何ひとつ諦めたくない。ママ美容師が勤務時間を縮小しても売上をキープし、幸せを手にするまで【美容師 なかざわまりさん】♯2

美容師歴26年目の、なかざわまりさん。長野県で10年、結婚と出産を機に移った神奈川県川崎市で10年、現在はフリーランス美容師として5年目を迎えます。週3日ほどの勤務ながら、フルタイム勤務時と同水準の売上をキープ。技術力はもちろん、お客様の将来まで見据えた髪の提案で、確かな信頼を得ています。

前編では、なかざわさんが美容師として新人時代を過ごした長野での経験を中心に伺いました。

後編では、なかざわさんの転機となった出来事について伺います。ふたりのお子さんを育てながら全力で働くなか、体調不良をきっかけに「この働き方に無理があるのでは」と考え始めたなかざわさん。

その後フリーランス美容師へと転身し、SNSを活用した集客と確かな技術で、週3日勤務でもフルタイム時と変わらない収入を実現するまでになったそうです。子育ても仕事も諦めず、全方位の幸せを手にするまでを伺います。

お話を伺ったのは…

なかざわまりさん

フリーランス美容師

神奈川県横浜市出身。父親の仕事の都合で長野に移り、子ども時代を過ごす。その後、美容師を志し、長野市内の美容室で働きながら通信制の美容専門学校に通い免許を取得。結婚、出産を機に神奈川へ拠点を移し、現在はフリーランス美容師として5年目に。週3日勤務でフルタイム時と同水準の売上をキープし、心に余裕を持ちながら子育てと仕事の両立を実現している。

インスタグラム

note

美容師の仕事が楽しくない。「暮らす」と「働く」のバランスを見直して

現在は三兄弟の母親でもあるなかざわさん。美容師としての転機は子育てのなかで訪れた

――その後フリーランスとなったのはなぜですか。

次男が1歳半くらいのときに、「暮らす」と「働く」のバランスを本気で考えるようになった出来事がありました。当時、子どもを保育園に預けながら忙しく働いていたのですが、次男が熱を出し、私にもそれがうつってしまったことがあって。そういったことは日常茶飯事だったのですが、そのときは熱が1週間ほど下がらなかったんです。

このとき、これだけ熱が下がらないということは、今の働き方は自分には合っていないのではないか、無理があるのではないかと考えました。ただすぐに働き方は変えられず、しばらくは仕事を続けましたが、がむしゃらに働いても空回りをしている感覚が増え、あれほど好きだった美容師の仕事を楽しめていない自分に気づいたんです。体にも影響が出て、徐々に痩せてしまいました。

そんなとき、あるお客様から「美容師の代わりはほかにもいるけれど、ママの代わりはいない」と言われた言葉が胸に刺さり……。やはり私が今守るべきは家族だと思い、3人目の妊娠を機に退職することにしたんです。

――一度は退職した後に、美容師に戻ったきっかけは?

かつて川崎のお店で一緒に働いていた後輩が、今私がフリーランスとして所属している「titi」に転職し、紹介してくれたことがきっかけです。

それまで三男が幼稚園に預けられる年齢になるまでは専業主婦でいようかとも考えていましたが、やはり私は美容師の仕事が大好きで、心のどこかで「いつか美容師に戻りたい」と思っていました。「titi」はとくにフリーランスや、面貸しサロンという形態のお店ではないのですが、オーナーが私の事情を考慮してフリーランスとして自由に働いていいと言ってくださって。自分で働き方をデザインできる、その点に魅力を感じて復帰を決めました。

――フリーランスになることに対しての不安はありませんでしたか?

むしろ「不安材料が多過ぎて、かえって深く考えずに始められた」というのが正直なところです(笑)。お客様とのつながりはほとんどないところからの再出発。子どもも小さかったので、最初は「週1で働けたらいい」くらいの感覚でした。それでも、また美容師として働けることにワクワクしていました。

「売上」は追わず、目の前のひとりに集中する

フリーランスになってからは、SNS発信に力を入れてきたという

――そこからどのようにしてお客様がつくようになったのですか?

