スタッフ全員でサポートし合う、ママでも働きやすいサロン環境の構築法。「Nailsalon.BIEN」オーナー・稲村裕子さん
3歳のお子さんの子育てをしながらネイリストとして働く稲村裕子さん。大阪府江坂で約14年続く人気のネイルサロン「Nailsalon.BIEN」のオーナーです。サロンのスタッフは6人中4人が子育てをしながら働いているとのこと。前編では「子どもを産んでもネイリストとして働くことを諦めてほしくない」と語る稲村さんのサロン経営術をお伺いします。
今回お話を伺ったのは…
稲村裕子さん
ネイリスト、「Nailsalon.BIEN」オーナー
大阪府吹田市出身。2008年江坂に「Nailsalon.BIEN」をオープンし、ネイリストとして現在まで活躍を続ける。2022年4月からはネイルスクールを開講。現在は3歳の子どもを育てながらネイリスト、サロン経営者として仕事を行っている。
スタッフ全員で協力して子育て中でも働きやすい環境をつくる
――約14年続く人気サロンを経営されているとのこと。「Nailsalon.BIEN」のコンセプトを教えてください。
長く続けているのでその都度コンセプトが変わっていますが、現在は「スタッフが働きやすいサロン」をつくることに重点を置いています。「Nailsalon.BIEN」は私が出産するまでは、ひとりで長く営業を続けていました。このままひとりで続けようかと思ったこともありましたが、それには限界があって。昨年からスタッフ募集を行い、一気にネイリストを増やしました。現在は私も含めて6名のスタッフが在籍しており、うち4名は子育て中のママさんです。
――スタッフを増やそうと思ったきっかけは?
妊娠・出産を経験し、ひとりで続けるのが難しいと感じたからです。とくに直近の2年は、コロナ禍の影響もあり、子どもが熱を出したときに出勤ができなくなるなど、お客さまに迷惑をかけてしまい、失客をすることもありました。それでもなんとかリピーターさんに来ていただいて経営を続けていたのですが、昨年頃から育児も落ち着き、本格的に働ける状態になったので、新規のお客さまにも来ていただくためにスタッフの増員を行ったんです。現在はより多くのお客さまを対応できるようになり、その分売上も上がりました。とくに子育てをしながらだとひとりの力って限界があるので、スタッフがいてくれて助かっています。
――スタッフの半数以上が子育て中とのことですが意識して採用されたのですか?
はい。自分が出産を経験して、子育てをしながら働くことの大変さを痛感しました。子育てをしていると止むを得ず「土日は出勤できない」「16時までに退勤しなければならない」「急きょ休みが必要となる」といった可能性が高くなってしまいますよね。そうすると採用してくれるサロンってなかなかないんです。でもなかにはすごくいい方もたくさんいるので、そこで諦めてしまうのはもったいないと思って。そのため「Nailsalon.BIEN」はやる気がある方であれば採用して、勤務時間などはスタッフみんなで補い合う仕組みを作ろうと決めました。最初にお話した「スタッフが働きやすいサロン」をつくりたいという思いもそこからきています。
シフト制を導入し、個人に合った働き方を実現
――実際にさまざまな状況の方が働ける環境はどのように作られているのですか?
勤怠をシフト制にして自分の都合のいい時間に働けるようにしています。これは子育て中の方だけではありません。たとえばジュニアネイリストのなかにはまだサロンの給料だけでは生活が厳しいとのことで、勤務時間を調整してダブルワークを行っている人もいます。シフトを自由にすることで、自分の体力や時間、給与にあった働き方ができるんです。その分技術や接客は厳しくチェックして、勤務時間中はしっかりと働いてもらうことを心がけています。
また、基本的にはそれぞれのスタッフに指名のお客さまがいるのですが、急きょ担当が代わることになっても不信感を与えないように、日頃からスタッフ全員でお客さま1人ひとりとコミュニケーションをとるようにしています。
――お客さまとのコミュニケーションについて具体的に教えてください。
スタッフ全員が1人ひとりのお客さまとコミュニケーションを取れるように、好みの雰囲気や趣味を共有しています。「自分の担当」と分けることなく、全員がすべてのお客さまにしっかり関心を持つこと。余裕があるスタッフは自分の担当でなくてもお声掛けをすること、そうすることで全員が顔見知りとなり、担当が変更となった際も理解してくださることが多いです。「Nailsalon.BIEN」には、ワンカラーやキャラクターネイルなどネイリストがそれぞれの得意分野をもっています。そのためお客さまのなかには「今回はニュアンスアートをしたいからこの人に。次はフットだからあの人にしよう」と使い分けている方もいらっしゃいます。
またお客さまとの会話も大切にしています。とくに江坂は転勤で単身住まいのため、周りにまだ友達がいないという方が多く、そのようなお客さまにとってはリフレッシュや情報交換の場になっているようです。お客さまの理想のネイルを作ることはもちろん、プラスアルファで居心地のよさや楽しい時間を提供することが大切です。たくさんお話しをして、スタッフ全員がお客さまとの距離を縮めることでリピーターになってくださったり、信頼関係が構築できたりしていると思います。
教育から就職まで一貫してサポートするためスクールを開講
――ネイルスクールも開講されていますが、こちらの目的は?
スタッフを増やそうとなったときに、「Nailsalon.BIEN」のスクールで学んで、そのままサロンに就職できる仕組みがあればいいなと思ったことが立ち上げのきっかけです。未経験でもフレッシュでやる気のある方に来てほしくて。
それから、手に職をつけるためにネイルスクールに通う方が多いのですが、資格を取ってスクールを卒業しても実務経験がないと実際に就職するのは難しいんです。子どもがいたらなおさら。子育て中でも、経験がなくてもネイリストを仕事にするための挑戦ができる場所をつくりたいと思い、2022年4月にスクールを開講しました。
――実際にスクールから「Nailsalon.BIEN」に就職された方はいらっしゃるのですか?
それが実際に開講したら趣味でやってみたいという方が多く、まだサロンスタッフになった方はいないんですよ。別途募集していた求人で採用を行っていたのでスタッフの人数も足りてしまい……当初の目的は達成できていませんが、今後サロンを増やすことも考えているので、教育から採用まで一貫している仕組みはこのまま残したいと考えています。
どんな状況の人でも働きやすい環境をつくる3つのポイント
稲村さんが行ったどんな状況の人でも働きやすい環境をつくるポイントをまとめると、以下の3つでした。
1.自由なシフトでそれぞれのスタッフにあった働き方を実現
2.スタッフ同士がフォローをしあう、未経験でも働きやすい環境を構築する
3.教育から採用まで一貫した仕組み作り
どんな方でも長くネイリストとして活躍してほしいと語る稲村さん。ご自身の経験を生かした仕組みづくりにより、実際に「Nailsalon.BIEN」のスタッフからは「働きやすくて助かっている」という声がたくさんあがっているそうです。後編では子育て真っ最中の稲村さんご自身の働き方について伺います。