美容師が持つ多様なスキルを活かせるグループ会社でマネタイズ【es, Group代表 上村コウイチさん】#2
前編続き、沖縄県那覇市でヘアサロン2店舗を経営する上村コウイチさんにインタビュー。上村さんは各種セミナーや講習会など美容師としての活躍にとどまらず、4年前からはデザイン会社を立ち上げて他分野でも活動をスタートしました。
サロンスタッフと共に新たなフィールドを切り拓いた上村さん。インタビュー後編では、そんな地方でのサロン経営の戦略やアドバイスをお聞きします。
お話を伺ったのは…
es,Group代表/株式会社Braines代表 上村コウイチさん
神奈川県横浜市出身。渋谷国際文化理容美容専門学校卒業後、東京町田のサロンへ入社。横浜エリア4店舗をまとめるマネージャーを務める。東京吉祥寺、代官山のサロンを経て、沖縄県那覇市にて2009年4月「atelier[es]HAIRDESIGN」を立ち上げる。現在、ヘアサロン2店舗、デザイン会社「株式会社Braines」を経営。
客層の変化に合わせたアップデートが
リピート&高単価につながる
――地方でのサロン経営についてお聞きします。開業当時から現在までの成長について教えてください。
僕は東京時代からWEB周りの担当をしていた経験があったので、まずは自分のサロンをアピールする方法の1つとしてホームページを作りました。当時の沖縄では、ホームページがあるサロンは少なく、差別化につながったと思います。また「東京代官山から沖縄へ」という切り口で地域の集客サイトなどに登録しました。その結果、オープンから数年間は、集客にも困らずにやってこられました。
サロンのある那覇新都心という場所が、沖縄の中でも移住者が多い場所だったのも大きいと思います。外からやってきた僕がお店をしているというなら、行ってみようと思っていただけたんじゃないかと。現在では通用しないと思いますが、当時はそんな流れに、とても助けられました。おかげで開業から5年後、2店舗目のサロンを出すことができました。
――2店舗目はスタッフが増えた結果でしょうか。
そうですね。いいスタッフが毎年増えてくれて、同時にお客さんも増えて、予定より早い段階で1店舗目がキャパオーバーになったんです。できれば僕は複数店舗に広げたくはないタイプなので、できるだけ近い場所に2店舗目を出しました。
2つのサロンはスタッフを固定せず、メニューや仕組みも同じにしています。2つのサロンを行き来しながら、1つのサロンのように働いてもらっています。
――現在、集客や売上アップのために取り組んでいることはありますか?
オープン当初に比べてお客さんの年齢層が上がったこと、高単価層と低単価層との乖離に伴い高単価サロンを目指したいという考えから、コミュニケーション面はより重視するようになりました。僕のサロンがある場所は、地元の方はもちろん、経営者や投資家といった様々な分野で活躍している方も多い地域です。そういった洗練された方々が日常生活の中で選択するショップというのは、洗練されたスタッフや高品質のサービスを提供している場合が多いように感じます。
それは美容室も例外ではなく、ストレスのないコミュニケーションが取れることは、より多くの方から支持を得られるきっかけになると思います。そのためにも、自分自身が美容師としてのスキルをアップデートし続けることはもちろん、社会人として、人間として、経営者として、家族を守る夫・父としても成長し続けること。多くの情報をインプットして、お客様と歩調を合わせバランスが取れるようにしていくことが大切だと思っています。
外に出てインプットした情報を
教育としてアウトプットしていくことで
サロン全体で成長していける
――技術力のアップデートや美容情報のインプットのために心がけていることは?
時代と共に進化していくSNSや新たなインフラ、AI など使えるものは全て使って、情報収集は呼吸をするように行っています。また美容師として一定水準以上のものが、当たり前にあるという状態を作るためには、外に出て情報を取り込んでいく必要があると思っています。
東京から持ってきた新鮮な情報も、4年も経てば古くなる。だから自分から薬剤の勉強をしたり、県外まで講習会に行ったりするようになりました。日帰りのセミナーではなく、コースで学校に入るくらいの学びを持ち帰り、それをサロンでスタッフに伝える。そういったインプットとアウトプットを続けた時期もありました。
僕自身、今後もハサミを置くイメージはないので、今でもサロン内教育の柱となるカット、カラー、パーマなどは僕自身がスタッフ指導をしています。その延長で、各種セミナー講師のお仕事をいただいたり、他サロンさんの教育を外注いただくことも。
そういったアウトプットの機会を意図的に作ることで、インプットからアウトプット、さらにサロン教育につなげ、お客様へ提供できるところまで落とし込む…という流れを、スピード感を持ってできる仕組みを作っています。
それは経営面も同じで、お金の話や世の中の雇用の話など、興味のあることからどんどん取り込み、朝礼や終礼でみんなにアウトプットしていく。そうして同じ目線で話ができるブレーンを何人か育て上げることを意識しています。
美容師のスキルを活かして会社で副業!
仕事を生み出し地域の美容師全体の幸福度をアップ
――現在力を入れている活動を教えてください。
現在サロン経営とは別にWeb関連のデザイン会社を立ち上げ、4期目になります。この会社を始めたきっかけは、美容室経営で目指せる利益率だけでは、スタッフに還元できる幅が足りないと感じたからでした。スタッフも一緒に年齢を重ねていくなかで、家族を持ったり、家や車を持ったりという、ある一定の幸せの基準ラインにスタッフ全員を送り届けることが、このままでは難しいと思ったんです。
東京時代から趣味の延長として、ホームページ制作などのウェブ関連のことは、知り合いに頼まれてやっていました。それが徐々にマネタイズできるようになってきたこともあり、起業してスタッフに還元できる仕組みを作ろうと考えました。
一般的に美容師さんが持つ対人コミュニケーションや芸術センスなど、様々なスキルのレベルはとても高いと感じています。特に近年は写真や動画の編集、イラレやフォトショでのデザインなど、高い個人スキルを持つ方が増えています。そういった各々のスキルを仕事として活かせる場を作り、サロンワーク以外に時間の切り売りではない新たな生産の場を作れないか? そうして作った会社では、自サロンのスタッフだけでなく、共感してくださる他サロンの美容師さんにも外注として仕事を受けていただいたりしています。
――では今後、取り組んでいきたいことは?
他企業との連携のもと、メタバース事業などにも参入を計画しています。これからは美容に限らず様々な分野で、企業間連携による新たな事業形態が生まれていくと思うんです。そういった活動は、美容師だけしていると見えてこない社会の仕組みなども見えてくるものがあり、結果的に関わっていただける方たちの「美容師としての幅」も広がると感じます。近年、美容師の労働環境や収入面での不安定さなどが取り沙汰されていますが、そういった面でも新しい取り組みができないかと考えているところです。
――最後に、これから地方でサロン経営を目指す方にアドバイスをお願いします。
今回お話させてもらったことは、ほとんど昔話に近いものです。沖縄でのオープンから15年の間に変わったことはすごく多いけれど、その中でも変わらないもの、変えないほうがいいことはあると感じています。
例えば人同士のつながりやサロン教育の大切さ、何のために美容師を目指したのかという原点。そういった想いの部分というのは、独立して地方に行くという人たちが一番強いはずです。そこは、どんなことがあっても変わらないと思うので、大切にして欲しいですね。
もちろん夢だけでは筋が通らないところも必ずあるので、いろんな経験者から話を聞いて。3割くらい余力を残してスタートできるといいんじゃないかと思います。
取材・文:山本二季