当時は主にFacebookを使って発信をしていました。等身大の想いを発信し、つながった方がお客様として来店してくださっていました。さらにお客様がFacebookで口コミを広げてくださり、「紹介の輪」が数珠つなぎに広がっていったんです。

――現在はFacebook以外にもnoteやInstagramなど、さまざまな発信をされていますね。

はい。ハマるとコツコツ続けるタイプで、発信はずっと継続しています。

ただ、私は腑に落ちない施策はやらないタイプ。数字だけを追って急激に売上を伸ばすというより、等身大の自分を発信し、それに共感してくださる方をお迎えするスタイルを大切にしてきました。

売上の伸ばし方には2種類あると思っています。ひとつは数値や結果を明確な目標にして追いかけるタイプ。もうひとつが、過程を大事にするタイプ。私は完全に後者です。売上そのものを意識するのではなく、目の前のお客様に集中すること、そして自分を正直に発信すること。その積み重ねが結果につながりました。

今は週3日勤務ですが、手取りは社員時代と同水準、ときにはそれ以上になることも。フリーランスなので税金などを含めトータルでは大差ないかもしれませんが、心の幸福度は格段に上がりました。

――具体的には心境にどのような変化がありましたか?

心穏やかに働けるようになりました。働き方を変えてから改めて振り返ってみると、私は子どもを自分の目が届く範囲で見守りながら働きたかったんだと気づいたんです。また心と体に余裕が生まれたことで、仕事でのクリエイティブな挑戦もしやすくなりました。

ここ数年、「自分の幸せとは何だろう」とよく考えます。私なりに模索をして、「一人時間のカフェ」や「旅行」など試してきましたが、私にはいまいちしっくりこなくて。最近わかったのが、私の幸せとは「自分の感情を否定せず、きちんと味わうこと」でした。家族の幸せのために働いているからこそ、まず自分を大切にする。嫌なものは「嫌」と認め、悲しさや不安もなかったことにせず受け止める。そうすることで幸せを感じられるようになったと思います。

「髪」で気持ちに寄り添える、第三の居場所であり続けたい

なかざわさんの仕事観について教えてもらった

――美容師として大切にしてきたことは?

大事にしてきた言葉がふたつあります。ひとつは長野での美容師時代の会社の社訓で「喜びの種まきをする」という言葉です。この姿勢を大切に目の前のお客様を喜ばせることに集中してきました。

もうひとつは髪を大切に扱い、気持ちに寄り添うことです。私はいわゆる有名店の出身ではなく、街の美容室でずっと働いてきました。だからこそお客様との距離感もとても近かったと感じます。そんなお客様から、第三の居場所のように感じていただける存在でありたいと常に思い、お客様に接してきました。

また技術の面では、お客様のバックグラウンドや生活環境、日々できるケアの範囲を見極め、そのうえで無理のない提案を心掛けています。その結果、ありがたいことに「技術力の高さはもちろん、先を見据えた提案をしてくれる」「髪を痛ませないよう配慮してくれる」と評価いただくことが多いです。

――なかざわさんにとって働くこととは?

私にとって働くことは表現することであり、生きることそのものです。とはいえ、「仕事のために生きる」わけではありません。お客様の言葉にならない想いを、髪を通して形にする、それが私の「表現」です。

たとえば自営業のお客様から、ご自身のビジネスのための撮影前のヘアカットやヘアメイクを依頼されることがあります。多くの方は「きちんと見せる」方向に寄せがちですが、「その人の魅力は別にある」と感じれば、もっと人間味や親しみが伝わるスタイルを提案します。こういったことも表現のひとつだと思っています。

またサロンにいらっしゃるお客様に対しても、「なぜその髪型にしたいのか」という部分に丁寧にうかがい、想いをすくい上げて髪に反映させることを大切にしています。

――これからも美容師の仕事を続けていきたいですか。

はい。私は美容師を「天使の仕事」だと思っています。これは川崎で最初に働いたサロンのトイレに掲げられていた書に書かれていたことです。「美容師は天使の仕事。カットで過去のわだかまりを断ち切り、セットで心を整える」と。その文章を読んだときに「私が美容師としてやりたかったことはこれだ!」と思いました。これからも、髪だけでなく心まで整えるお手伝いをしていきたいです。

そして、子育てか仕事かを取るような人生ではなくて、全方位で幸せになりたいと考えています。ママが楽しそうにしていたら家族も幸せになるし関係性もよくなる。これからもずっとやりたいことは全部やって、どの幸せも諦めない、そんな人生を歩んでいきたいですね。


美容師という仕事を心から愛し、関わる人の毎日に「喜びの種」をまいてきた、なかざわさん。語られる言葉の1つひとつから、その想いの確かさと温度が伝わってきました。子育ても仕事も諦めることなく、着実に夢を形にしていく姿は、多くの女性に勇気を与えるのではないでしょうか。


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titi
神奈川県川崎市川崎区宮本町5-5 杉浦ビル2F
044-742-9973 

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