理容室ではなく「メンズ専用サロン」という新ジャンルを築く【Men’s Hair&Shaving Ace Nakano 代表 乾瞳さん】#2
男性客100%の業界で、男性理容師に負けず劣らずの売り上げ実績をつくってきた理容師・乾瞳さん。Peppys Hairから独立し、2021年8月に中野に「Men’s Hair&Shaving Ace Nakano」をオープン。「理容室っぽくない理容室」を掲げ、その洗練されたモダンな雰囲気の店構えに、美容室と勘違いして来店するお客様が多いのだそう。「お客様からしたら美容室や理容室という肩書きは関係ない。Aceは『メンズ専用サロン』という位置づけでやっていきたい」と乾さんは話します。
後編では、理容室の「ダサい」を払拭するために取り組んでいること、理容室に求められているメンテナンスのニーズ、女性が理容師を選択するメリットをお聞きします。
理容室にメンテナンスの文化を再び。カットのみの来店は約2割
──お店をつくるにあたり、思い描くサロン像があったのでしょうか?
私自身ミニマリストじゃないですけど、一つひとつのものにこだわるようになったんです。
お店を持つときも、流行りの髪型を取り入れれば良い、最新ファッションやブランド品を身に纏えばカッコいいとかではなく、もっと根本的なところを整えていきたいという気持ちがずっとありました。それで行き着いたのが「清潔感」。空間づくりからコンセプトづくりまで「清潔感」や「クリーンな雰囲気」を大切にしました。
──内観もとても洗練されていますね。
はい、床屋さんっぽくない内装にしました。「見た目」って一番最初に入ってくる情報だと思うので、かなりこだわりました。サロンポールはもちろん出さず、「え、何屋さん?」ってくらいの雰囲気にしたかったんです。
実際に床屋さんで嫌な思いをしたという人も多いんです。昔のシェービングは今と刃が違い、日本刀みたいなものでゴリゴリ剃るというのが定番でしたし、髪型も坊ちゃん刈りにされちゃったりとか…。床屋を好きになってもらうためにも、「床屋ってダサいよね」「痛いよね」という負のイメージを払拭したかったんです。
──新規のお客さんはどんな反応ですか?
みなさん美容室だと思って来店されるので、「カットだけじゃなく、シェービングもこんなにやってくれるんだ」「シャンプーもこんなに丁寧にやってくれるんだ」と感動してくれるんです。あとから「あ、床屋さんだったんだ」と気づくパターンなんですけど、それも私たちの狙い通り(笑)。
──メニュー展開も工夫されているのでしょうか?
眉カットやシェービングのほかに、フェイシャルクレンジング、ピーリング、エステ機械を導入した角質除去メニューも揃えています。
ヘッドスパは男性のそれぞれ異なるお悩みに幅広く対応するために、マイクロスコープによる頭皮診断、触診、問診を組み合わせ、シャンプーやクレンジングをカスタムできるスパを何種類か用意しています。
コンセプトにある「いつだって清潔で整っている」男性でいてもらえるために、サロンに来たときだけでなく、ホームケアの仕方までしっかり伝え、さらに次の来店時にも状態を確認しています。お客様には「頭皮のお医者さんみたい」とよく言われます。
次の展開としては脱毛ができたらなと考えています。
──近頃は男性もエステや脱毛に通うことが一般的になってきましたが、実際にお客様のオーダー内容に変化を感じていますか?
もともと理容室は「総合調髪」の文化でしたが、時代とともに「シェービングは痛いからやらなくていい」「ヘッドスパはいらない」という人が増えていったんです。
そこから再びシェービングやヘッドスパの良さを伝えるのは大変だったのですが、きちんと伝えればわかってくれる人はいるんです。おかげで「シェービングだけ」の来店はだいぶ増えました。
Aceではカットのみを予約する方は本当に少なく、約2割くらい。やっとここまで来たって感じですね。すごく嬉しいです。
男性理容師と女性理容師、それぞれに役割がある
──Aceでは女性理容師は歓迎ですか?
ぜひ来て欲しい! 求人ではもっと女性理容師に活躍してほしいという風に打ち出しているのですが、実際に面接に来てくれるのはメンズばかり…(笑)。
女性のしなやかさはとても重宝されると思いますよ。やっぱり手の形や柔らかさは男女で違うので、男性が提供できるものと女性が提供できるものは種類が違うんです。男性はパワー、女性は繊細さというニーズがそれぞれあります。
それに、男性はカッコいいスタイルをつくるときに女性目線をすごく大事にしている気がします。「自分ではしっくりきていなくても、周りの女性に評判が良い」ということも多いみたいですよ。
美容師はSNSでのPRが大変みたいですが、理容師の場合は女性というだけで「珍しいね〜」「どんなことやっているの?」とみんなが注目してくれるし、面白がってくれます。紅一点であることを存分に使ってほしいですね。
──理容業界の課題や伸び代を感じていますか?
まだまだ職人気質が残る業界で、「練習した分だけ偉い」「ご飯を食べないで働いたら偉い」という評価基準が抜けきれていません。実家が床屋さんの場合だと「床屋ってこういうもんだから」「これが普通だよ」という人が多いんですが、父親がサラリーマンで母親が専業主婦という家に生まれた私からすると「何それ」って感じ。休まずに働いた人が偉いだなんて絶対に違うじゃないですか。今の時代はそうじゃないですよね。
「稼げない」「夜遅くまで練習している」「お昼ご飯を食べられない」というマイナスイメージは今からでも挽回できるんだよ、ということをAceで証明していかないといけないなと思っています。
そのために、うちでは効率化を目指しています。練習も営業時間内に終わらせますし、ご飯休憩も必ず取ります。周りからしたら極端に見えるかもしれないけれど、遊ぶときは遊ぶ、働くときは働くと、メリハリをはっきりつけています。
──理容業界に限った話ではありませんが、女性はライフステージが変わることによってサロンワークが難しくなるという課題については何か取り組みを考えていますか?
産休・育休は取りやすいけど、復帰しにくいと感じる人は周りのママさんに結構多いですね。
「復帰しても長時間働けないから、逆に迷惑をかけるかも」「私がいても役に立たない…」「お客さんが戻って来ず、結局事務の仕事に回された」という話をよく聞くので、ママさんが戻ってきやすい環境を整えることが大事だと思っています。ここに居続けて良いよという役割を用意しておく。あとは、ママさん理容師が注目を浴びるような役職をたくさんつくりたいですね。
──今後の展望をお聞かせください。
まずはAceを中野で一番選ばれるメンズサロンにしたいと思っています。お客様はご近所さんが多いですし、商店街の方々もとても仲良くしてくださるので、もっと地域に貢献していきたいですね。そして、中野にイケメンを増やしたいです(笑)。
この1店舗で基盤をしっかりつくったら、5〜10年以内に新店舗を展開していけたら良いなと思っています。
──最後に、乾さんの成功の秘訣を教えてください。
自分に何も取り柄がなかった分、「とりあえず動いて、やってみる」ということを大事にしてきました。
自分はものすごく遠回りをしてきた方だと思いますよ。成功した数よりも失敗した数の方が10倍くらい多いです。でも、10回失敗したけど11回目は成功するかもしれない、とめげなかったんです。
だから、私みたいなタイプの人はとにかく色々と挑戦してほしいです。
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乾さんの成功の秘訣
1.お店と自分について、お客様に本気で語る
2.チーム力を大切にする
3.まずは行動。失敗を重ねることが成功への近道
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