これって私だけ?美容業界の職業病とは
長年同じ仕事を続けることで、その仕事独自の習慣が身に付きます。専門的な経験に基づいた習慣は、仕事をする上では非常に頼りになるものですが、それが日常生活で思わず表れる場合があります。しかも、頻繁に表れる傾向があれば、職業病とみても良いでしょう。
美容師・ネイリスト・アイリストを含めた美容業界にも職業病はあります。しかも、美容業界ならではの職業病が多いといわれているのです。そこで、今回は美容業界によくある職業病を、美容師・ネイリスト・アイリストを対象に実施したアンケート結果を踏まえながら紹介していきます。
美容業界の職業病はこれなの?
美容業界の仕事の中で、時にはお客さんの外見を美しく保たせるため、相手の手、足、髪の毛などを細やかに観察して、その結果をアドバイスとして客に行うことがあります。つまり、お客さん自身の美しさへの意識を高めることも美容業界の仕事のひとつといえるのです。そのため、日常生活で人と出会うときにも、その観察眼は思わず発揮される場合があります。
アンケート結果の中では『最初に視線が向かうのがヘアスタイル』(美容師・36歳・女性)や『人を見たらまず、爪に視線が向かってしまう』(ネイリスト・35歳・女性)と回答する人がいました。このような習慣は美容業界ならではの職業病といえます。さらに、職種によって観察するポイントがそれぞれ異なるのも特徴といえます。美容師ならば髪の毛、ネイリストならば爪を見てしまうという話は、同業者にとっては「よくあること」とうなずけるエピソードです。その他に、『人を見るときは常にまつ毛から見てしまう』(アイリスト・23歳・女性)という回答もありました。会話のときの目線にも特徴があります。美容師の場合、大抵、鏡越しにお客様と対話を行うことになります。それに慣れると、日常生活でも思わず視線が鏡を求めてしまう、という人もいるのです。それに、ネイリストの場合は対話を行う相手の目や顔ではなく、爪にばかり視線が向いてしまい、まるで爪と話をしているような感じになると答えた人もいました。このように、美容室の中では日常的なエピソードですが、美容業界ではよくある職業病ともいえるでしょう。
普段の何気ない癖で、何の職業かが分かることもあります。たとえば、ハサミの持ち方で、美容師はカットのとき親指と薬指でハサミを持つシザーと呼ばれる持ち方が一般的です。仕事以外で紙を切るときにも、ハサミを自然とシザーの持ち方で持っているため、時には美容師だと相手に分かる場合もあるのです。さらに、自分の子供も、ハサミを自分と同じくシザーの持ち方で持つようになったので、通常の場合の持ち方に直すように注意したと答えた人もいました。
職業病は、良いことや興味深いことばかりとはいえないでしょう。困ったことや苦労といえることも多くあります。たとえば、仕事による腰痛や肩こり、腱鞘炎などはその最たるケースといえるでしょう。美容師は長時間立ち続けるだけではなく、カットやシャンプーなど屈み込んで行う動作も多く、腰痛になりやすい職種です。慢性的な腰痛に陥った場合、仕事に支障をきたすだけでなく日常生活も困難になります。したがって、普段から腰痛予防を心がけている美容師の方も多いのです。肩こりは多くの業種の職業病といえますが、美容業界の仕事もそのケースにあてはまります。仕事中、常に両手を動かしているのが美容業界の仕事ですから、毎日仕事が終わった後には両腕が痺れ、肩がコチコチになっている人も多いのです。しかも、美容業界の仕事はとりわけ大事な客に直接触れることです。その分だけ集中、あるいは緊張もしているため、自然と肩に力が入っていることもよくあるケースといえます。同じ動作を繰り返すことで関節が凝り固まってしまいますから、たとえば休憩時間に肩を回したり、力を抜いたりといった動作を意識して行うことで、肩こりの改善を図るのも良い方法です。
それから、ハサミを長時間使うことで腱鞘炎になることもあります。こちらも肩こりと同様に、同じ動作を長時間続けることによって起こる症状です。腱鞘炎にならないためには同じ動作を続けないことが良いのですが、カットを仕事とする美容師にとっては、それは不可能に近いことといえます。美容師という仕事を続けていく上で、職業病ともいえる手首の腱鞘炎とは出来るだけ工夫をこらして、上手に付き合っていくことが賢明です。
美容業界で働いていて得したこと・嬉しかったことは?
