デイサービスの閉鎖は増えている? 2020年の老人福祉・介護事業の倒産状況を解説
昨年から続いている新型コロナウイルス感染症の影響により、企業の倒産が相次いでいます。とくに外食産業は国や都道府県など自治体からの時短営業要請などもあり、かなり深刻な状況です。
それは老人福祉や介護事業においても例外ではなく、実際にデイサービスや訪問介護の利用者は激減しています。これらの仕事は濃厚接触に該当するだけでなく、利用者が高齢者や病気を抱えた方がほとんどで万が一感染した場合、重症化するリスクが高いためです。今回は2020年の老人福祉・介護事業の倒産状況を解説します。
デイサービスの閉鎖は増えてるの? 2020年のデータを解説!
昨年から続く新型コロナウイルス感染症の影響は、老人福祉や介護事業にも暗い影を落としており、デイサービスや訪問介護施設の閉鎖が相次いでいるのです。ここでは、東京商工リサーチ調べによる2020年のデータをもとにデイサービスの閉鎖が増えている実態について解説します。
2020年の老人福祉・介護事業の倒産は過去最多
2000年以降で過去最多の倒産件数は、2017年と2019年に記録した111件でした。2020年はその倒産件数を上回る118件となり、過去最多の記録を更新しています。これは前年比で6.3%の増加です。
一方で負債総額は140億1,300万円と前年比で13.3%減少しています。これは負債額1億円未満の倒産件数が全体の79.6%にあたる94件、従業員5人未満の事業所が全体の66.9%にあたる79件を占めるなど、小規模零細事業者を中心に推移したためです。
また、設立から10年未満という事業所の倒産が全体の55%にあたる65件と半数以上を占めており、資金不足による息切れ倒産が目立っています。
デイサービスの倒産件数は?
デイサービスなどの通所・短期入所介護事業者の倒産件数は、全体の32.2%にあたる38件で、前年に比べて18.7%増加しています。デイサービスなどの通所・短期入所介護事業では大手企業との利用者の奪い合いが激しく、そのことも倒産件数の増加に拍車をかける一因となったようです。
一番倒産が多い施設は訪問介護事業
2020年に老人福祉・介護事業の中で最も倒産件数が多かった施設は、56件の訪問介護事業で全体の約半数を占める47.4%となっています。新型コロナウイルスの感染拡大にくわえて、以前から続いている深刻な人手不足も倒産に拍車をかけました。
訪問介護もデイサービスなどと同様に、食事や入浴の介助での三密状態が避けられないことや利用控えの影響が重なったことが大きな要因となっているものとみられています。新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない以上、2021年も厳しい状況が続く可能性は高そうです。
おもな倒産の理由とは? 新型コロナの影響はあった?
老人福祉・介護事業の倒産件数は、2016年から5年連続で100件以上を記録しており、そのおもな倒産理由は深刻な人手不足と次々に新規事業者が参入してくることによる競争激化です。新型コロナウイルスの感染拡大に関連する倒産は、7件判明しています。
2020年の2月から10月までは、国や各自治体などからのコロナ支援や介護事業者への臨時特例などの効果もあって3件にとどまっていたコロナ関連倒産も11月以降で4件増えました。ここにきて、支援などの効果が薄れてきているものとみられています。この状況が続く限り、コロナ関連倒産の件数増加は避けられない状況です。
休廃業・解散も過去最多
2020年に増加したのは、倒産件数だけではありません。2020年に休廃業・解散した老人福祉・介護事業者の件数は、455件で前年に比べ15.1%も増加しています。2010年の調査開始以来、2018年に記録した445件を抜いて過去最多となりました。
コロナ禍で先行きの見通しが立たないことにくわえ、経営者の高齢化や事業を継続していくモチベーションの低下などが影響したものとみられます。結局、2020年に老人福祉・介護事業の市場から撤退した事業者の数は倒産と休廃業・解散を合わせて573件にもおよびました。
2020年の休廃業・解散も従来からの深刻な人手不足や後継者不足などによって事業継続を断念するというケースが大部分を占めています。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による利用者の減少や感染防止対策の費用負担にくわえて、感染拡大の収束が見えないことで経営体力が残っているうちに廃業しようと考えた事業者も多かったようです。
※上記でご紹介したデータは、東京商工リサーチのデータにもとづいています。
令和3年度の介護報酬改定について解説!
