作業療法士の国家試験とは?概要や試験難易度、キャリアプランについて紹介
作業療法士になるためには、作業療法士国家試験に合格する必要があります。しかし、国家試験の具体的な内容については、詳しく知らない方もいるのではないでしょうか?
作業療法士とは、日常生活における基本的・応用的な動作のリハビリや精神的なサポートをし、利用者の生活の質(QOL)の維持・向上を目指す仕事です。
今回は、作業療法士国家試験の概要や難易度、合格後のキャリアプランについて確認した上で、国家試験合格に向けた具体的な準備方法について見ていきましょう。
作業療法士(OT)の国家試験とは? 概要を紹介
ここでは作業療法士の国家試験について、試験内容や受験資格といった内容から手続きに関する一連の流れなどをご紹介します。
試験の詳細をあらかじめ把握しておくことで手続きの不備をなくし、試験対策に集中できるようにしておきましょう。
厚生労働省|作業療法士国家試験の施行
作業療法士国家試験は厚生労働省が管轄しており、毎年PTと呼ばれる理学療法士の国家試験と同じ流れで実施されています。
現時点(2023年6月時点)では、2024年実施予定の第59回国家試験の概要が公示されています。そのため、前回の第58回実施分のデータを参考にしながら、試験の概要を説明していきます。
1. 試験日|筆記試験・口述試験および実技試験
第58回の国家試験では、筆記試験が2023年2月19日(日曜日)、口述試験および実技試験は2023年2月20日(月曜日)に実施されました。そのため、第59回の試験も同様に2024年2月ごろに実施される予定です。
筆記試験はほとんどの受験者が受けることになりますが、重度視力障害者は、口述試験・実技試験を受験します。
2. 試験地|東京・大阪など
第58回の試験は、筆記試験が北海道・宮城県・東京都・愛知県・大阪府・香川県・福岡県および沖縄県に試験会場を設けています。
筆記試験は全国に数カ所設置されますが、受験対象者の異なる口述・実技試験については、東京のみでしか実施されません。
3. 試験科目・試験方法
作業療法士の国家試験では、筆記試験もしくは口述と実技の試験がおこなわれます。大部分の人は、筆記試験を受けることになるでしょう。
つづいては、試験科目や方法とあわせて、どんな人が口述・実技試験の対象になるのかも説明していきます。
筆記試験|一般問題・実地問題
作業療法士国家試験の出題範囲は、令和6年度試験から下記のように変更されます。
見出し | 大項目 |
Ⅰ.人体の構造と機能及び心身の発達 | 1.解剖学
2.生理学 3.運動学 4.人間発達学 |
Ⅱ.疾病と障害の成り立ち及び
回復過程の促進 |
1.医学概論
2.病理学概論 3.臨床医学総論 4.リハビリテーション医学 5.臨床心理学 6.精神障害と臨床医学 7.骨関節障害と臨床医学 8.慢性疼痛と臨床医学 9.中枢神経の障害と臨床医学 10.末梢神経・筋の障害と臨床医学 11.小児の障害と臨床医学 12.内部障害と臨床医学 13.がん関連障害と臨床医学 14.老年期障害と臨床医学 15.その他の障害と臨床医学 |
Ⅲ.保健医療福祉とリハビリテーションの理念 | 1.保健医療福祉
2.リハビリテーション概論 |
Ⅳ.基礎作業療法学 | 1.作業療法の基本
2.作業療法の範囲 3.作業療法学の基礎 |
Ⅴ.作業療法管理学 | 1.職業倫理
2.職場管理 3.教育 4.法規・関連制度 |
Ⅵ.作業療法評価学 | 1.目的
2.時期と手順 3.心身機能、身体構造 4.基本動作 5.活動、参加 6.背景因子等 7.義肢、装具、支援機器、自助具等 8.疾患、障害 9.保健、予防 |
Ⅶ.作業療法治療学 | 1.基礎
2.心身機能、身体構造 3.基本動作 4.活動、参加 5.背景因子等 6.義肢、装具、支援機器、自助具等 7.疾患、障害 8.保健、予防 |
Ⅷ.地域作業療法学 | 1.基礎
2.評価と支援 3.安全管理 |
Ⅸ.臨床実習 | 1.実習前準備
2.医療提供施設実習実施内容 3.地域実習実施内容 4.実習後評価 |
引用元:厚生労働省:理学療法士作業療法士国家試験出題範囲基準 令和6年度版
令和6年度の第59回試験からは、試験の出題範囲が変更される点を覚えておきましょう。
口述試験および実技試験