美容業界の仕事には、お客様の願望を叶えるという大きな目的と、それを果たせた時に得られる喜びがありますが、その他にも得られることがあります。たとえばコミュニケーション能力の向上です。美容師はヘアスタイル、そして、ネイリストは爪をお客様の理想通りに仕立て上げる仕事です。しかし、すべての客が明確なイメージを持って来店するとは限らないのです。むしろ、大抵の客は漠然としたイメージしか持ち合わせていないといえます。そのような客が口にする言葉の端々から、その人のイメージを汲み取り、形に変えていくのが美容業界の仕事をする上で必要とされているのです。当然、相手の言葉の裏側の意味を読み取ったり、相手が言葉にできない部分を言葉に変えたりといった能力も求められます。そのため、コミュニケーション能力が自然と磨かれていくのでしょう。つまり、お客様の要望に対して、的確に応えられる仕事を行う美容師・ネイリスト・アイリストは高いコミュニケーション能力を持っているといえるのです。ただし、相手の気持ちを読み取るだけがコミュニケーション能力とはいえません。たとえば、美容室は性別や年齢を問わず、多種多様な人が訪れるため、幅広い客層に合わせた話題を常に持ち合わせておくことも、美容師として働く上で必要になります。日頃から話題を探す習慣を身に付けることで、友人や子どもとの会話が楽しくなったという経験をしている美容師も多いのです。
それから、アンケート結果の中には『いろいろな年齢層の客と対話ができるので、人生の勉強もできる。私自身も、仕事を通して人生が変わったと思う』(アイリスト・27歳・女性)という回答もありました。この回答からも分かるように、お客様から得られることにも大きな価値があります。したがって、老若男女から学ぶのはもちろん、子どもの素朴な疑問によって、物事を新しい角度から見つめ直すことができるようになったという経験は、美容業界に共通する喜びともいえます。美容業界の仕事は、その大部分を人と関わることになるため、関わった分だけ人から良い影響を受ける機会も多いのです。
さらに、経験を重ねてスキルを向上させることによって、得られる嬉しさもあります。『出張で自分の技術でお金がもらえた時』(ネイリスト・41歳・女性)に嬉しさを感じたという回答がありました。スキルが向上することによって、自分を指名してくれるお客さんが増え、それが給料に反映されることでモチベーションアップにつながって、さらにスキル向上を目指すという好循環を生み出してくれるのです。また、このような経験は、美容業界で働き続ける原動力ともいえます。
ちなみに、アンケート結果の中には『絵を描けるようになった』(ネイリスト・35歳・女性)という回答もありました。ネイルを通して絵を描くことができるようになったというのも、一種のスキル向上といえます。
美容業界で働いていて嬉しかったこととして、多くの人が挙げていたのは、『お客様に喜んでもらえること』でした。もちろん、自分自身が得られる利益も大切です。しかし、それ以上に、お客様のニーズを引き出し、組み立てて、実現させたときの相手の喜ぶ姿を見ることこそが、他の何ものにも代えがたい、心から嬉しかったと思えることなのでしょう。
それでもやっぱり、この仕事を続けたい!
アンケートの結果、全く人間関係に悩むことなく働いているという方はほとんどいないことがわかりました。しかし、なぜこのような悩みやトラブルが生まれてしまうのでしょうか。
リラクゼーション業界はお給料が完全歩合制の店舗も多く、技術のある人やお客様をたくさん抱えている人が、店舗の中でも発言権を持ちやすい傾向にあります。そのため、少しでも多くの指名をとろうとして単独行動に走ってしまう人や、お店のルールを破ってまで他のスタッフを出し抜こうとする人も少なくありません。さらに、業界全体が慢性的な人手不足で、性格やコミュニケーション能力に問題のある人でも技術さえあれば比較的簡単に採用されてしまいます。そういった業界の体質も、人間関係のトラブルが増える原因なのかもしれません。
しかし、スタッフ同士がお互いを尊重し、たとえ自分以外の誰かが担当するお客様でも、自分のお客様のように大切にしながら協力して仕事に励んでいるという店舗も、確かに存在します。リラクゼーション業界に関わらず、どんな職場にも問題になる人が一人くらいはいるものです。かといって、心身を壊してしまうまで我慢する必要はありません。いくら職場の空気を良くしよう、人間関係を円滑にしようと努力しても、ひとりでは限界があります。今まさに人間関係に悩んでいる方も、思いきって悩みを相談したり、お店を変えたりすることによって解決の糸口が見つかるかもしれません。
同じ業界で働く知り合いがいるのなら、スタッフ同士の仲が良いお店を紹介してもらうのも良いし、女性同士の派閥争いに巻き込まれたくないのであれば、男女混合のお店へ転職するという方法もあります。先輩や後輩など、一対一の人間関係で悩んでいるのなら、信頼できる同僚や上司に相談して、間へ入ってもらうことで負担が軽くなるかもしれません。
大好きな仕事を続けるためにも、勇気を出して行動してみましょう。