「慣れ」は禁物! 基本を守りながら臨機応変に対応できるのが理想【介護リレーインタビュー Vol.49/ガイドヘルパー 久保田綾子さん】#2
介護業界に携わる皆様のインタビュー通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
NPO法人横浜市視覚障害者福祉協会
同行援護事業所アイポート ガイドヘルパー
久保田綾子さん
伯父と伯母の介護をきっかけにヘルパー2級(初任者研修)を取得。その後、デイサービスやグループホームで介助・介護の仕事に就く。ある視覚障がい者との出会いを機に9年前にガイドヘルパーの資格を取得し、現在に至る。
前編では、目の不自由な方が交差点を渡るのをサポートしたのをきっかけに、ガイドヘルパーになったことや、同行援護で気をつけていることなどを伺いました。
後編では、同行援護を続けるなかで失敗したことや嬉しかったこと、ストレス発散法などをご紹介します。
理解が進んでいない同行援護。この仕事を広めるのも重要な使命
――お恥ずかしながら、最近までガイドヘルパーの仕事を詳しく知りませんでした。
実は利用者さんのなかでも、同行援護は何ができて何ができないのかをご存じない方もいらっしゃるんですよ。
同行援護は利用者さんが行きたい場所へ安心・安全にお連れすることなんですが、荷物持ちだと勘違いされたこともあります(笑)。
――荷物持ちですか!?
多少の荷物でしたら手伝って差し上げても…とは思いますが、大雨の日に傘を差しながら想像を超える大荷物を持たされて。これには参りました。
あとは代読・代筆のお手伝いでうかがったら、家事援助だと思われて「電球を替えて」とか「床を掃除して」とか、過剰なサービスを要求されたことがありました。
――そんなこともあったんですか。
利用者さんだけではありません。一般の方の間でも「同行援護」や「白杖」の意味をまだまだ分かっていない方がいらっしゃるんですよ。
――同行援護はまだしも、白杖は分かりそうですが…
コロナが蔓延していたころ、利用者さんとホームで電車を待っていた時のことです。中年の女性が私たちのことをジロジロ見ていました。そのときは目の不自由の方が珍しいのかな…と思っていたら、同じ駅で電車を降りたとたん「この時期に何やってんだよ! イチャイチャくっついてないで、離れて歩け!」って大きな声で怒鳴られてしまいました。
利用者さんは白杖をもっていましたし、私の右肘を軽くつかんでいただけなのに。その女性に「仕事中ですので」とお答えしましたが、「そんな仕事、あるか!」って捨てゼリフを残して離れていきました。白杖の意味も同行援護の仕事も分からない人が、まだいるんだなぁと悲しくなりました。
ストレスに感じたことは口に出さずノートに書き出す!
――辛かったことや怒りを感じたときは、どう対処していますか?
その日にあったことをノートに書き留め、心の内を吐きだしています。何日か過ぎたときに、解決方法がふと思いついたりするので、それを書き足したり、振り返って反省したり。書くことで自分の限界が見えてくることもあるんですよ。
以前は人に話をしたり、相談したりすることもありましたが、ウワサになるだけで良い結果につながらないことが分かってきました(笑)。話をするなら、同じ職場以外の方がいいと思います。
何か心にわだかまりができても、すぐ結果を求めるのではなく、まずはノートに書き出す。話せる時期がきたら話をするようになりました。
――今までの同行援護で久保田さんが最大のピンチだと思ったことは何ですか?
ガイドヘルパーはパチンコや競馬などのギャンブルに同行できません。白杖以外での同行も認められていません。金銭や物のやり取りも、宴会時の飲酒、、飲酒目的での同行も認められません。「同行」ですから、ご自宅にあがって活動することも認められていません。
それなのに利用者さんのなかには、強要する方もいらっしゃいます。そこをお断りするのが本当に大変です。
――逆にうれしかったことを教えてください。
「ありがとう」の感謝の言葉をいただけると、本当にうれしいですね。辛いことがあっても、「またがんばろう」と思えます。お一人でも「あなたにお願いしたい」とおしゃってくださる方がいる限り、その方を大切に、担当できる限り同行しようと思っています。私にとって「あなた」が付いたときは、最上級の褒め言葉と勝手に思ってきたからこそ、続けられたのかもしれません(笑)。
同行しているときに会話が弾んで、打ち解けられたと感じる瞬間もいいですね。
目が不自由でも、私たち晴眼者と変わらず積極的に外出なさろうとする姿を間近で感じて、「私も負けてはいられない!」と思います。
――同行援護をするとき、目的地に同行する以外にどんなことをしますか?
