防止の3つです。それぞれ詳しく解説します。
再発防止
事故報告書の目的のひとつは、事故が起きてしまった原因や経緯を明らかにし、適切な再発防止策を考えることです。事故報告書を当事者以外のスタッフも一緒に確認することで、より多角的な視点で原因の分析や再発防止策の検討ができます。
事故が発生したときは冷静な対応ができなかったり、問題点に気づかなかったりする可能性も否定できません。事実を書き出すことで当時の状況を振り返り、業務を見つめ直すことにも役立ちます。
スタッフへの周知
事故発生後のカンファレンスでは事故の原因や詳細、その後の対応について共有されます。スタッフが事故について把握したうえで、再発防止策について職場全体で協議する必要があるため、事故報告書をもとにスタッフへの周知がおこなわれるのです。
事故報告書は定期的に事故事例を見直したり、対応方法について検討し直したりといった取り組みにも役立ちます。
隠ぺい防止
事故報告書に、事故に至った経緯・原因・その後の対応・再発防止策を記載することは隠ぺいを防ぐことにもつながります。
事故発生後速やかに事故報告書を作成しておくことで、利用者の家族に説明するときや行政機関に情報共有するときに事実を伝えることが可能です。再発防止に向け誠実に取り組む姿勢を示すことで、大きな苦情に発展しにくくなります。
報告が必要な事故
行政機関に報告が必要な事故は次の通りです。
1. 死亡に至った事故
2. 医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置など何らかの治療が必要となった事故
3. その他各自治体の取扱いによるもの
引用元
厚生労働省:介護保険最新情報 Vol.943 令和3年3月19日
厚生労働省が定める様式で提出|事故発生後5日以内が目安
事故報告書は厚生労働省が定める様式で作成し、原則メールで提出します。最初の報告は、事故発生後5日以内が目安です。必要に応じて追加報告をおこない、事故の原因分析や再発防止策は、決まり次第報告します。
記入項目は、次の9つです。
1. 事故状況 |
2. 事業所の概要 |
3. 対象者 |
4. 事故の概要 |
5. 事故発生時の対応 |
6. 事故発生後の状況 |
7. 事故の原因分析 |
8. 再発防止策 |
9. その他 |
規定の様式は、介護保険施設以外にも次の施設で活用が望まれています。
・認知症対応型共同生活介護事業者(介護予防を含む)
・特定施設入居者生活介護事業者(地域密着型及び介護予防を含む)
・有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅
・養護老人ホームおよび軽費老人ホーム
事故報告書の書くときのポイント
事故報告書は虚偽の報告をせず、原因分析や再発防止策の内容をしっかりと記載することが大切です。
ここでは、事故報告書を書くときのポイントを紹介します。
事故が起きた時系列に沿って5W1Hを明確にする
事故報告書は、事故当時のことを知らないスタッフや行政機関の職員が把握するために必要な書類です。時系列に沿って5W1Hを意識しながら記載すると、誰が見てもわかりやすいものになります。
5W1H |
・When(いつ)
・Who(誰が) ・Where(どこで) ・What(何をした) ・How(どのように) |
・Why(なぜ/原因) |
客観的な事実を記入する
事故が発生した状況や原因・事故内容を書くときは主観的な表現を避け、客観的な事実を記載しましょう。
見たもの・聞いたことをそのまま書くのがベストですが、はっきりと分からないことや状況から推測されることを書く場合は、文末に(推測)と記載することで事実と推測を混同させずに済みます。
事故の原因は人・環境両方の視点から分析する
事故の原因を人(いわゆるヒューマンエラー)だけに限定した場合、再発する可能性があるため、利用者本人・職員・組織や仕組みを含む環境の視点から分析することが大切です。
たとえば、足の不自由な利用者が歩行していたときの転倒事故は次のような原因分析ができます。
利用者:補助具を使わなかった
職員:利用者のそばに居なかった
環境:段差があった/床が濡れていた
3つの視点によって事故の原因が詳しく分かり、再発防止策を考えやすくなるでしょう。
再発防止策は実現可能で効果のあるものを検討する
再発防止策は、実現できないと意味がありません。実現可能かつ、再発を防ぐ効果のあるものを検討することが必須です。
