自分の手もとを離れたその先の生活を考える 介護リレーインタビューVol.6【作業療法士 野口貴央さん】#2
介護において、日常生活に復帰するために欠かせないリハビリを提供する作業療法士。今回は、介護老人保健施設「プラチナ・ヴィラ 小平(ツツイグループ)」で作業療法士として働く野口貴央さんにお話を伺いました。
前編では、作業療法士の具体的な仕事内容や魅力をお聞きしました。後編では、この仕事の大変さや作業療法士としての心構えを教えていただきます。「利用者様がいかにご本人らしく生活できるか」を考えてリハビリに取り組むという野口さん。在宅復帰の際には、利用者様の自宅にお邪魔して住環境を確認することも任務の一つなのだとか。それぞれの利用者様にとって最適な生活ができるよう、早くたくさんの経験を積みたいと語っていただきました。
《プロフィール》
野口貴央さん(29歳)…大学で作業療法学科を専攻し作業療法士の資格を取得。卒業後は病院に勤めたのち、プラチナ・ヴィラ小平に入社。現在7年目。
作業療法士の大変なところと苦労
利用者様に現実を受け入れてもらうところから関わる
――理想と現実のギャップはありましたか?
大学で学んだことは専門知識のベースになっているけど、現場に出てみるとやはり教科書通りにはいきませんでしたね。利用者様は、それぞれ違う人生を積み重ねてきているし、家族関係も異なるんです。ご家族が遠方に住んでいて、お一人で何とか頑張ってきた方、逆にご家族が近くに住んでいて、手伝ってもらってきた方など、生活スタイルだってそれぞれなので、同じケガや病気を抱える人同士でも、リハビリが終わって在宅復帰したあとの生活イメージや必要項目も変わってきます。
色々な方と接することではじめて多種多様なパターンを知るというか、そうやって日々積み重ねていくんです。とはいえ、僕は今7年目で、20年、30年とやられてきた先輩もいますから、自分はまだまだその積み重ねが少ないですけどね。早く追いつきたいです。一つひとつこなして経験値や応用力を上げていきたい!
――リハビリを嫌がる利用者の方も中にはいるのではないですか?
「痛い」とかはやっぱりありますよ。だから、リハビリの目的というか、「痛い思いをしてまで何で今こういうことをするのか」を説明をして、協力してもらうことが大事になってきますね。無理やりリハビリされてもご本人は嫌だろうし、良くなるものも良くならないですしね。中でも、認知症の方だと中々ご理解いただけず、リハビリに入れないこともありますが、なるべくご本人の負担にならないようなやり方を見つけます。そうやって信頼関係を築いていき、少しずつやれることを増やしていっています。
――リハビリってご本人の気力も必要ですよね。
気持ちの面で断念しないように、リハビリへのやる気を引き出すのも我々の仕事だと思っているんです。最初のうちは、今の自分の現実を中々受け止められなくて、リハビリに来てはみたけれど落ち込んでいたり、「こんなはずじゃなかったのに」と嘆いたりする方もいらっしゃいます。その状態で「リハビリしましょう」「歩けるようになりましょう」と言っても無理なんですよね。
まずは、現実を受け入れていただくこと、そこから関わらせていただいています。利用者様のモチベーションに合わせてという感じですかね。でも、そのためにはケアマネジャーの力が必要です。この施設に来るまでの生活やご家族との関係、以前の施設での様子など、利用者様の情報を把握しているのがケアマネジャーなので、リハビリに入る前にその方の情報を先にもらって、イメージをつくっておくことが大事になるかな。
――これまでに挫折された経験はありますか?