上述したとおり、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない以上、老人福祉・介護事業の経営についても回復の兆しは見えてきません。ようやく始まったワクチン接種の効果と、2021年4月の介護報酬改定に一筋の光明を見出したいところです。ここからは、4月に予定されている2021年の介護報酬改定について解説します。
報酬改定の方針|自立支援・重度化防止の推進
今回の介護報酬改定において、通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護では自立支援・重度化防止の推進が重要な柱のひとつになっています。デイサービスなどの通所介護や通所リハビリなどの通所系サービスでは、介護職員等による口腔スクリーニングの実施を新たに評価する口腔・栄養スクリーニング加算が新設される予定です。
この加算は、利用開始時や6カ月ごとに利用者の口腔の健康状態や栄養状態について確認し、情報をケアマネジャーに提供している場合などが要件となっています。また、介護療養型医療施設を除く施設サービスには、自立支援促進加算(300単位/月)が新設される予定です。このように新設予定の加算を見ても2021年の介護報酬改定の方針として、自立支援や重度化防止を推進していることがうかがえます。
報酬改定の方向性|介護人材の確保や現場の環境向上
老人福祉・介護事業では、長年深刻な人手不足に悩まされています。今いる人材の流出を防ぐためにも、新たな介護人材の確保や現場の環境向上は急務です。今回の介護報酬改定でも明確な方向性として介護人材の確保や現場の環境向上について示されています。
たとえば、通所介護・地域密着型通所介護の基本報酬引き上げもそのひとつです。老人福祉・介護事業は、過酷な労働環境であるにもかかわらず、それに見合うだけの賃金が支払われていません。それも、介護職員の離職率の高さや定着率の低さに繋がっています。基本報酬を引き上げることによって、介護職員の処遇改善や職場環境の改善に取り組むというのが目的です。
そのほかにも介護ロボットの導入による業務の効率化や提出文書を減らしたり、手続きを効率化したりするなど、介護現場における業務負担の軽減も推進される予定となっています。
状況に合わせた加算や運営基準の見直し
今回の介護報酬改定では、上記でもご紹介した口腔・栄養スクリーニング加算や自立支援促進加算にくわえ、科学的介護推進体制加算や栄養ケア・マネジメント未実施減算などが新設される予定です。
現在「通所介護サービスなどで利用者の同意をもとに2段階上位の報酬を算定できる」とする新型コロナウイルス感染症対応の介護報酬臨時特例は、3月で廃止されます。これは今回の改定で「感染症などで利用者が急減した通所介護サービスなどへの対応」という利用者の減少などで経営が不安定になった事業者へ、一定の支援がおこなわれるためです。
現場の環境向上を推進するためには、介護職員へのハラスメント防止対策の実施も必要とされています。実際、介護職員で過去に利用者からなんらかのハラスメントを受けたことがあるという職員の割合は高く、ハラスメント防止対策の実施は急務です。介護職員が安心して働ける職場を作り、離職防止や人材確保に繋げるためにハラスメント対策を含めた運営基準の見直しが検討されています。
介護報酬改定のポイントを押さえて環境改善を目指そう!
今回はデイサービスの閉鎖を中心に2020年の老人福祉・介護事業の倒産状況を解説しました。2020年に倒産したデイサービスなどの通所・短期入所介護事業者の件数は、全体の32.2%にあたる38件で、前年に比べ18.7%増加しました。
しかし、2021年4月の介護報酬改定では、自立支援・重度化防止の推進として加算が新設され、明確な方向性として介護人材の確保や現場の環境向上について示されています。まだまだ厳しい状況は続きますが、スムーズに報酬改定に対応できるようポイントを押さえておきましょう。
参照元:
東京商工リサーチ 2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況
東京商工リサーチ 2020年「老人福祉・介護事業」の休廃業・解散調査
厚生労働省 「01_自立支援・重度防止の推進」