サロン経営と自らのキャリアアップ。葛藤の末に出した結論とは【美容師・U-REALM代表/高木裕介さん】#1

全国に12店舗を展開するU-REALMグループの代表・高木裕介さん。2000年代を代表するカリスマスタイリストは、現在でもトッププレイヤーとしてサロンに立ち続けています。また、美容室以外にも幅広く事業を手がける実業家であり、そんな高木さんを目標と定める人も多いのでは?

前編では、若手時代からサロンオープンまでのストーリー、順調だったヘアメイクの仕事を辞めるに至った理由などを伺いました。

TAKAGI’S PROFILE

お名前
高木 裕介
出身地
北海道
出身学校
山野美容専門学校
経歴
SHIMAなどを経て2000年からAFLOAT、2005年に独立しU-REALMをオープン。現在、直営・フランチャイズ合わせて12店舗を展開。
プライベートの過ごし方
午前中は株を見たり、猫と遊んだり。午後は打ち合わせ。夕方からサロンに顔を出すのがルーティンです。
趣味・ハマっていること
とにかく猫が大好きなので、猫と遊ぶ!
ストレス解消法はレゴでお城をつくること。集中し出すと食事もとらずに没頭します。
仕事道具へのこだわりがあれば
シザーはトラックス、セニングはロイヤルマスター。
道具を変えると技術にも影響が出てしまうもの。だから僕は、同じメーカーのものを20年以上使っています。

言葉を選びながら、理論的にお話をされる高木さん。思考と知性の人だと感じられました。

とにかくがむしゃらに働いた若手時代

――まずは、美容学校ご卒業後のお話を聞かせてください。

憧れだった「SHIMA」へ入社したものの、一流だからこその厳しさに結局1年で挫けてしまいました。他店へ移籍しましたが、そこではまた1からのスタート。早く同期に追いつきたい!という負けん気が湧き出て、ようやく美容師という仕事に対するエンジンがかかりました。

また、当時はちょうど美容師ブームで、サロン業界全体に追い風が吹いていました。最初は、ただ周りから置いていかれないようにという必死さだけで頑張っていましたが、だんだんと「今なら僕もテレビに出れるんじゃないの?」という欲が出てきて(笑)。がむしゃらに練習に励む日々を過ごしていました。

――当時のカリスマ美容師ブームは大変な勢いがありましたよね。

ええ、すごい時代でしたよ。でも、現場にいる僕の肌感覚としては「この勢いも長くは続かないな」という予感がしていたんです。だから「アシスタントなんてやっている場合じゃない。自分も早くデビューしないと、この潮流に乗り遅れてしまう」という焦りが常にありました。

――移籍後は、スタイリストデビューまで順調に進んだのですか?

デビューに必要なカリキュラム自体は、入社後3ヶ月程度で修了しました。けれど、運営上の事情でなかなかアシスタントから脱却させてもらえず、ものすごく悔しくてね。1日も早くたくさん稼ぐという目標が僕の全てだったから、思い通りにいかない現状に歯痒い思いを持ち続けていました。

最近は「デビューは急いでいません」「ゆっくり自分のペースで」と言う若い人たちも多いですよね。時代の変遷というか、ジェネレーションギャップを痛感します(苦笑)。

――アシスタント時代はどのように過ごされていたのでしょうか?

休みの日に「Smart」や「Boon」といった男性ファッション誌で、読者モデルをやらせてもらっていたんです。その撮影現場で駆け出しのタレントさんと友達になり、カットモデルをしてくれました。そうするうちに彼女が大ブレイクし、僕の名前も世に出ることになって、ファンの方からカットの依頼が殺到したんです。

でもまだアシスタントでしたから、お問い合わせのあった皆さんには、お客様ではなくカットモデルとしてご来店いただきました。お店の営業が終わってから深夜まで施術しても、1年後までカットモデルの予約がいっぱいというとんでもない状況でしたね。

20年以上も業界のトップランナーとして活躍。常に全方位に向けてアンテナを貼り続け、若い世代の感性と乖離しないための努力が必要だと話してくれました。

――その時の経験が、若いうちからレベルの高い技術力と集客力を武器にできる源となったのですね。

「下積み時代、たくさん練習しましたか?」とよく聞かれますが、誰よりも練習・実践したと断言できます。他のアシスタント達は、店が終わった後は店長に食事に連れて行ってもらっていましたが、僕は予約が入っているからいつも居残り。遊びたい盛りの年頃なのに、飲み会やクラブへ行く暇もありませんでした。

体力的にも精神的にも過酷な日々ではありましたが、あの時の経験がなければ今の自分はここにいません。僕の施術を待っている方が実際に目の前に大勢いて、その期待に応えるための努力をせざるをえない状況。そんな環境に身を置けた幸運に感謝しています。

――厳しい環境下でも、ぐっと堪えて努力を続けられた秘訣はありますか?

