自分の幸せと向き合うことで、お客さまももっと幸せに【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.70 /整体院蒼-AO- 吉川智也さん】#1
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、膝の悩みを専門に扱う整体院「整体院蒼-AO-」の吉川智也さん。効果的なセルフケアを紹介しているYouTubeチャンネル「恵比寿【膝痛専門】整体院蒼-AO-」は、登録者数3.5万人越え! 近隣だけでなく他県からも患者さんが訪れています。
前編では、整体師になったきっかけや、YouTubeの活動について伺いました。
一度は一般企業の営業職に就職。
「やっぱり整体の道に進みたい」と転職を決意!
――整体師のお仕事を目指すきっかけになったのは?
小学生の頃から、ずっとサッカーをしていたんですが、大学生最後の大会前に膝を怪我してしまったんです。お医者さんには、手術をしても大会までに間に合わないだろうし、今後サッカーができるまで回復するかどうかもわからない、と言われて……絶望しましたね。
とはいえ、手術後のリハビリはしなくちゃいけないので通院していたのですが、それを担当してくれた先生が、すごくパワフルな人で(笑)。「遊園地に行くより、俺と一緒にいた方が面白いよ!」って自分で言っちゃうような人。その先生に「俺が絶対治すから」って言われて、正直騙されたつもりで通っていたら、本当に回復して、大会にも出られたんです。
――すごいエピソードですね!
その時の喜びは、今でも忘れないですね。その後、一度は一般企業の営業職に就職したんですが、「やっぱり整体の道に進んでみたい」と思って、退職。整体サロンに就職しました。
そこでは6年働いて、2年目からは店長も任されていました。全国にチェーン展開している大きな会社でしたが、「もっと上を目指したい」と思い、独立したんです。
――独立して大変だったことはありますか?
今は移転したのですが、当時はもともと勤めていたサロンの近くで開業したので、既存のお客さんもある程度来てくれていました。とはいえ、やっぱりお金のやりくりが大変でしたね。いくら既存のお客さんがいても、新規集客できないと経営は成り立たないので、毎月「来月潰れるかも……」って思いながらやっていました。
――新規集客やリピーターの方を増やすためにやったことは?
経営塾に通いました。僕みたいな、ひとり治療院用の経営塾があったので、そこで経営のマインドを教えてもらいましたね。
――ちなみに「膝専門」をうたっているのも、その一つですか?
そうですね。専門を絞るのはお客さんの母数を減らすことになるので、場合によってはリスキーなんですが、コアな層を掴んだ方が、結果的に集客につながるのかなと思います。
例えば、何年も肩の痛みに悩んでいて、どこに行っても良くならなかった場合、「肩、腰、膝、なんでも対応します」っていうところより、「肩にすごく特化しています」というところを選ぶと思うんです。そういう他との差別化も大切かと。
と言いつつ、僕ももともとは普通の「整体院」として開業して、そのあと「腰痛専門」をうたっていました。というのも、整体院に通うお客さんのほとんどが腰痛のお客さんなので、「腰痛専門」をおした方がいいのでは、と経営塾で教えてもらって。
ただ、実際に施術していると、腰もそうだけど膝も痛いっていうお客さんがすごく多いと感じたんです。とくに僕が施術しているお客さんは50〜70代なので、両方悩んでいる人が多いんですよね。
でも、腰痛はある程度施術で改善できるんですが、膝の痛みはなかなかとってあげられなくて。一応調整はできるのですが、見立てが難しいし、施術のバリエーションが少ない。一度きちんと勉強しなくてはと、膝治療の勉強をするようになりました。
――どんな勉強をなさったんですか?
全国各地、有名な先生のセミナーに行きましたね。あと、海外の解剖実習にも行きました。日本でもあるにはあるんですが、法律などの関係でホルマリン漬けのご検体しか扱えないんです。それだと筋肉が固まってしまっていて、実際の筋肉とは違う。なので、もっとリアルな筋肉をちゃんと勉強できる、ハワイの実習に参加しました。
そうやって勉強したことをアウトプットするために、YouTubeで動画をアップしたんです。それまで、腰痛対策の動画も出していたんですが、膝の悩みを扱った動画の方がすごく伸びて。これは需要があるかもしれないと思い、整体院も「膝専門」に移行していきました。
わかりやすく、効果を感じやすいセルフケアを紹介して、
視聴者の「もっと見たい」「実際に施術を受けたい」気持ちを引き出す
――YouTube動画を作るときに意識していることは?
