【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本 vol.24】ことある毎に「バカにするな!」とあたる利用者への対処法
介護現場で起こりがちな困りごとの対処法をご紹介する当企画。介護技術以外にも身につけておくとよい、コミュニケーション力や人間力などについてもお届けします。忙しい介護現場ならではの「困ったときに相談できる人が身近にいない…」という悩みにお役立てください。今回の困りごとは―
気に入らないことがあると「バカにするな!」と介護職にあたるTさん。対処法と予防策は?
妻に先立たれて以来、一人暮らしをしているTさん(80代・男性)。マメな性格なので家事も器用にこなしてきましたが、ここ数年、病気がちになり、今までできていたことが急激にできなくなってきました。そのイラ立ちもあるのか、気に入らないことがあるとヘルパーにあたることが増えてきています。
先日も味噌汁が冷たいと怒りだし、「どうせ老いぼれには味なんかわからないと思っているんだろ。バカにするな!」と味噌汁を床にたたきつけたTさん。感情的になるとよく『バカにするな!』と口にします。
このような利用者への対処法と、その方が人にあたらず穏やかに過ごせるようになる予防策を考えていきましょう。
ポイント1:感情言葉からその人が「期待」していることを察知する
「喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、恨み」といった感情は、「期待」と深い関わりがあります。例えば、「喜び」は期待していることが手に入ったときの感情で、「怒り」は当然手に入るものと期待していたことが叶わなかったときの感情です。つまり、あたってくる人には、何か期待していることがあったということ。まずは感情言葉に注意して、その「期待していたこと」を探るのが大切です。
Tさんの場合、よく口にする『バカにするな!』という言葉が、感情を表している感情言葉です。「期待」とは逆に「バカにされた」から怒っているのです。つまり「バカにされる」の逆で「尊敬される」ことを期待しているということでしょう。これが解決の糸口となります。
ポイント2:その人が「期待」していることに応える
「期待」が満たされれば「喜び」や「楽しみ」を感じ、「期待」が裏切られれば「怒り」や「悲しみ」「恨み」といった負の感情が生まれます。この負の感情こそが、人にあたってしまう根源なのです。つまり、この根源を断つことが「あたり散らし」対策の第一歩。
Tさんの場合、「尊敬されたい」「好意を抱いてほしい」「興味を持ってほしい」という「期待」がうかがえるので、「一生懸命お世話しているつもりなんですが」「人生経験の浅い私は失敗ばかりで…」「これからも色々とご指導ください」のようなへりくだった声かけで、怒りの感情を予防できるはずです。常日頃から、利用者の「期待」を満たしてあげることを意識してみましょう。トラブルになりにくい関係性を築くことにも役立ちます。
「あたり散らす」利用者へ対応するときの2つの心得
1.相手につられてイライラしない
2.ストレスを感じたら『腹式呼吸』で落ち着こう
怒りや不満といった負の感情は、周りの人にも伝染しがちです。ですがつられてイライラしてしまうと、関係がこじれてトラブルに発展する火種にもなりえます。ストレスを感じたときは、『腹式呼吸』をして自分を取り戻しましょう。ただの呼吸と侮るなかれ! 7秒くらいかけて吐きだし、6秒くらいかけて大きく吸う。これを5分くらい繰り返すと気持ちが落ち着いてくるはずです。『冷静な自分』をいかに保てるか、ここが腕の見せ所だと思えたら、トラブル対応にも強くなれるのではないでしょうか。
また、対応の見直しと並行して、自分の言動も一度振り返ってみましょう。知らず知らずのうちに、その方にとっては無礼に感じる言葉や態度をとっているのかもしれません。利用者との関わり方が上手な先輩や同僚の言葉の使い方や行動を、普段から真似て取り入れるようにすると、対応力の向上につながりますよ。
文:細川光恵
参考:「こんなときにはどう言葉をかけたらいい? 介護の言葉かけタブー集」誠文堂新光社
監修
中浜 崇之さん
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役
1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。