お食事をするとき、どこに何があるかを説明することもあります。
――どうやって説明をするんですか?
例えばお弁当の説明をするときは、お弁当を時計の文字盤(クロックポジション)にあてはめて3時の方向にえびフライがあるとか。みなさん器用に召し上がりますよ。
研修の時、私たちもアイマスクをして目が見えない状態で食事をしました。暗闇の中で食事をするような感覚です。一度この経験をすると、どんな情報を知りたいのか分かるようになります。例えば、「刺身につける醤油はどこにあるのか?」、「わさびはどこか?」。
実際には食べやすさが優先されるので、お好みのわさびなどの量を伺ってからしょう油に溶いて、刺身の上に回しかけることもあります。
――それは大変! 見えなかったら、何もできそうにありません。
そんなことはありません。みなさん器用ですから、声かけが大切になってきます。私の場合は「ソースをかけていいですか?」など、利用者さんにお声がけして、なるべくご負担のないようにしています。間違って口に入らないようにバランやプラスチックのカップなどは先に取り除くこともあるんですよ。ストレスを感じることなくお食事を楽しんでいただきたいと思っています。
――目の不自由な方が食べにくいものはあるんですか?
「ショートケーキ」とおっしゃる方が多いです。クリームが多くて食べるときに形が崩れやすい物は、みなさん遠慮して召し上がる方はほぼいません。
利用者さんのなかには「〇〇を食べに行きたいけど…」とか、「レストランに行ってみたいけれど…」と諦めている方が多いんです。そういう方たちの力になれたときは、やりがいを感じます。
――ショートケーキはどうやってクリアしたんですか?
店員さんにナイフを用意していただいて、食べやすいようにカットしてからフォークに一口ずつ取ってお渡ししました。
基本を守りつつ利用者の希望に合わせられる臨機応変さも大事
――ひと言で同行援護といっても、求められること利用者によってまったく違いますね。
そうなんです。一緒に歩くときも、ガイドヘルパーが手を伸ばして、利用者さんに肘のあたりを持っていただくのが基本です。でも利用者さんによっては、腕を曲げて欲しいという方もいれば、腕を絡ませた方が歩きやすい方もいる。肩に手を置いた方がいいとおっしゃる方もいます。その方その方に合わせて、臨機応変な対応で接していけることが大切ですね。
――久保田さんが同行援護をするとき、必ず持って行く物は何ですか?
大きなビニール袋、輪ゴム、ウェットティッシュです。
大きなビニール袋は、雨が降ったときに頭から被れば傘の代わりになりますし、荷物にかければ雨よけになります。利用者さんが「座って休みたい」とおっしゃったら、シート代わりになるので便利なんです。輪ゴムは傘が迷子にならないように目印になります。ウエットティッシュは手拭き用です。利用者さんは手で触れながら物や場所を確かめます。ですから手指が汚れやすいんですね。
――久保田さんが思い描いている理想のガイドヘルパーはどんな方ですか?
基本に忠実であることが大事ですが、利用者さんのやり方に合わせられる柔軟さがある方ですね。同行援護が終わるたび、何が足りなかったのかをきちんと反省して、次に生かせられればいいですね。「だれ」や「慣れ」を生まないように気をつけています。
――ガイドヘルパーを目指している方にアドバイスをお願いします。
体力があって健康で、利用者さんに声がけのできる方には、どんどんチャレンジして欲しいです。視覚に障がいのある方に寄り添って、ぜひ「うれしい」、「楽しい」気持ちを共感してください。
久保田さん流! ガイドヘルパーの心得三か条
1.利用者に寄り添って、共感する努力を忘れないこと
2.同行援護をするたびに反省点を見つけ、次に活かすこと
3.基本を守りつつ、臨機応変に利用者の希望に応えられること
同行援護する利用者のことを考えて、その人が常に心地いい状態であるように気を配っている久保田さん。お話しをうかがっている間も、言葉の端々にやさしいお人柄が伝わってきました。
撮影/森 浩司