高齢者のQOLを高めるレクリエーション支援を広めたい【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.127 レクリエーション介護士/講師 小山久子さん】#1
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回は、音楽健康法に基づいた介護現場でのレクリエーションの普及に尽力している「レクリエーション介護士」小山久子さんにインタビュー。
前編では、小山さんが介護のお仕事を始めたきっかけと、レクリエーション支援に力を入れている理由を教えていただきました。
お話を伺ったのは…
レクリエーション介護士/講師 小山久子さん
英語教師として約10年従事後、実母の介護をきっかけに日本福祉大学に入学。福祉を基礎から学びつつ、高齢者施設にて音楽レクリエーション担当職員として勤務する。音楽レクリエーションの実績から、大学や各種学校にて福祉レクリエーションの講師や行政による介護予防教室の講師を担当。2015年より、ユーキャンの「レクリエーション介護士講座」開発に携わり、通学講座担当講師を務める。
実母の介護経験から職員の意識の大切さに気付き、
自身も音楽レクリエーション専門職員に
――まず介護のお仕事を始めた経緯を教えてください。
きっかけは、実母が60代で若年性認知症になったことでした。私は当時、英語教師として働いていて、最初は介護と仕事を並行していましたが、だんだんと母の日常生活が難しくなりましたので、退職して母の介護に専念することにしました。
当時はまだ「痴ほう」と呼ばれていた時代で、介護保険や世間の理解もなく、恥ずかしいこととして隠すように過ごしていました。しかし、母の病状も家庭の空気もどんどん悪くなり、私自身の精神状態も不安定になっていきました。
ある時、母を高齢者の集いに連れて行くと、久しぶりに母が笑顔になったんです。その様子を見て「私の作る空気が母のご機嫌を作り、母がご機嫌になれば私との関わりもよくなる好循環ができるのでは」と気づきました。そこで介護や認知症のことを忌み嫌うものとは考えず、真正面から学んでみようと思ったんです。
――そこから介護を学ばれ、お仕事にもされたんですね。
まずは学生時代にレクリエーションリーダーをしていた経験から、本格的にレクリエーションインストラクターや福祉レクリエーションワーカーについて学び、資格を取ろうと思いました。併行して、私自身も母も音楽を好きだったことから、音楽療法についても勉強しました。資格取得前に、とある施設に運よく音楽レクリエーション専門職員として採用され、そこで2001年から2015年までの14年間勤務しました。
――当時、音楽レクリエーション専門職員というのは珍しかったのでは?
そうですね。当時の福祉でのレクリエーションは、ほぼボランティアでまかなわれていて、力を入れている施設は少なかったと思います。私が採用していただいた施設は、当時の施設長が「それではいけない」と考え、専門職員というポジションを作って雇用するシステムを作ったようです。
でもその考えは職員に浸透しておらず、「遊んでお金をもらえていいよね」という空気でした。私がレクリエーションを始めても、誰も協力しない。人を集めてくださることは絶対になかったし、自分の力で移動できる方が「歌なら歌おうか」という感じで数人集まる程度でした。だから私の前任者も前々任者も1年しか続かなかったようです。
――そんな中続けられた理由は?
多分、母のことがあったからだと思います。施設にいる方々を大切にするということは、母を大切にしていることだと思えて、この時間を大切にしたいという気持ちがありました。それに私、当時の職員たちの対応が、あまり堪えないタイプなんです(笑)。
1~2年では無理でしたけど、気にせず続けていると職員もだんだんとこちらの方を向いてくれるようになりました。いつの間にか自分がなじんでいると感じられるようになってきましたね。
人脈の広がりから講演や講師活動がスタート。
「レクリエーション介護士」の資格立ち上げに参加
――講演や講師としての活動をするようになったきっかけは何ですか?
勤めていた施設はとても大きい施設で、地域包括支援センターの事務所などもあり、現場職員以外にも外部で活動しているスタッフがたくさんいました。その方たちが私の活動を見聞きしてくださり、地域包括支援センター職員の紹介で行政の介護予防教室講師をさせてもらったり、職員のクチコミで他の施設を紹介してもらい、勤務施設での年約330回のセッションにくわえて100回以上のセッション、つまり年間で400回以上のセッションをさせていただきました。またレクリエーションについて学んだつながりから、大学や専門学校でレクリエーション支援についての講座も担当するようになりました。
――小山さんは「レクリエーション介護士」講座もされています。参加した経緯は?
