教えることの楽しさに目覚め、新事業にも積極的にトライ! 私の履歴書 【メイクアップアーティスト 天野雅之さん】#2

自身のひらめきや直感力を頼りに、色鮮やかなメイクの世界へ足を踏み入れたメイクアップアーティスト・天野雅之さん。新鮮な学びに満ちた学生時代を経て、最初は株式会社ロレアルの「GIORGIO ARMANI beauty(ジョルジオ アルマーニ ビューティ)」で美容部員として従事。徐々に頭角を表していく中、同社の別のコスメブランド「HELENA RUBINSTEIN(ヘレナ ルビンスタイン)」の役職者の目に留まり、メイクアップアーティストとして歩み出すこととなりました。

後編では、メイクアップアーティストとして天野さんが続けてきた挑戦についてご紹介します。着実にキャリアを築きつつ、トレーニングやレッスンなどといった、教えたり伝えたりすることにも楽しさややりがいを見出していく天野さん。そんな中で自ら安定したポジションを辞し、ステージを変え、新たな事業も開始。活躍の幅がますます多彩になっていきます。

メイクアップアーティストとして、本格的にキャリアをスタート

「ステージを変えていくにあたり、やはり人とのご縁は大きなきっかけになっていますね」(天野さん)

――「HERENA RUBINSTEIN」は、メイクアップよりもスキンケアの比重の方が高い印象ですが、当時はいかがでしたか?

そうですね。今でこそアンチエイジングに向けたスキンケアの比重が高いブランドとなっていますが、当時(2006年~2007年頃)は、スキンケアとメイクアップの比重が半々くらいの割合だったんですよ。メイクアップのアイテム数もニーズも多かったので、僕はメイクアップの方面で携わっていました。

「HERENA RUBINSTEIN」にも3年くらい在籍していましたが、2年目くらいだったかな。「CHANEL(シャネル)」に転職してメイクアップアーティストとして活躍していた、美容部員時代の以前の上司から、「CHANEL」で一緒に働かないかとお誘いをいただいたんです

――「CHANEL」へ転職のきっかけは、オファーだったのですね。

はい。「GIORGIO ARMANI beauty」でも、メイクアップアーティスト兼トレーナーをされていた方で、大変お世話になった方でした。しかし実は、このお誘いを一度お断りしています。その時は、今のポジションを辞してまで転職する明確な動機がなかったので。

でもその1年後、その方から再度オファーの連絡をいただいたんです。そこで改めて考え直してみた時、もう一度この方と一緒に働いてみたいと思った。結局この2度目のオファーを受けて、「CHANEL」のメイクアップアーティストとして転職することに決めました。

――「CHANEL」での仕事で、これまでと違ったことなどはありましたか?

「CHANEL」ではアーティストとしての業務の一環として、スタッフの教育にも携わるようになりました

社内のメイク試験に合格した美容部員をメイクスペシャリストと呼んでいるのですが、主な業務はそのようなスタッフに対してのスキルトレーニングや、全スタッフ向けのHOW TOメイク動画の作成などです。

――今までとまた違った職務ですが、心がけていたことはありますか?

スタッフを教育する上での一番の目的は、「お客様に製品の良さを伝えること」や「その製品を使ってみたいと思ってもらうこと」ですよね

そのためにまずは、必ず自分自身で製品を試すことの大切さを説明していました。何度か試すうちに、その製品の良さに気づけるものなんです。そもそも、自分が良いと思えないと紹介できないですからね。

また、スキルが身につくと技術や言葉が専門的になりがちになりますが、自分で製品を使った経験があれば、そんな専門用語を使わなくとも、自分で感じたことを自分の言葉で伝えられるようになります。そして、そのほうがお客様にも伝わりやすいんです。

製品の使用前後の変化や使い方をいかに魅力的に、かつ具体的にわかりやすくお客様へ伝えるか。メイクアップの技術だけでなく、お客様への伝え方と合わせて指導することを心がけていました

刺激を求めて転職。次の舞台は、当時成長中の「SHIRO(シロ)」

メイクがどんどん美しくなり、スキルアップしていく成長過程を直に見ることが教えることの魅力だと、楽しそうに語る天野さん

――その後2019年に「CHANEL」から「SHIRO」へ移られていますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

「CHANEL」には10年ほど在籍していましたが、だからこそ「この先の仕事も、基本的には同じルーティンだろうな」というのが、なんとなく見えてきてしまったんですよね。10年は節目としてもちょうどよく、「何か新しいことを始めるなら、今かもしれない」と思い立ち、「CHANEL」を退社することにしました。

その後は少しゆっくりしながら、自身の振り返りや今後のことを考える時間を設けました。そこで改めて気づいたのは、僕は「教えることが好き」ということ。僕のトレーニングでスタッフが成長していく姿を見るのはとても嬉しく、スキルの習得を喜んでもらえることは僕自身の喜びでもあり、やりがいを感じていました。

加えて、今まで大手の外資系企業で働いてきたこともあり、環境を変えてみたいとも思ったんです。具体的には、規模が大きすぎず、成長期である企業で働きたいな、と。これらを軸に転職活動を始め、出会ったのが「SHIRO」でした。

――「SHIRO」への転職には、何が決め手となったのでしょうか?

