【福祉現場のコロナ対策、どうしてますか?vol.3】現場を支える事務作業は、非対面でも質を下げないことが課題 #2
未曾有のコロナ禍。感染対策に頭を悩ませている介護・福祉施設は少なくありません。そこで、実際に働く方々に対策事例をインタビュー。コロナ対策のヒントを探っていきます。
今回は、訪問介護支援事業所「ケアプランニング結い」で、サービス提供責任者を務める池田陽子さんにインタビュー。前編は、マスクをしたままでもきちんと意思疎通が取れる話し方や、必携の感染対策グッズなど、実際に訪問介護の現場で行っている対策についてお聞きしました。
後編は、会議や家族との面談など、コロナ前まで対面で行っていた事務作業におけるコロナ対策についてお聞きします。
お話をうかがったのは…
ケアプランニング結い 練馬事業所
池田陽子さん
結婚・出産を経てホームヘルパーの資格を取得(その後、介護福祉士の資格も取得。ケアプランニング結いに入社して現在10年目。ヘルパーサービス営業責任者として、自身のホームヘルパー業務に加え、スタッフの取りまとめや訪問介護計画書作成などに取り組んでいる。
想定外の利用増でスタッフのやり繰りがピンチに
──ご自身もヘルパーとして訪問介護の現場に出ながら、責任者として事務作業もしているそうですね?
そうなんです。数年前から、ヘルパースタッフを取りまとめるサービス提供責任者として、訪問介護の現場を支える事務作業も行っています。作業内容は、ケアマネージャーの指針に沿って利用者さまごとに訪問介護計画書を作成するほか、利用者さまの日常生活全般を把握するためのアセスメントや、提供しているサービスがニーズに合っているか確認するモニタリング、社内外の会議など、多岐にわたります。
責任者は私のほかにも2人いるので、分担して行っています。
──現場と事務作業を両立するうえで、コロナ禍で影響を受けたことはありますか?
一回目の緊急事態宣言が始まった時は影響が大きかったですね。利用者さまも不安だったのか、デイサービスへ行かず自宅にこもる方が多くなって。昼食作りや食事の介助など、いつもは頼まれない曜日や時間帯の依頼が増えてしまい、シフトのやり繰りに苦労しました。
──具体的にどんな方法でシフトに穴ができないようにしていたのですか?
基本的にはいつも担当しているヘルパーで回すのですが、どうしても難しい時は私たち責任者が代わりに入って穴埋めしています。ただ、現場に出る時間が増えると今度は事務作業の時間が減ってしまうという悪循環で。責任者どうしで協力しながら、なんとか乗り切りました。
第二波以降は、「フレイル防止のためにもデイサービスに通って体を動かしましょう」という考えが広がっていたので、訪問介護にはほとんど影響がなくてホッとしました。
コロナ禍で多くの会議や研修が非対面に。あらためて気づく対面の良さ
──会議や研修など対面で行っていたものは、コロナ禍でやり方に変化はありましたか?
はい、人が集まる会議や研修は当面の間、控えることになりました。とくに影響があったのは、サービス担当者会議ですね。
これは、ケアマネージャーやデイサービス事業者、訪問介護事業者など、さまざまな介護事業者が利用者さまのご自宅に一堂に会して、サービス内容の確認と修正を話し合う、とても大切な会議なんです。この会議がコロナ禍で書面でのやり取りに変わったのですが、やはり直接会ってお話するのに比べ、細かいところがどうしても伝えきれなくて。顔を見ながらの対話を重ねる重要性にあらためて気づきました。
──オンライン会議は導入していないのですか?
利用者さまを交えての会議なので、オンライン会議をするための機器やインターネット環境を整えるのが難しいのが現状です。そのぶん、書面のやり取りでもなるべく意図がきちんと伝わるよう、書き方を工夫したり電話でフォローしたり、試行錯誤を続けています。
ただ、新規の利用者さまについては、例外的に従来どおり対面式で行っています。はじめにコミュニケーションをしっかり取って、お互いの信頼関係を構築することが、よりよいサービスの提供に欠かせないので。
コロナ禍で増えるフラストレーションもさりげなく受け止めて
──コロナ禍になって1年以上たちますが、利用者の方々のニーズに変化はありますか?
