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ヘルスケア 2024-04-21

言語聴覚士の支援で大切なのは、ご家族の価値観を尊重し寄り添うこと【介護リレーインタビュー Vol.45/言語聴覚士 佐々木美都樹さん】#2

介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。

前回に続き、訪問看護の言語聴覚士として働きながら、小児専門のオンライン相談サービス「ことばの相談室 Hopal(ホパール)」を運営している佐々木美都樹さんにインタビュー。

後編では、佐々木さんが言語聴覚士のお仕事をするうえで大切にしていることや、これから言語聴覚士を目指す方へのアドバイスをお聞きします。

お話を伺ったのは…
言語聴覚士 佐々木美都樹さん

北里大学言語聴覚療法学専攻を首席卒業。言語聴覚士免許(国家資格)及びパーキンソン病治療「 LSVT®︎LOUD」ライセンス所持。マカトン法ワークショップ基礎1修了。PECS®︎レベル1ワークショップ修了。成人を対象とした外来リハビリテーション施設・訪問リハビリテーション施設・介護老人保健施設、小児を対象とした児童発達支援事業所に勤務。息子の病気をきっかけに、相談・リハビリテーション事業を立ち上げる。現在は、児童発達支援事業所で勤務する傍ら、「ことばの相談室Hopal」を運営している。

Instagram:@sasaki_mizuki_st

支援する子だけでなく保護者にも向き合い、
安心できる関係性を作ることが大切

――佐々木さんがお仕事の中で大切にしていることは何ですか?

一番大切にしているのは、保護者の気持ちに寄り添い、安心できるような支援を行うことです。

私も訓練を受ける子の親になってみて、可愛い我が子に障がいがある、障がいがあるかもしれないというのは、本当に不安なことだと実感しました。何年かして、我が子が置かれた状況を受容できているように見えても、お子さんの体調やご自身の気持ちの余裕など、日によって気持ちが揺らぐことはあるんです。

その気持ちが実体験を通してわかったので、どんなに安定していそうな親御さんでも、何か不安を感じていないか、自分はどんなサポートができるのかを、常に考えながら接しています。

――経験者だからこそ寄り添えるところですね。

小児の支援を始めて感じたのは、保護者は正しい評価や訓練だけを求めているわけではないこと。それももちろん必要なことですが、それよりも重要なのは、支援に関わる人間が、自分の子をいかに大切に思っているかなんです。

その子のできるところを積極的に見て褒めてくれたり、好きなものを覚えていてくれたりすると、「我が子が大切にされている」と感じられる。その結果、保護者とSTとの関係性がとてもよくなり、アドバイスも聞き入れやすくなる…。

ST目線だと、学校で習った検査や評価、正しく効率よく支援する方法に目が行きがちなんですが、それ以上に保護者はSTの人間性の部分をとても大事にしているんですよね。

だから、支援するお子さんだけでなく、保護者の方々にもしっかり向き合う。訓練に繋げるまでの保護者の努力や、知らない人との訓練を緊張しながらも受けてくれるお子さんの頑張りに感謝して、関わっていくことが大切だと思っています。

支援を受ける当事者と家族を尊重しながら
支援する自分のことも大切に


――佐々木さんにとって「ヘルスケアのお仕事の心得3か条」は?

1.支援を受ける当事者や家族の価値観を尊重する

どの程度の教材を用意して訓練を行うか、どれくらいのことをお子さんや保護者に要求していいのかは、保護者の気持ちや価値観によって変わります。正しい評価や訓練だけが正解ではなく、どんな想いで生活・育児をしていて、STに何を求めているのかが、支援をしていくうえではとても大切

具体的な悩みや改善の方向が明確な保護者もいれば、何かを解決したいわけではなく、専門家に経過を見てもらうことで、ひとまず安心して毎日を送りたいという保護者もいます。支援の方向性を決めるためにも、その家族なりの価値観を尊重していくことが大事だと感じています。

2.支援の内容をわかりやすく伝える

STの支援は、その日急に変化が見えたり改善するものではなく、数カ月あるいは数年かけて実感できるものです。訓練の効果がとてもわかりにくいため、保護者からすると「このままでいいの?」と不安になってしまいます。だからST側は、何を目標に今このアプローチをしているのか、それによってどんな変化が期待できるのかという流れを、わかりやすく伝えることが重要です。

そして説明は一度ではなく、何度も繰り返して伝える。私も、息子のリハビリや治療の話を絶対に何回も聞いているはずなのに、日々の生活のなかで「これってどんな目標のためにやってるんだっけ?」と、わからなくなってしまうことが結構あります。保護者は本当にいろいろなことに追われて生活しているんですよね。その大変さがわかるので、何度でも繰り返しお伝えしていくように心がけています。

3.支援する側が無理をしない

結局のところ、働いていくうえでは自分の健康が一番大切です。心身が万全でなければ、良い支援は提供できません。支援を必要とする方やご家族と接する時は、気持ちを察したり不安を与えない言葉選びをしたりと、支援する側もいろいろと考えながら介入する必要があり、それは自分が万全でないと難しい。相手のための支援ではなく、ただの作業になってしまいます。そうならないためにも、自分が無理せず働くことは大事だと思っています。

支援する方のイメージを持つと
現場で相手の気持ちを汲み取るためのヒントになる


――言語聴覚士を目指す方が学んでおくといいことは?

自分が支援する方のイメージを持っておくことは大切だと思います。今の時代なら、YouTubeなどで検索すれば、当事者の方が撮影した日常の様子がたくさん見られます。我々STが支援するような、例えば自閉スペクトラム症やADHDなど、キーワードを入力するだけで、当事者の方の状態がわかる動画がたくさん出てくる。それを見て、支援する方のイメージをつけておくといいんじゃないでしょうか。

動画を見ることで、障がいの症状や特性というものが、実際どんなものなのかわかります。もちろん人によって症状は違うけれど、文献を読んだだけのイメージと実際の姿の齟齬は少なくなると思います。

また、動画を通して当事者の生活が見えることも、とても大事なことです。そういった動画には、一緒に暮らすご家族のコメントが入っていることも多いんですね。ハンディキャップを抱えている方との生活で、どんな悩みがあり、どんな葛藤があり、どう乗り越えようとしていて、そういった状況の中でどんなことに幸せを感じているのか…。

同じ障がいを持っていても、いろんな考えの方がいて、いろんなパターンの家族のかたちがあります。そのことを知っておくと、今後支援の現場に入って当事者やご家族の気持ちを汲み取るときに、必ず役に立つと思います。

――最後に、言語聴覚士を目指す方にアドバイスをお願いします。

言語聴覚士として患者さんに接すると、学校で学んだ基本の検査や判断の項目が、どうしても最初は目に入るし、探そうとしてしまいます。その方のハンディキャップを評価するのはもちろん大事。でも、そういった目に見えるものだけでなく、どんな想いで支援を受けているのかという気持ちの面も考えてもらえたら、すごく嬉しいなと思います。

それば自分なりに考えてみることも大事ですし、聞き方次第ではご本人やご家族に直接尋ねてもいいと思います。そんな「気持ちを汲もう」という姿勢から信頼関係が生まれ、支援自体も良い方向にいくのではないでしょうか。


取材・文/山本二季

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