セラピストは人に貢献することで社会貢献までできる仕事【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.42 MTI 國分利江子さん #2】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
前回に続き、「マッサージセラピー・インスティテュート(MTI)」を開校した國分利江子さんにお話しを伺います。前編では、國分さんがセラピスト教育に尽力する理由と、「MTI」の構想についてお聞きしました。
中編となる今回は、國分さんが感じるセラピストの仕事の魅力や大変さ、セラピストを目指す人へのアドバイスをお聞きします。
今回お話を伺ったのは…
アメリカNY州政府認定マッサージ・セラピスト 國分利江子さん
ホリスティック医学に基づくマッサージセラピーを学ぶため、2001年アメリカの名門校Swedish Instituteに入学。NY州政府認定のマッサージ・セラピストのライセンス試験に合格。2006年に帰国後、Body(身体),Mind(心),Spirit(魂)を調和するメソッド『BMS Therapy』を創設。2008年にスクールを開校し、世界水準の教育を日本のセラピストに提供する傍ら、雑誌『セラピスト』の連載や特集などを通して広くセラピストの育成に尽力する。2021年「マッサージセラピー・インスティテュート(MTI)」の構想を立ち上げ、クリエイティブ・ディレクター兼校長に就任。
自分の体さえあれば、いつでもどこでも社会貢献ができる
——國分さんが感じるセラピストの仕事の魅力を教えてください。
社会にはいろんな職種の人がいて、すべての人に果たしたい夢ややりたいことがある。それを一緒に実現するお手伝いが、セラピストにはできます。
仕事で社会貢献すると考えた時に、一番ダイレクトなのが「人に貢献する」ことで、それが一番大事なことでもあると思います。社会は「人」で作られていますから、その1人1人が健康で元気で前向きなパワーにあふれていたら、社会で起きるすべてがいい方向に向かうんじゃないかなって。
セラピストの仕事で人に貢献すれば、結果としてすべてのことに貢献できる。それってすごいことだなと思います。
私は、子供の頃から、人が生まれてくるのは、まずは自分自身が幸せになることであり、次に大切なのは家族の役に立つこと、そして社会貢献だと思っていました。中学の時にマザーテレサに手紙を書いて、子供の自分にもできる小さな活動を始めました。大人になってからは、ネルソン・マンデラさんの影響を受けました。アフリカで海外援助の仕事につき、NGOの現地事務所代表として人々と共に働きました。NY在住の時には、ダライ・ラマにも個人的にお会いしました。それらの豊富な実体験から「価値観が違う他者とともに、平和な社会をつくることができる」と実感したんです。これが、私の、セラピストとしての究極のゴールとなりました。ですから、MTIの生徒たちとともにその道を歩んで行きたいと思っています。
——セラピストを仕事にするメリットとは?
体があれば、どこででも仕事ができるのはメリットかなと思います。私がセラピストになると決めた時のイメージが「フライング セラピスト」と言うんですかね、飛行機でどの国にでも飛んでいって施術する自由でダイナミックなイメージ。
独立して仕事をする時って、必ず資本や物が必要ですよね。例えば歯医者さんなら、たくさんの機材や薬が必要になったり、人を雇ったりする場合もあります。でもセラピストの仕事は、自分の体があって施術できる空間があれば、どこでもできる(勿論、その国の法律によって制限はありますが)。
そんな身軽で自由な仕事って、なかなかないですよね。セラピストって就業率の99%が女性と言われているんです。ライフステージが変わりやすい女性にとっても、知識と技術さえあればどこでも仕事ができるセラピストは、メリットが大きいと思いますよ。
自分が理想とするセラピストで在り続けたい。それには努力も必要
——逆にお仕事の苦労や大変さはありますか?