口述試験および実技試験は、筆記試験を受けない重度視力障害者のみが受験対象です。また、出題科目は、筆記試験の実地問題と同じとなっています。
引用元
厚生労働省:作業療法士国家試験の施行
4. 受験資格|大学や専門学校などで3年以上の勉強が必要
作業療法士の国家試験では受験資格が定められていますが、実務経験の有無は問いません。
具体的な受験資格としては、高校卒業後に国が指定した作業療法士養成課程のある大学・短大・養成施設などで3年以上勉強し、必要な知識や技能を修得して卒業する必要があります。
5. 受験手続き
願書をはじめとした受験書類は、第58回では2022年12月14日(水曜日)から2023年1月4日(水曜日)までの提出期間でした。
第56回・第57回とも新型コロナ感染症対策のため、作業療法士国家試験運営本部事務所への郵送による手続きが推奨されていましたが、直接支店への持ち込みも可能です。
提出に必要な書類の例
受験手続にあたって提出が必要な書類としては、国家試験の願書や顔写真、返信用封筒などがあります。これらは、受験者全員が提出しなければなりません。
その他に、修業証明書もしくは修業見込証明書又は卒業証明書もしくは卒業見込証明書か、外国で資格取得した場合は作業療法士国家試験受験資格認定書の写しが必要となります。
受験手数料|10,100円
第58回の受験手数料は10,100円で、受験願書に収入印紙を貼り付けて納付という形でした。この際収入印紙には消印しないこと、願書を受理して以降は返金されない点は注意しておきましょう。
6. 合格発表日
第58回試験では、2023年3月23日(木曜日)午後2時に合格発表されました。厚生労働省ホームページ内の試験情報のページに、合格者の受験地および受験番号が掲載されています。
第58回の受験要項はいつから取り寄せできた?
第58回の試験は2022年9月21日に公示され、10月下旬以降受験要項および願書の配布が開始されました。
そのため、これから実施される第59回試験も、前回と同様10月下旬から配布されると思われます。各養成施設で入手できるほか、作業療法士国家試験運営本部事務所・臨時事務所、厚生労働省などでも入手可能です。
作業療法士国家試験の合格率はどれくらい? 合格基準について紹介
国家試験としておこなわれる作業療法士国家試験ですが、どのくらいの合格率なのかを過去数回分ご紹介します。
また、作業療法士の国家試験は合格基準もあらかじめ公表されているので、その基準も確認しておきましょう。
第58回の合格率は83.8%!
作業療法士国家試験の合格率は、8割前後という高水準で推移しています。直近で実施された第58回作業療法士国家試験の合格率は、下記のような結果となっています。
出願者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
作業療法士 | 5,938人 | 5,719人 | 4,793人 | 83.8% |
引用元:厚生労働省:第58回理学療法士国家試験及び第58回作業療法士国家試験の合格発表について
直近5年間の合格率の推移を紹介
直近5年間の作業療法士国家試験の合格率の推移は、下記のとおりです。
第54回 | 第55回 | 第56回 | 第57回 | 第58回 | |
合格率 | 71.30% | 87.30% | 81.30% | 80.50% | 83.80% |
引用元
厚生労働省:第58回理学療法士国家試験及び第58回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省第57回理学療法士国家試験及び第57回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省:第56回理学療法士国家試験及び第56回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省:第55回理学療法士国家試験及び第55回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省:第54回理学療法士国家試験及び第54回作業療法士国家試験の合格発表について
第54回試験の合格率が71.3%と落ち込んではいるものの、平均的に合格率が8割を超える試験で、受験要件さえ満たしていれば、誰でもチャレンジしやすい試験だといえます。
合格基準点はどれくらい?