人間は誰しも、サボりたくなる生き物です。練習だって、多くの人が3日坊主になってしまうもの。「昨日頑張ったし、今日は遊びに行っちゃおう」ってね(笑)。だからこそ、芽が出ない期間のモチベーション維持には、苦しい・しんどいだけじゃなく、課題をこなす中で自分にとっての「楽しい」を探す視点が必要ではないでしょうか

僕の場合、モデルハントがすごく楽しかったんです。他のサロンの友人達と近況報告をしながら、女の子に声を掛けていました。休みの日に、趣味のバイクで出かけた先で探したこともあります。仲間との付き合いや好きなことの延長線上で楽しめたことが、投げ出さずに続けられた秘訣だったと思います。

「最近は毎日のSNS投稿をルール化しているお店も多いですね。でも、義務になってしまった途端、人はそれを苦痛に感じてしまいがち。そんな中でも、いかに『好き』や『楽しみ』を見つけられるかに挑戦してほしいです。」

ヘアメイクとしても時代の寵児に!しかし個人の力の限界を実感

――スタイリストとしてデビューした後、独立するまでの働き方はいかがでしたか?

もう恐ろしいくらいの忙しさでしたよ。2、3年後からはヘアメイクの仕事も舞い込むようになりました。独立を考えはじめたのは25歳くらいかな。その頃は月の売上が500万円を超えていましたが、ろくに休憩も取れないほど毎日が体力勝負。でも当時は完全歩合制で、休めばその分給料は下がります。これから年齢を重ねた時も今と同じような働き方を続けられる自信は持てず、2005年「U-REALM」をオープンするに至ります。

――オープン当初のお話を聞かせてください。

僕個人の話ですが、当時はヘアメイクの仕事の比重が高く、サロン経営への意識より自分のキャリアアップのことで頭がいっぱいでしたね(苦笑)。

でも数年経つと、店のスタッフの退職が相次ぐようになりました。最初は「タレントさんも来店してすごい」なんて憧れの目で見てくれるんですが、人間は環境に慣れてくるもの。経営者のくせに店は放ったらかしで自分のことばかりな僕の姿に、みんなだんだんと愛想を尽かすようになったんです。この負のスパイラルに気が付いてからは、ヘアメイクの依頼は全て断ることにしました

――ヘアメイクとサロンオーナーを両立する方も多い中、キッパリと辞めてしまうのは勇気が必要だったかと思います。高木さんがサロンワークにこだわった理由とは?

日本の芸能界の中で一番ギャラの高いタレントさんを担当させてもらった時は、寝る時間もないくらい忙しく、報酬もかなりの額をいただきました。けれどそれって、ヘアメイク個人としての収入はMAXに到達したのと同義ですよね。

でも僕は、もっと稼いでみたかった。その夢を美容業界で実現するためには、個人の力では限界があります。人生の中でより長期間、より大きな売上を得るのに必要不可欠なのは組織の力です。サロンで多くのスタッフ達と共にチャレンジした方が、より遠くの風景が見られるに違いないという確信がありました

実際に、ヘアメイクの依頼を断るようになった当初は会社の売上は減少しました。けれど3年後には以前の売上を超えるようになったんです。

プレイングマネージャーという二刀流を捨てる決断。その結果。

――サロン経営に焦点を絞った後、どういった変化が現れましたか?

ミーティングの参加などを通して、店舗運営のビジョンを全員で共有することが可能になりました。また、接遇など細かい部分まで教育が行き届くようになったのも大きな変化です。

加えて当時は、いわゆる業界の仕事、例えば商材メーカーやディーラーが主催するヘアショーへの参加が、サロンやスタイリストにとってステータスのひとつでした。でも僕は個人の仕事で忙しく、出演のお声がけを断っていたんです。そうすると、U-REALMの名前が表へ出ることが少なくなり、結果的にスタッフ達のモチベーションが下がってしまいました。

そのため、ヘアメイクを辞めた後にまず実行したのが、関係者への挨拶回りです。ありがたいことに、僕がサロンに戻ると知ったメーカーさんがイベントの仕事をまた持ってきてくれるようになりました。店の名前を発信する機会を積極的に増やすことは、スタッフがプライドを持って働ける原動力を生み出し、求人採用時も魅力的な人材がたくさん集まるなど、人材マネジメントの面で予想以上のプラス効果となって返ってきました。

――スタッフと触れ合うこと、業者や取引先と良い関係を築くことの重要性を改めて感じます。

他者とのコミュニケーションはサロン経営の基本ですよね。現在はFCを入れて13店舗展開しているので、スタッフ数はかなりの数に上ります。会社が大きくなるほど、人間関係も複雑になるもの。何か問題が起きても、その都度解決するための努力を忘れず、僕の理念に共感してくれるひとり一人と、真摯な姿勢で向き合うことを心がけています。
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手にしている成功が大きければ大きいほど、それを手放すという決断にはためらいが生じるものではないでしょうか。それでも高木さんは、ヘアメイクとして得ていた名声をあっさりと捨て、サロンの可能性に賭けた結果、さらなる飛躍を果たしました。

後編では、美容師として長く活躍するために必要な心構えや考え方についてお聞きします。

取材・文:黒木絵美
撮影:石原麻里絵(fort)

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Salon Data

U-REALM表参道
Address:〒150-0001東京都渋谷区神宮前3-4-9 ARA神宮前プレイス2F
TEL:03-6384-5884
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