常に選手と真剣に向き合うために『大分トリニータ』トレーナー・濱田勇太さんが心掛けていること(前編)
明治安田生命J1リーグ『大分トリニータ』所属のトレーナーとして活動している、濱田勇太さん。「スポーツ関係の仕事がしたい」(濱田さん)という思いから、トレーナーとしてのキャリアをスタートさせました。そんな濱田さんは、今や第一線で活躍するプロのトレーナー。日本のサッカーの最高峰J1の舞台でどんなキャリアを描き続けているのでしょうか?
今回お話を伺ったのは……
大分トリニータ・トレーナー 濵田勇太さん
福岡県出身。福岡リゾート&スポーツ専門学校・日本鍼灸理療専門学校卒業後、2009年にJFAアカデミー熊本宇城(くまもとうき)の初代アスレティックトレーナーに就任。株式会社ナズー、東海大学熊本サッカー部・東海大学付属熊本星翔高校サッカー部トレーナーなどを経て、Jリーグ(J1)の大分トリニータ所属のトレーナーとなり、現在に至る。
AFCアジアカップを観て「この場所で仕事がしたい」と思いました
―最初からプロサッカー選手ではなく、トレーナーを目指していたのですか?
僕は小さい頃からスポーツが大好きだったのですが、小学生のときは体が弱く、運動ができない時期があったんですね。それでそもそも「プロサッカー選手になりたい!」という夢は抱きませんでした。
その後はどちらかといえば文化系でしたし、本格的にサッカーに取り組み始めたのも人と比べて遅く、サッカー部に入ったのは専門学校の2年生、19歳のときでした。専門学校卒業後に就職したJFAアカデミーでは、コーチの元、選手たちに混じってプレイヤーとしての経験も積ませていただきました。
―そもそも、なぜトレーナーを目指されるようになったのでしょうか?
中学3年生の頃に日本代表が出場したAFCアジアカップを観て、「こういう場所で仕事をしたい」と思ったのがきっかけです。それからすぐに行動に移したわけではなかったのですが、高校卒業時の進路選択で「やっぱりスポーツ関係で働いてみたい」と思い立ち、専門学校に入学しました。そこでアスレティックトレーナーという資格を取得すれば、トレーナーとしてスポーツに関われることを知り、目指すようになりました。ちょうど卒業するタイミングがJFAアカデミー熊本宇城の開校と重なり、無事トレーナーとして採用していただきました。
トレーナーになってから気を付けるようになったのは「選手との距離感」、「整理整頓」でした
―実際にトレーナーになってみて「これはトレーナーとして大事だな」とあらためて感じたことはありますか?
選手との距離感は大事にしています。駆け出しの頃は中学生選手を担当していたのですが、コーチたちの年齢は40~50代の方が多く、僕が一番選手たちと年が近かったので。親元を離れて生活している彼らにとって年が近い僕は親しみやすく、話し掛けやすい相手だったのではないかと思います。
ただ、ときには毅然(きぜん)とした態度で厳しいことも言わなければいけません。ですから、そういったことが言える距離感を保ちつつ、親身に選手たちに寄り添えるように心掛けていました。
―選手とのやりとり以外で、個人的に気を付けていたことはありますか?
整理整頓です。常に場を整えておくと、異変が起きたときに目立つんです。いつもと違うことにパッと気付くことができる。逆に、散らかったままだと「何かがなくなった」ということ自体に気付かず、ミスが起きやすい。ちょっとした変化に気付けるよう、トレーナールームなど、身の回りは常に整理整頓を心掛けています。
トレーナーの経験を積む中で感じたのは「相手の立場に立つ重要性」でした
―トレーナーを続ける中で、新たに得た気付きなどはありますか?
トレーナーを何年か続けるうちに、相手の立場に立って考える大切さを知りました。例えば、「試合にずっと出ていたけど調子を崩しチャンスを失った選手」と「試合にで続けている選手」では、置かれている状況は違います。また、カテゴリによっても選手の特徴はさまざまですし、選手自身の経験値やパーソナリティーによってもその特徴は変わってきます。選手の状況が違うのだから、自分が選ぶ言葉や行動も同じではいけないと思うようになりました。今は「相手がどんな選手なのか。今どんな状況に置かれているのか」、「その状況だと、どういう気持ちなのか」ということを感じながら、選手の言葉に耳を傾けるようにしています。
―「相手の立場に立って考える」ことができていない時期もあったのでしょうか?
意識していない時期はあったと思います。トレーナーになり立ての頃は、「これが正しい」という自分の価値観を相手に押し付けてしまいがちだったというか。自分が学んできたことばかりに没頭していたのかもしれません。
JFAアカデミーを退職するときに、スクールマスターからある言葉をいただいたんです。「清濁(せいだく)併せ呑んでなお、清波(きよなみ)を漂わす。汝、海のような男であれ」という言葉なんですが、最初はその意味がよくわかりませんでした。でも、トレーナーとして経験を積んでいく中で「信念を持ちながらも、ちょっと納得いかないようなことも受け入れて、柔軟に構えている人間になれ」というメッセージだったんじゃないかと考えるようになりました。
トレーナーの役割は、自分の正しさを相手に押し付けることではありません。選手が最大限に力を発揮できるようにサポートするのが僕の仕事だと思っています。今は自分の中に一定の基準は持ちつつも“答えは選手の中にある”と思って、日々向き合うよう、心掛けています。
選手のパフォーマンスを引き出すために、人としての立ち振る舞いや姿勢にも注意を払っている、濱田さん。続く後編では、トレーナーを目指している人へのアドバイスや今後のトレーナーに求められることなどについて、お話しいただきます。
『大分トリニータ』濵田勇太さんが考える、トレーナーに必要な3つの姿勢
1.常に選手との距離感を大事にしながら、『寄り添い』の心を持つ
2.常に整理整頓する
3.自分の正しさを相手に押し付けず、選手が最高のパフォーマンスを発揮できるよう支援する
選手のパフォーマンスを最大限に引き出すため、トレーナーとして常に進化し続けている濱田さん。後編では、濱田さんからトレーナーを目指している人へのアドバイスや、今後のトレーナーに求められることなど、より深く踏み込んだテーマについてお話しいただきます。
▽後編はこちら▽
『大分トリニータ』濱田勇太さんが教えてくれた、これからのトレーナーの未来像(後編)>>