【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本 vol.18】横柄な態度で周りを威嚇する利用者への対処法は?
いろんな利用者がいる介護のお仕事において、トラブルの種を成長させてしまうか否かは、介護職の対応次第といっても過言ではありません。日々、忙しくがんばる介護職の方のために、当企画では、現場で起こりがちな困りごとの対処法をご紹介します。
大股開きでドカっと座り、思いきり新聞を広げて、共有スペースを占領するYさん。どう接するのが正解?
最近、老人ホームに入居してきたYさん(70代・男性)。基本的に横柄な態度なので、周りの入居者のなかには不安顔の人も…。ある日、そのYさんが、みんなが集まる食堂のソファに大股開きでどかっと座り、新聞を思いっきり広げて読んでいました。
他の入居者が座るスペースを占領しているので、スタッフが「Yさん、他の方が座れなくなるので、普通に座ってもらえますか。」と声をかけたところ、「あん? 俺に意見するのか!」と怒り出してしまいました。
再度、スタッフがお願いをすると渋々動いてくれましたが、周りの利用者へ不安を与えてしまいました。そうならないためには、こんな時どう対応するのがよいのでしょうか。ポイントをおさえながら、見ていきましょう。
ポイント1:プライドを傷つけるような行為は厳禁
大股開きで座る男性の心理には、縄張り意識があると言われています。自分の存在を誇示したい欲求が強く、このような威嚇行動をとるのだそうです。攻撃的ではありますが、威嚇行動の裏には「やられたらどうしよう」という不安が隠れているので、実は気が小さい人が少なくありません。
ですので、この場合、他の利用者に分かるようにYさんを注意するのは得策ではないでしょう。耳元で囁くように声をかけてみてはいかがでしょうか。
ポイント2:『お願い』ベースの低姿勢で声かけをする
例えば「となりに座りたい方がいるので、ちょっとだけスペースつくってもらえますか?」のように、プライドを傷つけない『理由』をつけた『お願い』であれば、虚勢を張っている人も受け入れやすくなります。さらに、「食堂が狭いせいですみません」のような、こちらに非があるというような内容を添えると、Yさん自身が悪いわけではないという理由づけになり、より依頼を受け入れやすくなるでしょう。
そして、もしお願いを聞いてくれたなら、すぐに感謝の言葉をかけましょう。自分の存在を誇示したい人にとっては、この感謝の気持ちがより心に響くかもしれません。そうなれば、『感謝される』という経験がこの男性にとっての喜びにつながり、威嚇行動も落ち着いていく可能性も。
「虚勢を張っている」利用者へやってはいけない2つのこと
1.真正面から注意をする
2.同じ土俵に上がる
横柄な態度で周囲を威嚇する人に対して、下手に出て『お願いする』のはイヤだと思う人もいるでしょう。しかし、相手は利用者で、あなたは介護者です。利用者とのトラブル回避の原則は「利用者の思いや立場を最優先する」こと。威嚇行為をしているからといって、同じように強い姿勢でのぞむのは、火に油を注ぐ様なものです。一歩下がって冷静に状況を見渡し、虚勢を張っている人の心の内を読み取って、その人の望む役回りを演じるように心がけるとよいでしょう。
文:細川光恵
参考:「相手が求めていることを聴き取れますか? 介護の聴き方 タブー集」誠文堂新光社
監修
中浜 崇之さん
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役
1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。