理学療法士はすごくいい仕事。だからこそ、自分に優しく!【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.55 理学療法士 尾形竜之介(オガトレ)さん #2】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
前回に続き、チャンネル登録者数100万人を超える人気ストレッチ系YouTuber「オガトレ」こと尾形竜之介さんにインタビュー。中編となる今回は、尾形さんが理学療法士、トレーナーというヘルスケアに関わるお仕事に感じる魅力や、これから目指そうとしている人へのアドバイスをお聞きします。
お話をうかがったのは…
理学療法士・ストレッチ系YouTuber 尾形竜之介さん
株式会社OGATORE代表。理学療法士、トレーナー。宮城県気仙沼市在住。市立病院で理学療法士として実務を経験後、体の不調をもっと身近に解決できる手段を提供したいとの思いで、2019年からYouTubeを開始。ストレッチ系YouTubeチャンネルでは登録数日本最大級(100万人超)。
YouTubeチャンネル:「オガトレ」
関わった子どもたちの「ありがとう」と成長がうれしい
――理学療法士になる前と働き出してからで、イメージのギャップはありましたか?
理学療法士は医療従事者なので、固い仕事というイメージがありました。でも実際に働き出してみると、思ったより固くないというか、部活っぽいなという印象でした。理学療法士は一緒に体を動かすことが多いので、堅苦しい感じではなく賑やかな感じでリハビリを進めることもあるんです。だから働く時間が楽しい雰囲気で、和気あいあいとしているのは、ちょっと意外でしたね。
――理学療法士やトレーナーのお仕事の魅力は?
直接自分だけに「ありがとう」と言ってもらえるというのが、すごく魅力だったと思います。誰かの力になれているんだという実感が湧きますし、その人に対して一生懸命考える時間は一対一の関係性をすごく深めてくれます。
とくに子どもたちは本当に正直なので、子どもたちからの「ありがとう」ほど嘘がないものはありません。だから言われたら本当にうれしい。そして子どもたちと関わっていくなかで、成長を感じられることもうれしくなるんですよね。
例えば小学校のときに関わった子が「高校に受かりました」とOBとして来たり、地域の選抜で関わった子が今度は県の選抜で再会したりするんです。がんばったんだなぁと思って、自分がその子に対してしたことが、ひとつでも成長のきっかけになっていたら、この上なくうれしいなと感じていました。
現場での経験はYouTubeでの動画配信にも役立っている
――理学療法士、トレーナーとしての現場での経験がYouTubeにつながっている点は?
実は僕、高校を卒業するまで話下手だったんです。初対面の人と話すのが苦手で、とくにおじいちゃんおばあちゃんとは何を話したらいいかわからなくて。
現場で働き出してから、本当にいろんな人と関わりました。子どもからご年配の方までいろんな年代の方と関わりを持ち、ボランティアとしてトレーニングをしてもらうためのやりとりや、体育会系の厳しい指導者の下で動いたりといった経験のなかで、「誰にも嫌われない話し方」みたいなものが身に付いた気がします。
いろんな方に見ていただくYouTubeだからこそ、話の仕方はすごく大切です。そこで意識してキャラを作ったりせずに話せているのは、現場での経験が活かされているなと思います。
――ヘルスケア事業者が動画配信をするときのアドバイスをお願いします。
まずは、根拠のないことは言わないこと。動画はすごく影響力の強いものです。でも受け取り手の解釈がバラバラになりやすい面もあります。だから曖昧なことを言うといろいろな捉え方をされてしまい、自分が思ってもいないような反応を受けることもありますし、被害を受けることもあるんです。
また「いろんな人が見ている」ということを、しっかり理解することも大切です。読解力の違いもありますし、ネガティブな受け取り方をする方もいらっしゃいます。例えば「デブ」といった直接的な言葉を使うと自分が攻撃されたと感じて傷つく人もいるし、「女」と言うと女性軽視と捉えられたりする。多方面に気を遣いながら動画を撮ることが大事なんです。
とにかく誰かを傷つけてしまう可能性のある動画は出さない。これがヘルスケア部門では、とても重要なことだと思います。
自己犠牲ではなく「一緒に頑張る」という意識で
――これから理学療法士やトレーナーを目指す方にアドバイスをお願いします。
まず伝えたいのは、めちゃめちゃいい仕事なので、ぜひ一生懸命勉強して、自分が目指す理学療法士、トレーナーになって欲しいということです。
その上で。人を幸せにするすごい仕事な反面、一生懸命になりすぎると自分が幸せではなくなることもあります。誰かを幸せにしようと思ったときに、自分を犠牲にする人は多い。でもそれは長く続かないし辛くなってしまうから、自己犠牲の気持ちではなく、あくまで「一緒に」いい方向に進んでいく、「一緒に」頑張るという方向で、努力を積み上げていってもらえたらと思っています。
――勉強しておくといいこと、経験すると役立つことはありますか?
自分が体を動かすことですね。理学療法士が他の指導者と違うのは、自分が経験したことのないことを教えなきゃいけない、ということです。骨折したことがなくても骨折のリハビリをしなきゃいけない、脳を損傷したことがなくてもやらなきゃいけない…。自分の経験値としてないものを、教科書の知識で伝えなきゃいけないので、どうしても気持ちを汲み取りにくいところがあるんです。
共感できないことはやっぱり不利なので、せめて体を動かす人の気持ちや、きついトレーニングをする人の気持ちみたいなものは、常々味わっておくといいと思います。
――尾形さん流「理学療法士・トレーナーの心得3か条」を教えてください。
1.人に優しく
2.自分に優しく
3.社会に優しく
「人に優しく」というのは、ヘルスケア事業者として仕事の基盤となるものです。ただそれだけだとやっぱり長く続かないし、やりがいを失うときもあるので「自分にも優しく」しましょう。自分があってこその他者ですから。それらが上手くまわると、結果的に自分や他者以外の社会全体のことも優しくできるようになります。
そうなれるように、人、自分、社会に優しくあれということを大切にしています。
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自分を犠牲にしてしまいがちなヘルスケア事業者に向け、「自分に優しく」というメッセージをくれた尾形さん。長くヘルスケアのお仕事に携わるためには、「自己犠牲でなく一緒に頑張る」という視点はとても大切なことだと感じました。次回後編では、ストレッチ動画に対するこだわりや、近年取り組まれている「オガトレ塾」「GI by OGATORE」に込められた想いについてお聞きします。
取材・文/山本二季