経験を積んできた今、また新たなスタート地点に立てることに感謝したい【SHEA aoyama/ディレクター 前坂美来乃さん】#2
「心地よい暮らしと髪と人」をコンセプトに、髪を整えるだけでなく、ライフスタイルに寄り添った美容を提案しているSHEA。
青山店でディレクターを務める前坂美来乃さんは、ニュアンスのあるお洒落なパーマヘアに定評があり、お客様からはもちろん業界からも注目される美容師の一人です。
後編では、名古屋→東京で再スタートしてからの経験や感じたこと、得意とするパーマスタイルについて、今後の展望までたくさんお話していただきました。
お話を伺ったのは…
SHEA aoyama ディレクター 前坂美来乃さん
愛知県の美容室で7年勤務後、以前より憧れの強かった東京のサロンへ転職。「AnZie」に所属し、閉店とともに当時代表であった坂狩トモタカ氏が立ち上げた「SHEA」(表参道店)に参加。2019年、青山店オープン時に店長に就任し、現在はディレクターとして活躍中。
東京は仕事のチャンスも多いけど、目を養えるチャンスも多い
――名古屋と東京のヘアサロン、両方で働かれた経験から違いを感じたことは?
名古屋と東京でどちらがいいというのは特にないですが、やはり東京は人も美容室の数も圧倒的に多いですよね。
私が東京に出てきた理由の一つは、もっといろんな仕事をしてみたいという気持ちがあったから。
お客様をたくさん担当するのもそうですが、作品撮りやメディアでの撮影なんかは東京に来てから学んだこと。
名古屋時代はほぼ経験がなかったので、驚きもたくさんありましたよ。「パーマのロッドってこんなに大きくていいんだ! こんなにお洒落なスタイルが作れるんだ!」というのは衝撃でした。
――東京は人が多い分、お客様の求めることやスタイルにも幅が出てきそうです。
それはあるかも。本当にいろんな人がいて、おもしろいです!
学生の頃から東京が好きでよく遊びに来ていましたけど、人間観察するの一番楽しかったかもしれません。
「あの人の髪型お洒落だな」とか、「洋服とヘアすごく合ってるな」とか。東京のファッション感度はやっぱり高いし、その街それぞれの特徴や魅力もありますよね。
先輩美容師から学んだことで、「目で人を切る」というのがあります。通りすぎた人のヘアスタイルを見て、自分だったらここをこういう風に切るな、●●が似合いそうだな、とイメージするんです。
私も街ゆく人を見てはヘアスタイルの参考にすることも多いですし、東京は目を養えるチャンスはすごく多いなと思います。
「パーマが得意」から「パーマのカウンセリングも得意」と気づく

前坂さんが得意とするパーマスタイル。前髪パーマ、毛先パーマ、根元パーマなど、さまざまなテクニックを駆使。ライフスタイルに寄り添う丁寧なカウンセリングを心がけている。
――先ほどロッドの話もありましたが、前坂さんと言えばパーマスタイルが人気です。
ありがとうございます。もう私は専門学校の時からカラーよりパーマが好きで、パーマに憧れていた部分もありましたね。
坂狩が全国でパーマのセミナーをするほどの腕前だったので、その技術を学ばせてもらえたのはとても大きいです。
デジタルパーマの登場で、一気に変わっていった感じはあります。毛先だけパーマや前髪パーマなど、デザインの幅も広がったし、自分での再現性も高いスタイルが提案できるように。
――最近また、パーマスタイルの注目が高まっていますよね。
チャレンジしたい、やってみたい、と思う人が増えているのはうれしいです。
SNSを始めた時に、私の作るパーマスタイルを見てそこから来てくださるお客様もけっこういました。SNSを通していろいろ聞けた声もあったのですが、そこで改めて気づいたのは、パーマはカウンセリングがとても大事だということ。
私はパーマを得意分野として打ち出していたけれど、それに付随するカウンセリングが大事と再認識。今はそれを強みとして、もっと言っていこうと。
――確かにパーマのカウンセリングって難しそうです。
同じようにかけても、お客様によっては失敗してしまうこともあります。
髪質やクセをチェックするのはもちろんのこと、初めてかけるのか、前に失敗した経験はあるのか、自然乾燥するのか、ドライヤーを使うのか、どのくらいのカール感にしたいのか……本当にいろいろあります。
SNSやヘアカタに載っているパーマスタイルも、ものによっては実際にパーマをかけてなくてアイロンで巻いて表現していることも多いです。だから、仕上がりの質感がどんな雰囲気になるのかも、いろいろ見ながらしっかり共有します。
ライフスタイルと擦り合わせながら、なりたいパーマヘアにより近づけるように組み立てていくことが大切だと思います。
30代後半、また新たなスタート地点に立てるのがうれしい
――青山店の店長を経験されて今はディレクターに。後輩が増えていく中での教育面や考えることはありますか?
