「仕事を休めない日は俺が面倒をみる」このひと言で出産を決意!【六本木美容室 白金店 ゼネラルディレクター 林 真理子さん】#1
美容業界でスキルを磨くワーキングママとパパに、仕事と育児を両立させる方法を伺うこの企画。今回は、六本木美容室 白金店にゼネラルディレクターとして勤務する林 真理子さんにご登場いただきました。
36歳でゼネラルディレクターに就任し、順調にキャリアを重ねていた林さんは「もしかしたら結婚はしないかも…」と感じていたとか。その後、偶然の出会いから39歳で結婚し、41歳で出産。林さんほどのキャリアがあっても、産休・育休を取ることに不安があったそうです。
前編では、パートナーとの出会いや結婚を決意したきっかけ、産休・育休を取ることの不安をいかに乗り越えたのかなどをご紹介します。
お話を伺ったのは…
六本木美容室 白金店 ゼネラルディレクター
林 真理子さん
日本美容専門学校を卒業後、平成4年4月に六本木美容室入社。白金店、西麻布店でアシスタント修行を積んだ後、創業者の小松比奈恵さんのアシスタントを務める。22歳で白金店でスタイリストデビューし、30歳で白金店店長、36歳でゼネラルディレクターに就任する。
休みたくても休めない。私の仕事を理解してくれることが結婚の条件
――順調にキャリアを築くなか、結婚を意識したことはあったんですか?
仕事が楽しくて働いていたら、いつの間にか30代になっていて(笑)、「結婚をしたとしても、働き続けるなら子どもは無理かな」とか「パートナーがいたらいいな」とか、漠然と考えていました。
ですが、ゼネラルマネージャーになったのが30代後半で、そのあたりから「結婚しなくてもいいかな」と考えるように。「1人で生きていこう」って、決心をしてマンションも買ったんですよ。
――1人で生きていく決心をしたところに、パートナーとの出会いがあったんですね。
友人の行きつけのバーで知り合いました。お酒が入っていたこともあって、主人の第一印象を覚えていないんですよ(笑)。でも、イヤな印象がないから、お互いに連絡先を交換したのだと思います。
――結婚に踏み切ることへ、勇気がいりませんでしたか?
結婚するには、私の仕事を理解してくれる人でないと続かない…と思っていました。この仕事は土日や祝日は休めないし、帰宅時間も遅い。予約が入っている限り、急用ができてもお休みできないことなどを主人に説明したところ、「それでも構わない」と言ってくれました。これから先、こんなことを言ってくれる人は2度と現れないだろうなと思って、結婚を決意しました(笑)。
――お子さんに関しては?
結婚を決めた当初から、主人は子どもが欲しい…と言ってました。私は、「子どもに何かが起きても休めない」って説明したら、「そのときは俺が面倒を見る」と言ってくれたので、「それなら産んでもいいかな」と思いましたね。
いったん離れたお客さまが戻るか否かは誰にも分からない。不安を抱えながら産休へ
――妊活はなさったんですか?
自然に任せていました。結婚したのが39歳でしたから、「もしかすると子どもはできないかも…」という不安はありました。子どもができなかったら「主人と2人の生活も悪くないな」と思っていたので、あえて妊活はしませんでした。そうしたら、思っていたよりも早く妊娠してしまったんです。
――妊娠が分かって、パートナーの反応はいかがでしたか?
主人も「もしかしたら、できないかも」と覚悟していたらしいので、ものすごく喜んでいました。
――サロンの方たちの反応はいかがでしたか?
喜んでくれました。特に(創業者の)小松は「あなたが子どもを産むとは思っていなかった」と驚いていました。結婚しても仕事中心の生活を送る…と思っていたのでしょう。私もそう思っていましたから(笑)。
――出産の前後でお休みを取らないといけませんね。どうなさいましたか?