【ケース別】事故報告書の書き方の例文
さきほど紹介したポイントをおさえて、転倒・誤嚥・誤薬・物品破損のケースで例文を紹介します。
転倒事故の例文
When(いつ) | 令和〇年〇月〇日 午後〇時〇分頃 |
Who(誰が) | 利用者Aさん(年齢・性別 要介護3) |
Where(どこで) | 居室内(〇号室) |
How(どのようにして) | ベッドに横になっているAさんに、「車いすに乗って移動しますよ」と声かけ。
体を起こしてくれたため移動介助をしたが、十分に座っていない状態で前のめりになってしまい、体を支えきれずに転倒。 転倒後の意識あり、右腕に痛みを訴えた |
What(何をした) | 別のスタッフを呼びベッドへ移動
その後〇〇病院を受診(担当医:〇〇 午後〇時〇分頃) 大きな異常なく湿布で対応 |
Why(なぜ) | ・事前の声かけや移動の声かけが不十分だった
・体格に差があるスタッフが1人で介助していた ・ベッドと車いすのあいだに距離があった |
対策 | ・移乗の手順をしっかりと伝え、掛け声をかける
・体格差のある利用者を介助する際は2人のスタッフでおこなう ・移乗前にベッドと車いすの距離間や配置を確認する |
誤嚥事故の例文
When(いつ) | 令和〇年〇月〇日 午後〇時〇分頃 |
Who(誰が) | 利用者Bさん(年齢・性別 要介護4) |
Where(どこで) | 食堂 |
How(どのようにして) | 昼食の介助中、別の利用者から声をかけられ、30秒ほど離席し戻ってきたところ、喉をおさえて苦しそうにしていた。 |
What(何をした) | すぐに看護師を呼びタッピングをして窒息した物を取り出した
除去後は会話は可能だったが、ぐったりした様子 食事はやめ、自室で休息 医療職・栄養士に報告(〇時〇分) 〇時間おきに様子を確認し、変わった様子はなし |
Why(なぜ) | ・自分で口に運んだジャガイモが気管に詰まった(推測)
・ジャガイモが少し大きめだった ・介助中に席を離れた |
対策 | ・食事介助が必要な利用者から目を離さない
・ほかの利用者に呼ばれたときの対応については事前にスタッフで連携を図っておく ・栄養士と相談のうえで、食べ物の大きさを見直す |
誤薬事故の例文
When(いつ) | 令和〇年〇月〇日 午後〇時〇分頃 |
Who(誰が) | 利用者Cさん(年齢・性別 要介護3) |
Where(どこで) | 食堂 |
How(どのようにして) | 昼食後に飲む薬を、誤って朝食後に服用させた |
What(何をした) | 服用後すぐに気づき、医師へ報告。しばらく様子を見るよう指示あり。
その後バイタル測定。 体温〇℃・血圧〇〇・脈拍〇〇 スタッフ間で共有し、〇分おきの見回り Cさんは特に変わった様子はなく、会話もいつも通り |
Why(なぜ) | ・薬の仕分けのルールがあいまいだった
・服用させるときにいつ飲むべき薬か確認を怠った |
対策 | ・仕分けの手順を作成し、2人体制で確認する
・服用する前にも氏名と服用時間を確認する |
物品破損の例文
When(いつ) | 令和〇年〇月〇日 午後〇時〇分頃 |
Who(誰が) | ヘルパー氏名 |
Where(どこで) | 利用者Dさん宅 |
How(どのようにして) | 昼食介助の際、テーブルに置いてあった花瓶を落として割ってしまった |
What(何をした) | DさんとDさん家族に謝罪
破片と花の片付け サービス責任者に報告 |
Why(なぜ) | ・テーブル上にある食事に必要なもの以外の配置を確認していなかった
・介助に必要なスペースを十分確保できていなかった |
対策 | ・食事を始める前にテーブルの上のものを片付け、スペースを十分確保する |
介護事故は再発を防ぐことが大切!事故報告書を活かして再発防止につなげよう
介護現場で一度起きた事故は、再発を防ぐことが大切です。再発を防ぐためには事故の原因を詳しく分析し、適切な再発防止策を考える必要があります。
事故内容によっては発生から5日以内に事故報告書を提出しなければならないため、事故が起きたらすぐに状況を整理し、作成しましょう。
事故報告書は、時系列に沿って客観的な事実を具体的に記載することで、誰が見ても事故を把握できるようになります。事故報告書を活用しながら、職場全体でさまざまな意見を出し合い、再発防止につなげましょう。