初めて行ったコンサートからヘアメイクの道へ。ヘア&メイクアップアーティスト室岡洋希さん

室岡洋希さんは、ファッション誌やビューティ誌をはじめ、幅広い分野で活躍し、アーティストやモデルからも絶大支持を得ているトップヘア&メイクアップアーティスト。中学生の頃から美容の道を志し、約20年間に渡り美容業界で活躍しています。前編では、そんな室岡さんの原点となったエピソードや、憧れの存在だったという藤原美智子さんのアシスタント時代について伺いました。

お話を伺ったのは…
室岡洋希さん

山野美容専門学校卒業後、サロン勤務、母校の講師を経て、「LA DONNA(ラ・ドンナ)」へ。藤原美智子さんのアシスタントを経て独立し、現在はIrisに所属する。ナチュラルからモードまで、幅広く「美」を創り出すトップヘア&メイクアップアーティスト。多くのアーティストや俳優、モデルなどから支持され、ファッション誌やビューティ誌をはじめ、広告やイベントなどさまざまな分野で活躍中。

Instagram:@hairmake_muro369

Iris

中学生の頃から憧れていた、ヘア&メイクアップアーティストの仕事

室岡さんと師匠の藤原美智子さん。いまでも尊敬する大先輩

――ヘア&メイクアップアーティストを目指したきっかけを教えてください。

中学生のときに、生まれて初めて行ったアイドルのコンサートがきっかけです。1回のステージで、4回くらい衣装やヘアスタイルチェンジして出てきたんですね。それを見て、ひとりの人がこんなに変わるんだと感動して、この仕事に興味を持ちました

ただ、当時は今のように美容雑誌もほとんどありませんでしたし、どこで何を勉強したらいいかわかりません。まずは美容師になろうと、高校卒業後に山野愛子美容専門学校へ進学しました。

――専門学校卒業後は、美容師としてお仕事をされていた時期もあったんですよね。

そうです。山野愛子美容室に就職し、母校の専門学校の講師も務めていました。その頃には「Make up Magazine」などの美容雑誌が登場していて、雑誌を通じてヘア&メイクアップアーティストの方たちの活躍を目にしていました。中でも僕は藤原美智子さんが手がけるヘアメイクが好きで、いつかこんな風になりたいなと憧れていて。一方で、このまま仕事を続けていてもヘア&メイクアップアーティストにはなれないだろうと悩んでいて…。

そんなときに、藤原美智子さんがアシスタントを募集していることを知り、履歴書を送ると同時に仕事もやめてしまいました。いま考えると無謀ですが、自分はアシスタントになれると信じて疑っていなかったんですね。応募した時点でもう「やった!」と思っていました(笑)。

――勢いがありますね! でも、仕事を辞めてしまうことに対して、不安はありませんでしたか?

若さゆえの無鉄砲さですね。でも、「すぐにでも来てください」と言われたら行けるようにしておきたかったんです。収入はなくなってしまうけれど、自分にはもうとにかくこれしかない。お金がなくなったら日雇いのアルバイトでもなんでもすればいいや、と思っていました

技術力だけでなく、人としての在り方を学んだアシスタント期間

室岡さんの仕事道具。整理整頓され、ひと目でどこに何があるかわかる

――念願叶って藤原さんのアシスタントになることができたわけですが、アシスタント時代はどんな風に過ごされていたのでしょうか。

僕が藤原さんのアシスタントについていたのは約5年間です。他のアシスタントさんは大体2~3年でデビューされていたので、長い方だと思います。

もうかなり前のことになるので、当時のことを事細かに覚えているわけではないのですが、藤原さんがすごいなと思うところは、闇雲に怒ったりせず、背中を見せて育てる方であること。当時の僕には「自分は何でもできる!」という若さゆえの驕りもありましたし、厳しい育て方をする先輩方も多い時代でしたが、失敗したからと言って怒鳴られたり、不条理なことで叱られたことは一度もありませんでした。メイクアップの技術はもちろんですが、人格形成においても理想的な育て方をしていただいたなと思います