アシスタント、スタイリスト、トップスタイリスト、店長、ディレクターと、階段をのぼってきたわけですが、1個上のレベルに上がれた時にようやく自分が今までやってきた仕事が見えてくるんだなと。
今ディレクターになって、店長という立場をちょっと引きで見れるから、そこから反省点が見えたりアドバイスができるのかな。たくさんのぼってきたからこそ、広く俯瞰で見られるというイメージです。
――「教える」「伝える」時に心がけていることは?
一人一人の個性をリスペクトした上で話をすること。
人によって、考え方も感じ方も捉え方も違います。だからその人に対する伝え方と言葉選びで、「分かってもらえるように伝えることが」が大切だと思います。
私は伝えたい気持ちが前に出て正論を言いがちで、正論って逆に傷つけてしまうこともあるから、そこは気をつけるようにしています。まだまだ未熟な部分です。
あとは定期的に社内でフォトコンをするのですが、私はディレクターなのでアドバイスをする立場。
ダメ出しよりも、何かいいヒントを与えられるような、楽しく取り組めるような、そういうアドバイスができるようにと考えています。
――今後の目標や、やってみたいことはありますか?
もう発表はしているのですが、2025年3月に岐阜県の飛騨高山にSHEA TAKAYAMAがオープン予定です。私の地元です。
――前坂さんがそちらの店舗に?
そちらの代表をまかせていただけることになり、東京と高山の二拠点で活動していきます。私が高山に行っている間だけお店を開けるという形になる予定です。(今後やっていくうちに変わるかもしれませんが!)
――どんなお店になりそうですか?
髪を切るだけじゃなく、地元のよさをシェアできたり、美容に限らずよいものを広めていったり、そんな場になるといいなと思っています。
東京のエッセンスは伝えたい、けれどその土地にはその土地の魅力もありますよね。だから、うまく噛み砕いて、心地よく受け入れてもらえるような工夫もしていきたいです。
「あのお店何だろう? 気になるな〜!」そんな存在になっていけたら。
――また新しいチャレンジが始まるのですね!
この歳で、新しく考えたり勉強できる機会があることが、本当にありがたいです。大変なこともあると思いますが、それ以上に楽しんでやりたいです!
――最後に、前坂さんにとって「働く」とは?
「人生」です。
私本当に趣味と言える趣味がないんですよ。なので、今まで一番長く続けてハマれているのが美容師という仕事。ずっと美容師でいたいと思っているから、働くことは人生。
80歳のおばあちゃんになってもパーマを巻いているような、そんな感じに憧れます。
遊んで暮らしたい、早くリタイアしたい、そういう気持ちがまったくないんです。働いていることが自分のエネルギーになっているし、働いている自分が一番好きかもしれません。
一生働けるにはどうしたらいいのか、どんなスタイルがあるのか、またこの新しいステージを迎える時に考えていきたいです。
前坂さんが大切にしている3つのこと
1.人とのつながりを大切に、人生をつないでいく
2.一人一人にきちんと響くような言葉選びと伝え方
3.何度でもスタート地点に立って前に進む気持ち
取材・文/青木麻理(tokiwa)
撮影/高嶋佳代
Salon Data
