技術力以上に求められるのは、「愛」に溢れたグローバルな対応力【ヘア&メイクアップアーティスト 徳永優子(YUKO T.KOACH)さん】#2

今なお世界の最前線で活躍するヘア&メイクアップアーティスト徳永優子(YUKO T.KOACH)さん。人並み外れた精神力と瞬発力を持ち、「ベストリーダー」と言わしめたパワフルな女性です。そんな徳永さんはご自身の功績への執着心は皆無。さらにはヘアメイクの仕事を単なる「ビジネス」とは捉えていません。

後編では、ハリウッドの厳しさや必要とされるスキル、そして「仕事への向き合い方」について言及。昔からのルールや肩書きに囚われることなく、自分の心をもって拓いていくことが大切だと語っていただきました。

「今日でクビ」は当たり前。だからこそハンパ者は集まらない

ハリウッド撮影現場でのあだ名は「忍者」。
イレギュラー発生時の対応力やスピード力はずば抜けているのだそう

――とにかく流れが早いのがハリウッドとのこと。スタッフの入れ替えも多いと聞きました。

そうですね。毎日「はじめまして」のスタッフさんがいます。でも、実力がなければすぐに辞めさせられる組織だからこそ良い作品をつくれるんですよ

同時に、クビを切られた人間に対してレッテルを貼るような世界でもない。人間性が良ければ「あのチームをクビになったなら、うちに来ない?」とすぐに他のチームが声をかけてくれるんです。

ハリウッドで働く人たちはこういう世界だということを理解しているので、クビになるとみんなジョークで笑い飛ばしてくれます。

――問答無用の実力主義なんですね。

歌手や女優と同じように、私たち技術職の業界も「小さい頃からこの世界を目指してきた」という人ばかり。「求人をたまたま見て、試しに面接を受けてみたら採用された」という人はいません。世界中からハリウッド撮影業界に入りたく来ているわけなので、エネルギーもモチベーションも忍耐力も、その才能や感性も半端じゃないんです。一回失敗したからといってめげたりはしません

技術よりスピリッドを育む学校に

生徒にご自身の髪をカットしてもらうこともあるとのこと。
「技術云々ではなくて、その子の魂を感じたいんです」

――「KCビューティーアカデミー」を創立されていますが、どのようなビジョンをお持ちですか?

これから先、一つの美容免許で全世界で活躍できる時代が来ると思っているので、その先駆けとして働きかけていきたいですね。

国は違っても美容免許は共通で良い、と私は思っています。もしかしたら将来、他の惑星に行ける日が来るかもしれない。AIと共存する日が来るかもしれない。そんな多様化した未来に対応できるように、大きな枠組みで育てられる学校にしていけたら良いなと考えています。

また同時に、欧米のコミュニケーション方法やメンタル面の強化にも力を入れたいですね。

――コミュニケーションとメンタルですか。

KCビューティーアカデミーでは、特に日本から渡米してくる美容留学生さんたちに「『世界感のある美観』を解釈するには、常に新鮮な気持ちで広く関心を持ち続け、相手の必要とすることが見極められるメンタルが大事」ということを伝えています。

「学びたい」という気持ちを息が途絶えるまで貪欲に持ち続けること。経験の積み上げこそが成功につながり、学びこそが成長であることを気付いてもらえるような環境やチャンスを与えることが、KCの役目だと思っています。

――学生の発想力に刺激されることも多いのですか?

しょっちゅうですよ。私、教育しようとも思っていなければ、若い子に自分の考えを押し付けたりもしません。若い子たちの感性や無鉄砲さ、剥き出しの向上心に触れると刺激をもらえるんです。若い子の発想を取り入れて、自分の技術や経験と融合させて、新しいものを生み出すのは楽しいですよ。

普段から「お金儲け」という思考回路はなく、「楽しい」「やってみたい」「好き」という感覚があるだけ。そういう柔軟性な勇気も若い子たちにも持ってもらいたいですね

――ハリウッドで通用するために必要なスキルは何ですか?

