患者と長い付き合いになる柔整師には情熱が必要です【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.49 柔道整復師 安達大恭さん #2】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
前回に続き、2021年医療オリンピックC-1特別大会で「刺鍼王」と「矯正王」の2冠を達成した、ジェッツ西船整骨院の院長 安達大恭さんにインタビュー。前編では、安達さんが柔道整復師になった理由と、これまでの道のり、現在の働き方を教えていただきました。
中編となる今回は、安達さんが柔道整復師のお仕事に感じるやりがいや大変さ、柔道整復師を目指す人へのアドバイスをお聞きします。
お話を伺ったのは…
柔道整復師・はり師・灸師 安達大恭さん
ジェッツ西船整骨院 院長。高校卒業後、専門学校にて柔道整復師、鍼灸師の資格を取得。2012年、株式会社シー・エム・シーに入社。1年目に最優秀新人賞、2年目に最優秀メインセラピスト賞を獲得し、2016年「ジェッツ西船整骨院」院長に。グループ内教育部門で講師も担当している。
良くも悪くも自分のしたことがダイレクトに返ってくる仕事
──安達さんが、このお仕事に感じる魅力ややりがいを教えてください。
いっぱいあるんですが、一番大きいのは自分の知識や技術、あるいは人間性といった部分で勝負ができるところだと思います。自分がしたことが、そのまま患者さんの体の症状や変化として出てきますし、表情や言葉といったものでも評価として伝わってきます。
だから治療が上手くいったときには、役に立てたという実感が湧くんですよね。治療に当たる都度、こまめに喜びとやりがいが感じられるのも魅力だと思います。
──逆に大変さを感じるのは、どんなときですか?
患者さんへの施術がそのままダイレクトに自分の評価につながる分、上手く治療に当たれないうちは怒られてばかりでしたね。とくに入社して最初のうちは落ち込むことがいっぱいありました。自分の技術が足りないことが原因ですから、やはり勉強や練習は常にしておかないといけないなと思います。
──そこで退職してしまう若手の方も多そうですが、
乗り越えるにはどうしたらいいと思いますか?
自分が一体何をしたくてこの仕事を始めたのか、という目的意識を最初にきちんと持っておくと簡単には折れないんじゃないでしょうか。どういうものを提供して何を得ようとしているのか。それを考えたら大変さがあるのは当たり前というか、そのくらいすごい仕事なんだという情熱を持つことが大切だと思います。
ケガした時だけじゃなく、ケガ後までケアすることが大切
──柔道整復師になる前後でギャップを感じたことはありますか?
この業界に入る前は、柔道整復師はケガをみる仕事のみだと思っていました。ケガした部位を固定するとか、骨折した骨をつないで固定するという仕事をイメージしていたんですが、実際に働き始めてからはケガの後のほうが大事な仕事なんだなと気づきました。
ケガの後の体や心のケア、生活のアドバイスなど、ケガをしたときだけじゃなく患者さんの生活そのものにフィットした対応を求められる。思っていた以上に複雑で、やりがいのある仕事だなと感じました。
──患者さんとは、ケガのときだけでなく長いお付き合いになるんですね。
はい。ケガがよくなり痛みが改善されるまで、長いお付き合いになります。そのためにはモチベーションを保ちつつ通っていただくことが大切。だから患者さんが通院の必要性を理解できるように、きちんと説明するのも僕たちの仕事のひとつです。
ケガというもの、組織の修復がどういう過程でおこなわれるのかというのは、柔道整復師でもきちんと理解していない人がいるくらい難しい内容です。それを一般の方に伝わるように説明する必要があるというのも、働き出して気づいたことです。だから、どうしたら伝わるかというところから、勉強し直しでした。
自分だけが知っていればいいのではなく、患者さんに伝えて理解し納得してもらって通っていただく。それがすごく難しいことなんだなと感じましたね。
解剖を学び、体を知ることを楽しんで
──柔道整復師を目指す方にアドバイスをお願いします。
学ぶべきことは、まずは解剖学。解剖が頭に入っていないと話が始まらないので、徹底的に学んで欲しいです。
だから学生のうちは、暗記物をしっかり頭に入れること。部位の名前、支配神経、筋肉や神経の走行、体表解剖…。そういったものが頭に入っていないと、入社してから院長や先輩が何を言っているかわからないところスタートになってしまいます。
入社して1・2年であれば、解剖という単位での勉強から、少し実践的な学びにステップアップする必要があります。施術に入る際は、運動連鎖としてどういう風に体がつながっているのかを考えながら触れていくと良いと思います。
あとは言葉にする力も大切です。頭の中でイメージしている治療方針やケガの病態というものを、わかりやすく説明する言葉選びといった部分を、普段から意識して会話して欲しいなと思います。
──このお仕事を続けるためには、何が大切だと思いますか。
僕の場合は、「与えているものよりも得ているもののほうが大きい」という前提でいることを大切にしています。何かをしてあげているというより、患者さんの反応そのものが僕の生きがいになっているんですよね。
本当に好きでやっているから続けられているんだと思います。もともと体を鍛えるのが好きだったので、体のことを知ることがおもしろいんです。こことここがつながっているとか、ここを施術するとこんな変化があるとか、魔法みたいじゃないですか。そういう楽しみがあるのも続けられている理由だと思うので、楽しみながら仕事ができる方法が見つかるといいですよね。
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新人時代を乗り越えられた理由を聞くと、安達さんは「情熱」と答えました。その情熱が安達さんの原点であり、情熱を絶やさずに10年続けてきたということが強みにつながっているんだと感じました。次回は、そんな安達さんが積み重ねてきた技術にフォーカスして、お話をお聞きします。
取材・文/山本二季
撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)