アシスタント業務以外にも、定期的にマンツーマンでメイクのレッスンを受ける時間があったり、きれいにカーラーを巻けるかテストされたこともあったと思います。ある日「来月からアシスタントは卒業です」と言われたときは、本当に嬉しかったですね。

感覚としては毎日の業務に一生懸命取り組んでいたという感じですが、日々のなかに気づきがあって、少しずつ自分で考える力が付き、何も言われなくても必要とされていることがわかるようになっていきました。何よりも、本当に多くの現場での経験を経た上でデビューしたので、当初からたくさんの引き出しがあるのは僕の強みでもありました。

――デビュー後はどうやってお仕事の幅を広げたのでしょうか?

既に藤原さんは色々なメディアで活躍をされていましたので、そのアシスタントがデビューすると聞いたファッション誌の方からオファーをいただく機会が多かったです。こちらから売り込みに行くということはなく、僕はとても恵まれた環境にいましたね。

いまでもよく覚えているのですが、デビューして2か月頃、あるファッション誌で10ページにわたる美容企画のお話をいただいたことがありました。初めての大きな仕事に対するプレッシャーも感じていましたが、アシスタント時代に見聞きした経験から、肌の作り方やアイシャドウの色の選び方、アイライン1㎜、眉毛1本の描き方ひとつとっても、すべてにおいて「なぜ自分がこうするのか」を理論的に説明することができました。藤原さんはメイクのHowToページを担当することも多かったので、取材中は常に聞き耳を立てていたんですね。その一つひとつが自分の身になっていたから、困ることはありませんでした

多くの現場で見聞きした経験が、今も生かされている

室岡さんの作品の一例。ティーン雑誌から大人世代まで、幅広い女性をターゲットにヘアメイクを手がけてきた

――アシスタント時代に経験したすべてが、糧になっているんですね。

本当にそうですね。ヘアメイクそのものには流行があったり、だんだん自己流にもなっていきましたが、理論は変わりません。基礎はやはり重要ですね。

アシスタント期間は毎日目まぐるしいほど忙しかったのですが、どの現場も楽しく、まったく苦ではありませんでした。それは今でも変わりません。本来の僕はとても不器用なんですね。この5年間でヘアメイクのテクニックだけでなく、生き方や人との接し方が少しずつ器用になっていった。とても大事な期間だったなと思います。

――もともと不器用だったなんて、信じられません。お仕事をされる上で、大切にしていることを教えてください。

当たり前のことですが、アシスタント時代も今も変わらず、絶対に遅刻しないこと。それから、常に「裏方」に徹することです。僕たちの仕事は、基本的に、その都度与えられたテーマに沿って、スタイリストやフォトグラファーと作品を一緒に創り上げていくこと。例えばファッション誌だったら、一枚の写真を通して「これが欲しい」「こんなファッションをしてみたい」と思わせる女性像を創らなければなりません。ティーン向けから大人の女性を対象にした雑誌まで幅広く手がけてきたので、この振り幅の大きさが楽しかったですね。

テレビやプロモーションビデオ、ライブなど、現場が変われば求められること、考えなければならないことも変わりますが、常に自分の創りたいものではなく、いかにそのテーマに沿ったものを創り上げていくかを大切にしています

室岡さんがヘア&メイクアップアーティストとしてステップアップした3つのポイント

1.アシスタント時代は師匠の一挙手一投足から学ぶ

2.すべての現場で学んだことを、確実に「自分の引き出し」にする

3.現場では主張しすぎず、裏方に徹する

「どの現場も同じことがないので、常に新しい気持ちで取り組めるのが楽しいです」と言う室岡さんからは、ヘア&メイクアップアーティストのお仕事を心から楽しんでいることが伝わってきます。後編では、現在のお仕事や、20年以上美容業界で活躍する秘訣について伺います。

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