セラピストは、常に自分をベストの状態に整えておく必要があると思います。クライアントのために働くには、自分自身が良い状態にあることが大切ですから。その点は、苦労ではありませんが努力が必要ですね。
やっぱり人間ですから、自分の人生でもいろんなことが起きます。でも、セラピストの仕事は「クライアント・センタード」であることを、アメリカの大学では最初に教わります。
直訳すると「お客様主義」の様に聞こえますが、実は違います。これは、お客様のために自分が常に100%の状態で居る実践をして、そこから毎日仕事をするという意味。私は「職業としてのセラピスト」ではなく「生き方としてのセラピスト」ということを提唱しています。そのベースにあるのが、クライアント・センタードの意識です。
それは感情の起伏を隠すということではなく、表も裏もなく本当にオーガニックな人間観を自分の中から取り出していく作業。心身の健やかさを理解し、素直に自然な生き方をしていくことで、その生き方をクライアントにも勧められるようになるんです。
——「クライアント・センタード」初めて聞きました。
日本ではまだ知られていませんが、セラピストのライセンスを作っている厚生労働省と教育省がまとめた「セラピストとはこういうものですよ」という指針が、アメリカの大学にはあるんです。
その1番目が「クライアント・センタード」。そして2番目が、専門家としての知識や技術を責任を持ってバージョンアップし続けることです。
一度勉強して資格を取ったら終わりではなく、常に継続してレベルアップ、スキルアップをしていくのがプロのセラピストです。その2つを実践していくことが、セラピストの在り方。
「完璧に」なんて目指さなくていいんです、人間ですから。ただ、この意味を深く理解し実践していく……それが自分自身をセラピストとして育てる道でもあり、そのプロセス一歩一歩に、豊かな価値があると思います。
確かな知識と技術を手に入れて「自分が頼れる自分」へ
——これからセラピストを目指す方にアドバイスをお願いします。
私がここまで来られたのは、最初に大学レベルの勉強を選んだからだと思います。私は学生時代に9.11同時多発テロ、スクール立ち上げ後には東日本大震災を経験しました。コロナ禍もそうですが、人生にはいろんなことが起こるけど、何があっても経済的に自立して安心して生きていける職業をもつことは大切だと思います。特に大変なことが起きた時には、「自分さえいれば大丈夫!と思えるような自分」の存在があることはとても大切です。
だからこそ中途半端ではない知識と技術を持つことが重要。「一生通用する勉強」を最初にすることは、プロの職業人としての道を作る礎になります。従来のリラクゼーションのセラピストは、マニュアルの型のある初歩的なリラクゼーションの施術を行っています。でも、私は、①解剖学の知識とマッサージセラピーの専門性の高い知識と技術、②アセスメント(姿勢の評価・分析)、③S.O.A.P.プラン(個々のクライアントに合わせた施術プラン構築)、④おもてなし接客をするセラピストでなく、「ヘルスプロフェッショナル(健康の専門家)」を、ぜひ目指して欲しいです。
初めから速いスピードで基礎を作りたい初心者の方は勿論ですが、既にセラピストとして働いている方こそ、この専門的な勉強を求めていらっしゃると思います。後輩に抜かれてしまわないように。今までの基礎の上に、この専門的な勉強でバージョンアップして頂きたいです。
——ありがとうございました。今後の展望を教えてください。
当面は「MTI」に集中して、日本で最高のオイルマッサージ教育を提供します。このスクールは、日本のオイルマッサージの世界で、今までにない歴史的な学校になると思うんです。
「MTI」の授業では、レベル2では消化器系や婦人科系、循環器系など「系」の勉強をします。そこではそれぞれ専門の医師や理学療法士などの専門家の協力を得て、何らかのかたちで参加いただける仕組みを作る予定です。
またレベル3では、オイルマッサージの施術例のデータバンクを作り、マッサージセラピーの有効性をデータとして蓄積し発表していきたいと思っています。それは、これまでのリラクゼーションの型のある施術では考えられなかった方法です。でも筋解剖学をベースとしたアセスメントができて、クライアントごとに症状解決のためのプランを作ることが可能になります。そんな、日本初の、セラピストの研究者コミュニティーをつくって地位を向上させたいと思っています。
そこまでできれば、セラピストの日本での存在価値がぐんと変わるはず。そこを目指して「医療とセラピーの架け橋」をつくり、セラピストの地位を高めるためにできることを、どんどんやっていきたいです。
そして、そこから更なる次の目標は、子供の頃からやっている平和のための活動です。セラピストになったのも、単に「癒し」に興味があったのではなく、セラピストの仕事を通して平和な社会をつくることに貢献したかったからなんです。これは私1人ではできないので、MTIの仲間とともに色んな活動をしたいと、今から心に夢を描いています。
クライアントの体を改善することはもちろん、日本のセラピストを高めたいという國分さんの考えは、大きな視点で未来を見つめるものでした。次回は國分さんが「MTI」で教えてくれる手技をチラッとご紹介。世界水準のアセスメントと、セラピストの体まで考えた施術のこだわりを教えていただきます。
取材・文/山本二季
撮影/高嶋佳代
Imformation
マッサージセラピー・インスティテュート
https://massagetherapy.jp/