第一に、ハートの中に素養がなければやっていけない世界です。未熟でもハートが気に入れば、私は一生懸命教えます。ハリウッド現場に上りつめてくる人たちは皆さん個性的でユニークな心を持ち合わせていますから、まずはこの世界を肌で感じてほしいんです。技術はそのあとに教えれば良いこと。

業界特有のいい加減なようで「良い」加減で、その場ごとの挨拶習慣や、変化へのスピード性ある対応力、チームワークの波に乗るための察知能力…。技術や特技以外にも芸能界特有のものってあるんですよ。でも、そういうことは教わるものではなく、本人に何か放出できるエネルギーがあり、また受け入れながらアートで表現できる素質が必要です

――技術力だけでもダメということですね。

そうですね。日本では卒業校や、過去に取得したディプロマや技術を重視することが一般的ですよね。ハリウッドでは流行や人が常に入れ替われるほど、才能豊かなタレントが溢れいます。過去に取得したディプロマは役に立ちませんね。今という「旬」をキャッチしながら先を見据えていく予測力を各専門分野によって合体させ、まるでパズルのように作品を仕上げていく世界です

KCビューティーアカデミーの目標は、日本人の創立者として、日米の良い点を融合できるような美容学校でもありたいと常に願っています。

エネルギーの全てをぶつけることで信頼が生まれる

「勉強って『過去』にベクトルが向いているでしょ。
教科書にだって『過去』のことしか載っていない。
でも、これからを生きるみなさんの人生学習には
『過去』も『教え』も必要ありませんから、
今やりたいことをやってください」

――徳永さんがこれまで世界の第一線で活躍されてきた秘訣とは何でしょうか?

タフさ。しなやかさ。そして、愛のパワーです。

――愛のパワーとは?

愛のパワーを持つとは、自分の内側から出てくる情熱や愛情という名のエネルギーを使うということです。自分が持っている技術や経験を惜しみなく相手のために捧げること。それが私の使命だと思っています。使命とは「命を使う」と書くでしょ。私にとってヘアメイクの仕事は命を使うことなんですよ。単なる「ビジネス」じゃない

朝、目が覚めただけでも嬉しく思ってしまう感謝を持つ心から1日をスタートするようにしています。まずは、自分から心に愛のパワーを送りますね(笑)。自分を愛して、家族も愛する気持ちを大切にしています。そして、その基盤のハートにお客様に触れられる挑戦心、お客様と話せる楽しみ、報酬を頂ける喜び、全てが心のご褒美だと考えます。

一瞬一秒に、生きていることの喜びを「心」で感じ取りながら、目の前のことに真剣に取り組んでいれば、頑張らなくても信頼関係が自然にきちんと出来上がるんです

長生きして幸に思えるのは、決して金銭や富だけでなく、培ってきた信頼を振りかえって見届けることができると、さらに大きく寛大な愛のパワーが生まれそうな予感がします。

――徳永さんの功績は、愛のパワーによる信頼関係の現れなのですね。

これまで私が好きなことで忙しく働いてこられたのは、どんなときでも愛あるパワーをぶつけてきたからだと思っています。失敗した時の対応力や機転の速さとか、根っからの日本人気質など、評価されてきたことって結局、人間性のバランスなんですよ。私の愛が生きている喜び、すなわち活力が彼らに伝わっているから第一線での仕事に携われてきたのだと思いますよ

――ハリウッドは実力社会。けれど、技術というよりもハートでつながっているんですね。

アメリカのハリウッドユニオン業界は、技術力においては個々に必ずスバ抜けた特化技術が必要です。しかしながら、ダイバーシティな人種の坩堝は当然のこと。違うことに評価され、個性豊かなユニークさも重んじられます。そして人間力としてのグローバル対応力あるハートの持ち主であることです

徳永さんの成功の秘訣

1. 一つの成功に執着せず、常に「次」を見据えて動く
2. 自分の置かれた状況に合わせて切り替えられる瞬発力を持つ
3. 自分の持つエネルギーの全てを使って仕事する

取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/柴田大地(fort)
撮影協力/BASE Beauty Lounge

Profile

徳永優子(YUKO T.KOACH)さん

KCビューティーアカデミー アートデレクター。また、数多くのハリウッド映画で活躍するヘア&メイクアップアーティスト。アメリカのエミー賞へ4度ものノミネート、マイケル・ジャクソン氏の『スリラー』3D版のヘアを手掛けるなど、大きな功績を残してきました。「KCビューティーアカデミー」を創立し、世界に通用する後進育成にも精力的。
HP:KCビューティーアカデミー

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