2つあります。まずは、ちょうど僕が考えていたように現在成長中の企業で、何かしらのチャレンジができそうな社風だったこと。もう1つが、「SHIRO」が作るビジュアルが個人的に好みだったことです。僕がこれまでに在籍したブランドにも共通していますが、大事なポイントをしっかり押さえていると思ったんです。

「SHIRO」のことは、当時相談していた転職エージェントから紹介してもらいました。決まったポストへの応募といった形ではなく、まずはフラットな状態で社内の方とコンタクトを取らせてもらえることになりまして。話し合った末、「メイクアップアーティスト兼トレーナー」というポストを作ってもらい、「SHIRO」への入社が決まりました。

「CHANELとSHIROは、一見タイプが違うように見えて洗練された雰囲気が共通していて、そこに惹かれました」(天野さん)

――「SHIRO」では、どのような業務をされていたのですか?「CHANEL」との違いはありますか?

また少し異なりましたね。「CHANEL」ではメイクアップのスキルをより専門的にトレーニングしていましたが、「SHIRO」ではメイクアップも接客も含め、もっと全般的に関わっていました

具体的には、全スタッフに対する製品やメイクアップ、接客に関するスキルトレーニングやその内容策定、構築などといった、美容部員として必要なスキルの指導が主な業務です。

それでも、基本的に心がけていたことは「CHANEL」の時と変わりません。前職の経験は、「SHIRO」でも生かすことができました。

「自分が欲しいものを作りたい」——満を持して「LOCA」立ち上げへ

「LOCA(ロカ)は、特にスキンケアブランドという位置付けではありません。今後、大切な人に勧めたくなるような製品を幅広く展開していきたいですね」(天野さん)

――「SHIRO」でも、またこれまでのキャリアと違った経験ができたんですね。

そうですね。これまでとは違い「SHIRO」では製造から販売まで一貫した体制だったということもあり、ものづくりに対する想いや考え方に触れる機会が多くありました。そのような経験もあり、自分で理想の製品を作ってみたいという想いが生まれ、2022年に「SHIRO」を退職。後にコスメブランド「LOCA(ロカ)」を立ち上げることになります。

――「LOCA」を立ち上げようと思われた理由やきっかけを、天野さんの視点から聞かせてください。

今までメイクアップを通してたくさんの方に出会ってきたことで、スキンケアやメイクでその人が変わることを間近で見てきたことが大きいですね。そのために必要だと思うもの、そして「自分が使いたいと心から思えるもの」を自らの手で作りたいと思いました。

そんな思いを一緒に形にできる人との出会いにも後押しされ、こうして事業をスタートすることができています。

――「LOCA」では、どのような商品を展開していくのでしょうか?

第一弾のプロダクトとして選んだのは、美容液です。まずは肌に必要な基本となる栄養を、過不足なくきちんと与えたいと思ったんです。例えて言うなら「1日分の野菜生活」みたいな美容液という感じ。美容液とは、肌悩みに応じたプラスアルファの効果を付加する製品が多いですが、この美容液は、それとはまたコンセプトから異なっています。

――スキンケア用品なんですね!

僕はメイクアップを専門とする人間ですが、美しいメイクアップには、まず美しい肌という土台を育ててあげる必要があります

僕には、自分の理想とする肌のイメージがあるんです。誤解を恐れず表現すると「エロスを感じる肌」。キメが細かく透明感があり、触れたらしっとりと吸い付くような肌です。具体的にこれに近いのは、体の部位で言う内腿に近い感じの肌でしょうか。

この美容液は、そんな肌に近づけるための製品だと思っています。

――私も使ってみたくなりました。天野さんは、「LOCA」をどんなブランドに育てていきたいと考えていますか?

「大切な人に勧めたくなる」ような製品やブランドを目指したいです

今、世の中には数えきれないくらい美容に関する製品が存在しますが、中には、「本当に意味があるのか?」と疑問に思うようなものも多々あります。

そんな飽和した状態だからこそ、本当に必要なものだけを濾過(ろか)したような製品を、世の中に届けていきたいですね。これは、「LOCA」という名前の由来にも通じています。

――美容業界で様々な挑戦をされてきた天野さんですが、これから美容業界を目指す方へのアドバイスがあれば、ぜひお願いします。

自分も楽しむこと。そして、自分なりのモチベーションを見つけることですね。僕の場合はお客様の喜ぶ顔がモチベーションです

美容部員時代に担当した女性のお客様との間に、印象的なエピソードがあります。

そのお客様が、飲み会の前にお店にお立ち寄りいただいた際、僕がメイクを担当しまして。後日、その時の飲み会で彼氏ができたと報告しに来てくださいました。

さらに後日その方が来店されて、僕にまたメイクをして欲しいと指名してくださったんです。お話を伺っていると、今日のデートで彼氏に逆プロポーズするおつもりだそう。そんな大事な日にメイクを任せてもらえる嬉しさを噛み締めつつ、お見送りしました。

そして後日、またその方がお越しになって、結婚されたことを報告してくれたんです。とても幸せそうなお客様の話を聞きながら、僕自身のことのように嬉しくて、メイクがその人の背中を押してくれるきっかけになったのかな、と改めて感動しました。

こんな素敵な瞬間に立ち会えるのも、美容業界の醍醐味の一つかもしれませんね

現在、オンラインにて予約制メイクアップレッスンを実施している天野さん。大切な日に備えて、天野さんのメイクの力に背中を押してもらうのもいいかも?

――天野さんにとって、「働く」とは?

「表現」することです。もっと具体的に言うと、「自己表現」や「自己満足」かな。そして、これらを通じて誰かの役に、または社会の役に立つこと

これらを繰り返していけば、そこからまた自然と、自分がやりたいことに繋がっていくと信じています。自分の仕事と社会が循環するような、そんなイメージですね。

天野さんの成功の秘訣

1. 自分の直感を信じて行動する

2. お客様の感覚に徹底的に寄り添う

3. 新しいことへの挑戦や新しい環境を恐れない

撮影/野口岳彦
取材・文/勝島春奈

Data

LOCA

 

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