きちんとした感染対策を継続して行ってきたことで、幸いなことにコロナ禍でも特に大きな不安や心配の声を受けることもなく、サービスを提供できています。ただ、終わりが見えず、利用者さまやご家族のなかにはストレスを抱えている方もいると思います。そうした気持ちも汲みながら接するようには心がけていますね。
──利用者さまの生活だけでなく気持ちにも寄り添う、大変なお仕事ですね。
人間どうしなので、最善を尽くしてもすれ違ったり、お叱りを受けたりすることはあります。その時は落ち込みますが、利用者の方々は人生の先輩ですから、まずはしっかり受け止めて、次につなげるようにしています。ベテランヘルパーのなかには、そういった目に見えない部分の対応が本当に上手な人が多くて。利用者さまの性格に合わせて言い方を変えたり、叱られることも想定のうえで接したり、参考になることが多々あります。
上長やケアマネージャーも一体となってヘルパーの地位を守る仕組みを構築
──コロナ禍で何かと制約が多いなか、ヘルパースタッフの育成はどのようにしていますか?
集まっての研修ができないぶん、個々に対面で行ったり、書面でレクチャーしたりして補っています。
ただ、コロナとは関係なくいつの時代もそうなのですが、介助の方法は手順書で教えられても、一番大切な対人スキルについては経験がものをいうので、なかなかうまく教えてあげられないのがジレンマで。会って伝える機会が減っている今は、とくに悩ましいですね。
そもそも育成の前段階として、慢性的な人手不足でなり手が少ないのも長年の課題です。
──人材不足や育成面の課題について、どんな対策をお考えですか?
この数年、介護業界では利用者さまからの「カスタマーハラスメント」が問題になっています。他の事業者さんの話ですが、コロナ禍による利用者側のストレスが原因でトラブルになった事例も耳にしますので、こうした現状がヘルパーのモチベーションを下げるきっかけになっては悲しいなと。
弊社では、訪問介護の現場で困ったことがあったら、上長やケアマネージャーが間に入って調整する流れを作り、客観的な視点でヘルパーの立場を守る仕組みを導入しています。
──つねに一人で現場に入るヘルパーさんにとっては心強いですね。
少しでも安心して働ける支えになったらいいなと思います。それから、ヘルパーの仕事は誰でもできると思われがちですが、実際は高度なスキルが必要。そのことをもっと皆さんに知ってもらい、ヘルパーの地位を高めていきたいですね。
大変なことも多いですが、利用者さまから「ありがとう」「助かるよ」と言われると励みになりますし、「もっといい仕事がしたい」と思える瞬間がたくさんある、魅力的な仕事です。引き続きコロナ対策をしっかりして、これまで以上に安心して利用してもらえる事業所を目指したいですね。
コロナと向き合いながら働く「ケアプラニング結い」ならではの取り組み
1. コロナ前から蓄積してきた感染症対策をブラッシュアップ
2. 事務作業は対面・非対面を状況に応じて使い分ける
3. 現場に一人で出向くヘルパーが安心して働ける仕組み作り
現場と事務作業、両方の実情に合った感染対策を行い、利用者からもスタッフからも信頼される、池田さんのコロナ禍のお仕事。ぜひ参考にしてください。
▽前編はこちら▽
【福祉現場のコロナ対策、どうしてますか?vol.3】訪問介護に必須の感染症対策。だからこそコロナ前より注意深く、念入りに #1>>
取材・文/池田 泉
撮影/高橋 進
Information
住所:東京都練馬区東大泉3-22-15 シンフォニープラザ1F
TEL:03-5933-2100(9:00~18:00 土・日・祝日・年末年始は休み)