長く活躍する美容師になるには？将来を見据える広い視野・高い技術力を武器に【美容師・U-REALM代表／高木裕介さん】＃２
全国に12店舗を展開するU-REALMグループ代表の高木裕介さん。長年美容業界を牽引するひとりとして、常に注目される存在です。
後編では、若い世代が美容師として活躍を続けるために必要な意識や心構えなど、トッププレイヤーだからこそ伝えられる「生きたアドバイス」をお聞きしました。
経済の動向にも明るい高木さん「経営者同士の横のつながりを活用し、情報交換は欠かしません」
働き方が多様化する今、若い世代が描くべきキャリアプラン
――働きやすい職場づくりに向け、U-REALMが具体的に取り組んでいることを教えてください。
働き方改革が施行される以前の2012年から、労働条件等の整備をスタートさせました。美容室は利益率10％と言われるほど利幅が薄い商売ではありますが、毎年ベースアップも行っています。今はコロナ禍でスタイリストのフリーランス化が加速しているため、予定より早急に給与面を見直していかなければという危機感を持って進めています。
――場所貸しでフリーランスという働き方を選ぶ若い世代も増えていますよね。業界の第一線で長年活躍する高木さんにとって、この流れはどのように映っていますか？
SNSが出てきてからは、見知らぬ誰かの派手な結果が目に付いてしまいがちです。我も我も、と勝負を焦る気持ちは分かりますが、せっかく地に足を着けてできる商売なのにもったいないなと感じます。
特にこの１年くらい、有名店所属の若手スタイリストの退職者が増えているのが残念でなりません。その子達が本当に実力を持っているなら、お店の名前が足枷になるケースもあるでしょう。でも、多くの場合はそうじゃない。周りに流され慌てて独立したところで、結局は何者にもなれないで終わる可能性の方が大きいことも知ってほしい。僕の同期でも独立した人間はたくさんいますが、今でも美容師を続けられている人自体が少ないのが現実です。
経済の動向にも明るい高木さん「経営者同士の横のつながりを活用し、情報交換は欠かしません」
――では、お店に所属するメリット・デメリットとは何でしょうか？
年齢による体力の低下や結婚・出産・介護などライフスタイルの変化を考えると、やはり組織に属していた方がいざという時の保証はあると思います。また、サロンスタイリストだからこそ得られる知見、お客様からの信頼感や業者さんとのお付き合いも大きなメリット。一方、人間関係のしがらみや教育を受ける煩わしさと向き合わねばならないのがデメリットでしょうか。一長一短をよく考えて、自分の道を歩んでいってほしいですね。
いずれにせよ、これからの日本は80歳まで現役で働かなければ暮らしていけない社会になるのは確実。だからこそ、長く働くことができる環境を個々がつくらなければいけませんし、若い世代は将来をしっかり見据えたキャリアプランを描く必要があります。
高い技術力とコアなファンづくりが自分の価値を上げる
――目の前のことだけでなく、広い視野を持つことが大切ということですね。
今、世界的にインフレがすごい勢いで進んでいます。日本でもこれから物価がどんどん上昇し、いずれはカット代が２万円台になる日も来るでしょう。では、そんな世の中になった時、施術料を値上げしても果たして自分の技術は受け入れてもらえるのか。自分自身に対して常に問い続けてほしいと思います。
経験と実績を持つ高木さんにしかできないアドバイスは、説得力にあふれています。
――これからの厳しい時代、他にもスタイリストが身に付けるべき考え方などはありますか？
お客様がなぜ自分の所へ来てくれているかを分析し、己の強みや個性をより伸ばすことが重要ではないでしょうか。移籍や独立した途端、お客様が離れるなんてのはよくある話ですが、それを回避するために、自分自身のファンを増やす意識を持ってください。
例えばインスタへの投稿も、技術やスタイルを発信しても一般の方には違いって分からないんですよね。美容師のアカウントから同じような写真ばかり流れてきて鬱陶しい、という声も聞いたことがありますし（笑）。いっそのこと、美容師とは一見分からないような趣味全開の投稿で、自分の人となりを分かってもらうためのツールとして活用してはどうかな。「あ、コイツ面白そうだな」「話をしてみたいな」と思わせることこそが、美容業界で生き残っていくための武器になると思います。
――高木さんご自身は、サロン事業にとどまらず、多角化戦略で会社の「武器」を増やしていますよね。
まず第一に、毎年スタッフ達の給料を上げていきたいという明確な目標が僕の中にあって、サロンだけのんびりやっていては到底間に合いません。それに事業がひとつだと、現在のコロナ流行などイレギュラーな外的要因に弱いんです。キャッシュポイントが複数あれば逆境でも耐えられる。実はこの３月には、ジンギスカン屋さんもオープンするんですよ。
とはいえ、僕も一線を引いている部分はあります。自分ができること・できないことの見極めは大切。手当たり次第の手法はお勧めできません。
オリジナルのヘアケア用品を展開。キャッシュを生み出す多彩な力がU-REALMの強みです。
美容師を志す人・美容業界でさらなる飛躍を目指す人へ
美容師はいつも「職人」であってください。ここ数年、本物志向の技術者が減少しているなと危惧しています。人数さえこなせば手っ取り早く稼げる激安店も増えましたが、どうせなら高級店を目指してほしい。「あなたにならいくらでも払いますよ」というお客様を捕まえられる、実力のある美容師になってください。そうすれば、インフレの時代でも勝ち残っていけるはず。
そして技術力を獲得するためには、練習を重ねるしか方法はありません。休みや給料など気になることは多いと思いますが、せめて30代になるまでは一生懸命やってみてください。40代に入るとガクッと体力も落ちてしまうから、頑張れる時に頑張ってほしい。こんなこと語ってると老害って言われちゃいそうですけど（苦笑）。でも、長年業界にいる僕らみたいな人間には、これまでの経験を次世代に伝える責務があると思っています。皆さんの挑戦を応援しています！
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高木さんの成功の秘訣
１. 辛い状況でも「楽しさ」を見つけてモチベーションを維持
２. 今の成功に甘んじることなく、さらなる挑戦を続ける精神力
３. 目先の利益にとらわれない、広い視野からの決断
取材・文：黒木絵美
撮影：石原麻里絵（fort）
