【美容師あるある】「フリーランス=一人になる」ことではない【フリーランススタイリスト 西幅誠さん】#1
美容業界でよくあるお悩みや課題にフォーカスする本企画。今回は、フリーランス美容師の気になる「働き方」に迫ります。今回お話を伺ったのはダブルカラーのスペシャリスト・西幅誠さん。もともと川越のサロンに勤めていましたが、ダブルカラーを極めるために2年前に独立。現在は原宿のシェアサロン「GO TODAY 原宿Verno店」で活動しています。西幅さんが何より大事にしているのが「人」であり、フリーランス美容師のイメージがガラリと変わるお話を聞かせてくださいました。
前編では、退職するまでの経緯や退職時のエピソード、川越から原宿に移動したときに感じたギャップなどを教えていただきました。
教えてくれたのは
西幅誠さん
「THEATER」川越店に新卒入社し、スタイリスト3年目で独立&フリーランスデビュー。ダブルカラーの技術を磨くため、活動の場を原宿に移し、現在は、シェアサロン「GO TODAY 原宿Verno店」で働いている。
美容師の退職:自分の想いを日頃から上司に伝える。その積み重ねで円満退社に
――これまでの経歴を教えてください。
新卒でTHEATERに入社し、川越店に配属されました。地元が川越市のお隣の狭山市なんですけど、地元の近くで働きたかったんです。THEATER川越店でスタイリストデビューし、2年前にフリーランスとなりました。
――なぜ独立をされたのですか?
理由はいくつかあるんですけど。川越店にもう一人同期がいて、そいつと日々切磋琢磨しながら頑張っていたんですね。川越の美容をどうやって盛り上げていくかとか、後輩の売上をどうしたら伸ばしてあげられるかとか、よくミーティングを開いて話し合っていたんです。「新店舗を出したい」「ダブルカラーをしたい」「セミナーを開きたい」と、自分のやりたいこともよく上司に伝えていました。しかし、なかなか実現が難しくて…。後輩たちにも、発展していく明るい未来をどうしても見せてあげることができず。
もっと活躍の場を広げるためにはここに留まったままではダメなんじゃないかと思ったんです。もっとダブルカラーの技術を磨きたい、もっと大舞台で挑戦したい。その気持ちが大きくなって、同期と一緒にTHEATERを辞め、原宿に行くことを決めました。
川越店で店長になるという選択肢もありましたが、例えば30歳まで川越で働き、そこから原宿に行きたくなったとしても、腰が重くて動けないんじゃないかと思ったんです。だから、今のうちに動こうと。
――円満退社できましたか…?
上司にはずっと自分の想いを伝えていたんです。自分のやりたいことが実現できないという悩みを相談したりもしていたので、退職したいと伝えたときに「そうか、ついに決めたか」という反応でした。その上司は今でもずっと応援してくれていますし、たまにご飯にも行きますよ。
僕はTHEATERという会社が大好きだったので、もし自分のやりたいことができて、後輩にも自分を通して明るい未来を見せることができるのであれば、辞める必要はありませんでした。嫌いで辞めたわけではないので。
――原宿のサロンに再就職という選択肢もあったと思いますが、なぜフリーランスを選んだのですか?
別のサロンでまた一からの積み重ねが必要になる、ということに抵抗があったのも理由の一つですが、一番大きな決め手となったのは、このシェアサロン「GO TODAY 原宿Verno店」で仲間がたくさん働いていたことです。仲良しの後輩が幹部の一人で、THEATERで働いていた元同僚も結構このシェアサロンにいるんですよ。
僕が人生において最も大事にしているのが「人」です。どれだけクオリティの高いスタイルをつくれようが、どれだけ稼げようが、どれだけ有名になろうが、仲間がそこにいなければ意味がない。お金を稼ぐことより、誰と働くかということを重視しているんです。それでこのシェアサロンで昔からの仲間と一緒に働くことを決めたんです。
僕の場合、個人で活動したいからフリーランスになったわけではないです。
――フリーランスとなっても、あくまで仲間と働く。その考え方は新鮮です。
フリーランス美容師は、一人で施術し、やることが終わったらさっさと帰るというイメージですよね。シェアサロンも「個人主義同士が集まる場所」ってイメージだけど、僕としたら何が楽しいの?って思ってしまうんです。
フリーランス志望の後輩からも「フリーランスになったら税金どうなりますか」とか「いくら稼げるのか心配です」とよく相談が来るんですが、僕はそういうの気にしない人なので答えてあげられない(笑)。ここで働いてる人たちはみんな笑顔だし、めちゃめちゃ楽しそうなんです。僕はそれが一番でしょって思います。人生の大半が働いている時間なので、その働いてる時間が楽しくなかったら人生もったいないなって。
美容師のフリーデビュー:川越から原宿へ移動し、専門的な技術をより求められた
――フリーランスになる上で、どんな準備をしましたか?
下準備というのはほぼしませんでした。川越から原宿への移動は、都内から都内への移動とは違い、ゼロスタートになると思っていたので。また、僕はダブルカラーを極めるために原宿に来たんですが、川越店にいた頃は需要がなかったのでダブルカラーの施術はあまりやってこなかったんです。だから、自分でもどうなるかわからない、一か八かだったんです。
――川越から原宿に来て、まず直面したことは?
年齢層も、ファッションも、カラーの色も、ヘアにつぎ込む金額も…世界が全然違いました(笑)。川越店では「近くにあったから来た」という人が多かったですが、原宿はクオリティを求めて来る人が大半。遠方からも足を運びますし、ダブルカラーに2〜3万円は使うよね、という感覚が普通なんです。川越でもクオリティは必要でしたが、原宿ではそれ以上に必要だなと。そこに大きなギャップを感じました。
――新天地でダブルカラーに特化してやっていこうと思われたわけですが、技術練習も積まれましたか?
はい。THEATERでは「カラーはこう塗る」「薬剤はこの選定」「カットはこの形」という基礎だけ教わり、より専門的なことは教わらなかったんですね。だから、専門的な技術はオンラインサロンで勉強したり、有名サロンに勤めている友達に教わったり、自分の髪に施術してもらって試したり。新しい薬剤も色々と試しました。誰かに教わるのと、独学で学ぶのと、両方をバランス良くこなしていたと思います。
――シェアサロンの場合、薬剤選びはどのようにしているのですか?
商材に関しては、基本的にはこのシェアサロンが契約しているディーラーさんのものを使います。でも、発注するのはあくまで個人なので、好きなものをセレクトしています。たまにLINEで「新色が入荷しました」という連絡が来るので、自分が気になるものがあれば発注するというスタイルです。今は、大体お気に入りの薬剤が決まってきたので、新しいものを試すことはしていませんけどね。
フリーランスあるある:退職時とフリーデビュー時に覚えておきたいポイント
1.自分のやりたいことや想いを日頃から伝えておくと上司も理解してくれやすい
2.フリーランス=孤立ではない。シェアサロンで働く仲間との交流もプラスになる
3.技術を習得では、「独学」と「人に教わる」をバランス良く取り入れる
フリーランス=ソロ活動というイメージが強かった分、西幅さんの「仲間がいる場所でしか働きたくない」という考え方はとても新鮮でした。後編では、フリーランスの働き方についてマイナス面・プラス面の双方から教えていただきます。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/本名由果(fort)