YouTubeでいくら動画をアップしても、見てくれる人がいないと始まらないので、当初は登録者数を増やすことに専念しました。そのためには、効果が出やすいセルフケアをわかりやすく紹介するよう心がけましたね。セルフケアって意外と難しくて、本来すごく効果があるケアでも間違った方法でやってしまうと「なんだ、全然効果ないじゃん、もう見ない」って思われるので……。とにかくわかりやすく、っていうのが重要です。
例えば、実際に僕の脚にマーカーで印をつけて「ここを押してください」って伝えたり、筋肉の名前や場所も、図解とかを用いて視覚的に伝えたり。撮影も編集も全て一人でやっているので、結構大変ですが……、今の所頑張って続けています。
YouTubeで集客をしているおかげか、近隣の方だけでなく、「実際の施術を受けてみたい」と、遠方から来てくださるお客さんも増えました。今の時代、集客には欠かせないツールになっていると思います。
今満たされていることにもしっかり目を向けることで、
次の新しいステップに挑戦するパワーが得られる
――セルフケア以外の動画も出していらっしゃいますか?
最近は忙しくなってしまって、なかなかアップできていないのですが、自分の考えや人生の価値観なんかを伝える動画もアップしていました。僕自身のファンを増やして、「そういう考えの先生の施術なら、信じて受けてみよう」という患者さんが増えればいいなと。
――例えば、どんなお話をされたんですか?
生きている上で大切にしていることとかですね。僕は仕事をしている上で「自分を満たす」っていうことも意識していて、その話とか。
というのも、僕自身が幸せじゃないとお客さんも幸せになれないと思うんです。例えば、僕が何かに追われていたり、焦っていると、「この人、仕事が楽しくないのかな?」とか「なんだか余裕なさそうだし、経営が苦しいのかな?」とか、お客さんにそれが伝わってしまう。だから、自分自身が幸せでいることを心がけています。
――すごく納得なのですが、ちょっと難しそうですね……。
ポイントは「今の自分は満たされている」ということを、ちゃんと自覚することですね。これは読んだ本の受け売りになっちゃうのですが、人間は100%物事に満足することができないんだそうです。足りていないものを補えば、新たな足りていないものに気づく。だからこそ、理想を求め続けることができるのですが、それだと、いつまで経っても満たされないですよね。
なので、求めるだけじゃなく、昔に比べて今が幸せであることも、ちゃんと自覚する。僕だったら、「独立して、ひとり治療院を経営できていて、夢が一つ叶った」ということでしょうか。そうすることで、何かに追われたり焦ったりすることなく、心に余裕を持って次のステップに進めると思うんです。
――なるほど、深いですね。ちなみにこれからYouTubeを始めようと思っている人にアドバイスをするなら?
先ほどのお話しした、整体院を経営するときは「○○専門」とうたった方が集客につながる、という話と少し似るのですが、広く浅い情報よりも、コアな層に刺さるような、何かしらに特化した動画をアップするのがいいと思います。
正直、あれだけたくさんの動画の中で、広く浅い情報を紹介しても「知ってるよ」とか「他の動画と同じじゃん」で終わってしまうと思うので、見てくれる人の母数は少なくても、すごく専門的だったり、ピンポイントな悩みに特化した情報を上げた方が、人気が出ると思いますよ。
整体師になったきっかけや、「膝専門」をうたうようになった理由など、せきららに語ってくれた吉川さん。「本当は、自分のことを話すのはあんまり得意じゃないんです」とおっしゃっていましたが、生きている上で大切にしていることのお話はとても興味深く、どんな業界で働こうとも向き合うべきお題なのかなと思いました。
後編では、1日の働き方やこの仕事のやりがい、今後の目標などを伺います。
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