最初は3か月後には復帰しようと決めていたんです。ところが小松から「自分の年齢を考えなさい。4か月は休まないと身体が戻りませんよ」と言われ、4か月しっかりお休みをいただきました。
お休みしている間は、私が担当していたお客さまを他のスタッフに任せなければなりません。相性がありますから、私が勝手に担当を割り振る前に、スタッフたちに「担当したいお客さま」を尋ねました。お客さまには事情をお伝えして、私がお休みしている間に担当を任せるスタッフを紹介しました。
――林さんほどのキャリアがあれば、お休みを取ることに不安はないですよね。
そんなことはありません! 不安だらけでしたよ。担当する美容師が長期のお休みを取ることは、お客さまにとってサロンを替えるきっかけになってしまうんです。同じサロンであっても、たとえ一時でも他のスタッフに任せた以上、私が復帰したときにまた私を指名してくださる確証はありません。不安は大きかったですね。
――その不安をどうやって乗り越えたんですか?
産休・育休を経験した友だちやスタッフに相談したり、主人に不安な気持ちを打ち明けたりしました。主人は「大丈夫だよ」って、何も根拠はないけれど励ましてくれました(笑)。もちろん小松にも相談しました。長期の休みを取ることのメリットとデメリットを挙げて、「復帰したとき、今までのお客さまが全員戻ってくるとは限らない。まずは部下に任せなさい」って。きっと私は小松にも「大丈夫だから安心しなさい」って言って欲しかったんだと思います。でも、現実は違います。現実の厳しさを突きつけられて、逆に焦ったり、心配したりしても仕方がない…と開き直れた気がします。
――妊娠している間の体調はいかがでしたか?
つわりがなかったので、辛くなかったですね。出産予定日の1か月前まで普段通りに働いてから産休に入りました。
仕事のできないイライラをパートナーにぶつけてしまった育休期間
――産休・育休中はいかがでしたか?
出産する前は、忙しくてなかなか会えなかった友人たちと食事をしていました。体調はすごく良かったんですが、いちばん辛かったのが禁酒ですね。出産を経験した友人たちから「味覚が変わるから、お酒は自然と飲めなくなるよ」って聞いていたので、ガマンしなくても普通に止められるものなんだ…と思っていたんです。ところが私の場合、味覚が変わらない。飲みたくても飲めない状態だったので、辛かったですね(笑)。
――妊娠中は何ごともなかったようですが、出産後はいかがですか?
夜泣きがひどかったんです。寝そうだな…というタイミングでそっとベッドに寝かせても、すぐ起きて泣き出すんです。仕方がないのでソファで抱っこしながら寝ることもしばしば。熟睡できないのが辛かったですね。
――パートナーとの関係は変わりましたか?
主人は自営業で忙しいときとそうでないときの差が、けっこう激しいんです。子どもが産まれて赤ちゃんの世話と家事に追われてイライラしているとき、主人の帰りが遅いとつい「いいよね~。あなたは仕事ができるんだもんね」と嫌みを言って、自分が働けない焦りを主人にぶつけていました。それでもケンカにならなかったのは、主人が私のイライラを受け止めてくれていたからなんですよね。感謝しています。
――パートナーは家事や育児を率先してこなすタイプですか?
気づけば自分から何でもやってくれます。ただ料理が得意ではないんですよね。本人なりに一生懸命、2~3時間かけて料理してくれるんですが、その結果が「こんなもんかい」という出来映えなので、それなら私が作ろうと決めました(笑)。もともと料理が好きなので、台所に立つのは苦にならないんです。
――4か月で復職すると決めていらっしゃいましたが、実現しましたか?
休んでいる間、仕事をしたくてウズウズしていましたから4か月で復職しました(笑)。
ただ保育園に預けられなかったので、最初のうちは週3日17時までの勤務で復職しました。約束通り、私の勤務日は主人が面倒をみてくれたのでありがたかったです。保育園に預けられるようになってからは、通常通りの勤務日で18時までの時短勤務にしてもらいました。
――パートナーが自営業とは言え、育児優先の勤務にするのは難しかったのでは?
出会ったころ主人は会社勤めをしていましたが、結婚してしばらくしてから独立したんです。自分で予定を立てやすくなったこともあって、私の勤務時間に合わせてくれるようになりました。
林さん流! 仕事と家庭を両立させるための3つの準備
1.パートナーに美容師という仕事について理解してもらう
2.育児をするなかで「できないこと」をパートナーに理解してもらう
3.長期の休みを取るメリットとデメリットをしっかり受け入れる
六本木美容室に勤務して31年目を迎える林さん。後編では復職してからのお客さまの反応や子育ての難しさなどについてご紹介します。
撮影/森 浩司