定年を1年後に控えたころ、レクリエーション協会でお世話になった先生方が中心となり、通信教育のユーキャンの新講座として「レクリエーション介護士講座」を立ち上げることになり、メンバーとして声をかけていただきました。そこで勤務していた施設の再雇用を辞退して、「レクリエーション介護士」という資格を作り上げることに参加しました。
――講座のスタートは2014年。当時の反響はいかがでしたか?
通信講座がスタートすると、すぐに人気講座になりました。人気のない講座はなくなっていくなか、今でも続いているということは需要があるんだと思います。また通信講座が始まってすぐ、リアルで学びたいという声も増えたので通学講座も始まり、私も講師として関わることになりました。そちらも現在でも続いています。
――改めて、「レクリエーション介護士」について教えてください。
「レクリエーション介護士」は、日本アクティブコミュニティ協会が認定している資格です。高齢者へ喜びやいきがいを与え、笑顔にできる介護スタッフ育成を目的として、高齢者とのコミュニケーション能力、レクリエーション知識や実行スキルを身につけられます。
資格開発当時は介護現場について何も知らないままレクリエーション活動をしている方がほとんどで、無料で来てもらっているからと施設側も何も指示を出せない状況だったのですが、それではお互いにいいことはないということで、介護現場でのレクリエーションについて知っていただこうと「レクリエーション介護士」をスタートしたそうです。
でも蓋をあけてみると、レクリエーションのネタに困った介護職員さんがたくさん受講してくれました。資料はいっぱいあったとしても、基本がわかっていないと活動が続かず、毎回苦労してしまう。ネタを探してさまよってしまうんですよね。それが多くの介護現場でのレクリエーションなんです。
みなさんの気持ちの動かし方や、1つの活動をどんなふうに広げていくか。そういったテクニックをお伝えすることで、現在も現場の方々に喜ばれています。
――10年近く介護現場で反響があるんですね。
資格取得者は3万人を超えたそうで、とても浸透してきているなと感じます。最近では吉本興業の芸人さんや、米朝協会の落語家さん、マジック会社のマジシャンの方々にも講座を受けていただいています。そのような方々も、ただのイベントとして介護施設に行くだけでなく、介護現場を理解したうえで活動しようという姿勢を持ってくださっており、嬉しく思っています。高齢者の方々を理解したうえでパフォーマンスをしたほうが、現場での反応もよくなりますから。
介護に特化したレクリエーションは
高齢者のQOL向上に欠かせないもの
――小山さんがレクリエーション支援に力を入れている理由は?
以前の介護現場ではADLという日常生活を送るために必要な動作において何ができるか、何ができないのかが優先されましたが、今はQOLという生活の質を向上させることが同じように大切にされています。
介護保険の施行後は、個々の利用者がサービスを選べるようになりました。そうした時代の変化から、個々の人権を尊重し、一人ひとりが日々の生活を潤いのある生きがいの持てるものにするためにも、レクリエーションの重要性を感じています。単なる娯楽や余暇といった意味ではなく、介護現場に特化したレクリエーションは、その方が生きる喜びを取り戻し、自分らしく生きていくためにも大切なものです。
そう考えるようになったきっかけは、やはり母の存在が大きいです。母はデイサービスに行っても、「おもしろくない」ととても怒って帰ってきていました。見学に行かせていただくと、定番の風船バレーをされていましたが、職員も利用者も無表情なんです。これでは確かに楽しくないし、もっと楽しくできるはずだと思いました。
そのためには職員の意識改革をしないといけないと感じると同時に、「改革してください」という前に私が伝えていくべきじゃないかと勝手に思い込んで、始めてしまいました(笑)。
ボランティアだとしても、「高齢者ならこれぐらいでいいだろう」という意識は違う。上手い下手ではなく、真剣さというのは伝わるということを、職員にもボランティアの方々にも知って欲しいと思って活動に取り組んでいます。
次回後編では、小山さんの現在の活動内容と、これから介護をはじめとするヘルスケアのお仕事を目指す方へのアドバイスをお聞きします。
取材・文/山本二季