【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本 vol.5】「一番風呂に入りたい」と毎回主張する利用者にどう対応する?
介護技術だけでなく、コミュニケーション力や人間性、倫理観など、さまざまな知識・能力が求められる介護職。現場で起こる困りごとへの対応もケースに応じた対応が必要です。当企画では、よくありがちな「こんな時どうすれば?」という事例への基本の対応法をご紹介します。今回は、デイサービスでの入浴にまつわる困りごとについて取り上げます。
デイサービスでの入浴。「一番風呂にしてほしい」と、毎回頼んでくる利用者Aさん。どう対応したらいい?
妻に先立たれて一人暮らしのAさん。体調を崩して入院したころから元気がなくなり、老人性うつと診断され、食事・家事の心配からデイサービスの利用になりました。はじめは通所に気乗りではなかったAさんですが、今は、食事と入浴を楽しみに通っています。そのAさんからのお願いです。
「他の人が入った後よりは、一番風呂がいい」という気持ちは分かりますが、すべての利用者に分け隔てなくサービスを提供するのが介護の基本です。だからといって、入浴を楽しみに通っているAさんの意向を無下にするような対応をとってしまうと、Aさんの通所意欲どころか、元気や気力を損なってしまいかねません。対応には、Aさんの心理面や尊厳に配慮しながら、他の利用者の不利益にならない方法を探る必要があります。
ポイント1:同様の意向がある利用者が他にいないかを把握する
他の利用者に「一番風呂に入りたい」という意向がなければ、Aさんの意向を優先したとしても、不都合や損害を被る人はいません。このような倫理的視点をクリアにするために、まずは施設内で相談して、他の利用者の意向を把握しましょう。
ポイント2:Aさんの立場や心理面を配慮した声かけや話し合い
Aさん同様に「一番風呂に入りたい」と思っている利用者が他にもいた場合、Aさんの意向を優先させることでAさん自身が嫌がらせを受けたり、孤立状態になったりすることも考えられます。Aさんが肩身の狭い思いをしたり、他の利用者と友好な関係でいられなくなったりすることがないような方法を考えなければいけません。
そのため、Aさんの立場や心理面に配慮し、「Aさんと同じように一番風呂に入りたい人がいたらどうしますか?」「例えばAさんがここの施設長だったとして、一番風呂に入りたい人が何人もいたらどうしますか?」「みなさんの希望が叶ういい方法があったら教えてください」のように、Aさんの尊厳を尊重した声かけや話し合いで、解決の糸口を探りましょう。
ポイント3:倫理的ルールに沿った具体的提案をする
Aさんとの話し合いで実質的解決へ進まない場合は、できるだけ不都合や損害を被る人・量が少なくすむ対応を具体的に提案しましょう。この場合、いつでもだれに対しても分け隔てない方法、『くじ引き』や『じゃんけん』などを提案してみましょう。
問題解決に向けた3つのコツ
1.Aさんの思い(理由)を聞く
2.Aさんを否定しない
3.Aさん自身にも考えてもらう
介護を必要とする利用者は、生活や身体に不自由を抱えています。健康な介護職が尊厳や人権に配慮したつもりでも、価値観は様々なので利用者の気分を損ねてしまい、それが関係性の悪化や事故に発展することも…。そうならないためにも、この3点をおさえて対応しましょう。
文:細川光恵
参考:「介護現場の「困りごと」解決マニュアル」中央法規
監修
中浜 崇之さん
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役
1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。