第58回試験の合格基準点は、総得点で278点満点中168点以上、実地問題で120点満点中43点以上となっています。一般問題は1問1点、実地問題は1問3点の点数配分です。
厚生労働省のHPから過去問をDLできる
過去問題は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。午前の部・午後の部とに別れた過去問題と正答がわかり、過去実施された各回の試験内容を振り返れるのが魅力です。
また、市販の過去問題集を購入して、試験対策するという手もあります。
引用元
厚生労働省:第58回理学療法士国家試験、第58回作業療法士国家試験の問題および正答について
作業療法士国家試験に合格後のキャリアプラン
作業療法士国家試験に合格したら、どのようなキャリアプランを思い描けばよいのでしょうか?作業療法士としての将来像を明確にして、国家試験合格に向けたモチベーションの維持・向上に役立ててみましょう。
専門性をもったスペシャリストを目指す
作業療法士になったら、職場や生涯学習制度でさらに専門的な内容を勉強し、実務経験を積み重ねることで、専門性を高めていくことができます。
生涯学習制度の中で有名なのは、一般社団法人 日本作業療法士協会が実施している研修制度です。特定の基礎研修や講習会に参加することでスキルアップをはかれ、認定作業療法士や専門作業療法士などの、さらなる上位資格の取得も目指せます。
将来的に特定の専門分野で知識やスキルを磨いて、職場でより責任のある立場を任されたり、有利な条件で転職したりしたいと考えている方におすすめのキャリアプランです。
引用元
一般社団法人 日本作業療法士協会:生涯教育制度改定 2023 の概要
スタッフを統括するジェネラリストを目指す
作業療法士を束ねるリーダーとして、スタッフを統括するジェネラリストというキャリアを目指すケースもあります。ただし、他のスタッフを統括する立場になるためには、同じ職場で長い職務経験を積む必要があります。
また、ジェネラリストとして現場の業務管理や経営に携わるには、人のマネージメントや経営スキル、他者とのコミュニケーションスキルを伸ばす必要があり、現場の仕事とはまた違った難しさがあるでしょう。
ジェネラリストもキャリアアップの一つの選択肢として、考えておくのがおすすめです。
作業療法士国家試験の概要とキャリアプランを確認して、希望するキャリアを実現しよう!
今回は、作業療法士国家試験の概要や合格難易度、試験合格後のキャリアプランについて紹介しました。作業療法士になるための試験内容は、令和6年度から変わります。合格難易度は例年8割前後で、きちんと準備と対策を講じていれば十分合格できる難易度です。
資格取得後は、特定の分野のスペシャリストを目指したり、ジェネラリストとして他のスタッフを統括する立場で活躍したりなど、自分自身が希望するキャリアプランの形を選択していきましょう。
引用元
厚生労働省:職業情報提供サイト:作業療法士(OT)
厚生労働省:理学療法士作業療法士国家試験出題範囲基準 令和6年度版
厚生労働省:作業療法士国家試験の施行
厚生労働省:第58回理学療法士国家試験及び第58回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省第57回理学療法士国家試験及び第57回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省:第56回理学療法士国家試験及び第56回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省:第55回理学療法士国家試験及び第55回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省:第54回理学療法士国家試験及び第54回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省:第58回理学療法士国家試験、第58回作業療法士国家試験の問題および正答について
一般社団法人 日本作業療法士協会:生涯教育制度改定 2023 の概要