以前、「車いすに座っているのがやっと」という利用者様が囲碁をやりたいと希望されていたんです。「〇〇をやりたい!」という気持ちはリハビリをする上でとてもプラスになると思ったので、メニューに取り入れていたのですが、途中で体調を崩されてしまって…。それでも、何とかリハビリに復帰して続けていたのですが、再び体調を崩されてしまい、今度は体の悪化というより気持ちに大きなダメージを受けてしまったんです。
もともとリハビリに積極的な方でしたが、リハビリを続けてはくれても気持ちは最後まで上がってきませんでした。結局囲碁をすることなく退所されてしまったんです。ご本人にとって、囲碁は誇りのあることで、こんな状態でやりたくないというお気持ちもあったんでしょうね。退所された後もずっと引きずりましたね。気持ちを引き出す力が足りなかったのかなとか、あのときこうしていれば…とずっと悩んでいました。僕のやっていることって人の人生に関わることですし、利用者様とは施設にいる間しか関わることができないので、その間は自分の力を出し切ろうと思っています。
今後の目標
自分の手を離れたあとのために、他職種や施設、地域の情報を集めていきたい
――作業療法士としてのやりがいを感じるときはどのようなときですか?
利用者様に言われて嬉しかったのは「リハビリに来て良かった」の一言。あとは、利用者様が回復してお家に戻られたとき。思い出深かったエピソードがあるんですが、一人での歩行が難しく、自宅での生活がもう難しいかなという方がいらしたんです。
もともとご主人とお二人で暮らしていたのですが、ご主人が「自分が介護してでも家に帰ってきてほしい」という想いがとても強い方だったんですね。家族が家で介護するにはどうしたら良いかなどを勉強されたり、時々リハビリに付き添ったりされていました。そして、何とか在宅復帰が叶ったのですが、お互いに高齢でしたからご主人がどこまで介護できるか、正直厳しいんじゃないかなと思っていたんですよ。でも、その考え方とは裏腹にしばらくしてから、ご自宅で元気に暮らしていることを聞いて安心したんです。やっぱり、介護にはご家族の協力や支えって大きいんだなと実感した体験でした。
――野口さんは老健がご自身の性分に合っているように感じますが、「老健に向いている」などはあるのですか?
それぞれの場所で働くことの良さがありますし、自分がどういうリハビリをしたいか、どういう人たちと関わりたいかということが大切なんじゃないですかね。向き不向きではなく、自分の関わりたいと思う領域で働くのが一番やりがいを感じると思いますよ。
――野口さんの今後の目標を教えてください!
まずは、リハビリ職種として知識や技術を吸収していきたい。これから医療がどんどん進むにつれて介護を受ける方との向き合い方も新しく増えていきますので、時代に合わせて更新していかなければいけないと思っています。また、利用者様が自分の手を離れたあとのことを考えるために、他職種への理解を深め、他施設、地域の情報をもっと集めていきたいですね。利用者様が自分らしく生活していけるか、それが僕にとって何より重要なことなんです。
――最後に、作業療法士にとって大事なことは何ですか?
コミュニケーションですね。利用者様とも、ご家族とも、他職種の人とも。利用者様は色々な人生を経てこの施設に来るので、ご本人に関心を持って、しっかり耳を傾けることが大事です。
【介護老人保健施設で働く作業療法士のココが魅力!】
1.利用者の生活に添ったリハビリができる
2.利用者の様々な生活スタイル・介護パターンを知ることができる
3.その人らしい生活について考えられる
【編集後記】
「目標は何ですか?」という質問に対し、利用者様のその後の生活のために何ができるか、野口さんはそこに焦点をあてて考えていらっしゃいました。「リハビリで利用者様の体を良くしたい」にとどまらず、常にその先の生活風景までを見据えた仕事スタイルなんですね。作業療法士のようなリハビリ職種こそ、遠くに視点を向けることが大事なのだと感じた取材でした。
▽前編はこちら▽
その人らしく生活できるお手伝いがしたくて 介護リレーインタビューVol.6【作業療法士 野口貴央さん】#1>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/山﨑裕一
Store Data
プラチナ・ヴィラ 小平
住所:東京都小平市鈴木町1-85-1
電話:042-349-3505
URL:http://www.platinum-villa.jp/kodaira.html