働き盛りの今こそ実行! 後悔しない親孝行とは? 松本流人生の心得 #3
10代から人気少女モデルとして活躍し、20代で売れっ子スタイリストに。40代で人気女優を抱える芸能事務所社長になり、50代で全財産を失い……そして現在68歳! 人気シニアモデルとして返り咲いた、松本洋子さん。まさに、“転職だらけの人生”だったとか。
モアリジョブ読者にとっては、お母さんより上の世代かもしれません。でも、その時代から“バリキャリ”として、浮き沈みの激しい芸能界で生きてきた彼女。
厳しい世界に身を置いてきたからこそ、社会人として必要な人を見極める力、根性、立ち居振る舞いが身についたと言います。元祖・働き女子の代表として、仕事、生き方、そして親とのつき合い方まで教えていただきました。
ときどき親に近況を知らせていますか? ちゃんと帰省していますか? わかってはいても、忙しいとつい“いちばん身近な存在”をおろそかにしがちです。いちばん大切なモノだと言うことは誰もがわかっているはずなのに……。松本さんは言います。
「働き盛りの今のうちだからこそ、意識して親孝行しておくべきよ。自分が後悔しないためにもネ!」
50歳になるまで父とは衝突しまくったわ!
「父は大正生まれの公務員。ハンサムでスポーツマンで自慢の父でしたが、私が少女モデルの仕事をし出したときから、私の就く仕事、就く仕事が気に入らず、長い間、反目し合っていました。確かに今と違い、1960年代に“芸能界”なんて、真面目に生きてきた父にとっては遠い世界なことはもちろん、とんでもない世界!心配だったんでしょうね。でもそれを今のお父さんたちのように素直に表現できなかったんです。昔の男ですから。
だから本当は、『洋子、毎日こんなに遅くまで働いていて体、大丈夫なのか?』と言いたいところを、『いつまで寝ているんだ!?さっさと起きろ!』になってしまうんですね。私も心の奥底では父の心配をわかっているのに、いざ怒鳴られてしまうと、ついカッとなってしまって言い返してしまい、案の定、親子げんか。そんなことの繰り返しでした。40歳のときに家を飛び出したのも、父の時代錯誤な父権と横暴さに堪忍袋の緒が切れたからです」
ある日、親も老いてるって気づくのよ
家を飛び出してから約10年は、親のことを考える暇すらなく、ひたすら芸能事務所の社長として仕事に奔走したという松本さん。でもある日……。
「私が50歳になった頃かな。長い間、糖尿病を患っていた父の容態が、視界がかすむくらい進行してきたんです。合わせて私も人間関係のストレスから精神的につらい時期で……改めて“家族”に目が向き始めたんですね。そんなとき、ふと思ったんです。『父も母も、今は元気だけれど、この“元気”っていつまで続くんだろう』って。
若い頃、親って永遠の存在でしたよね。でも、気づけば私だって50歳。だもの、親だって確実に年を取っているんです。でも、そんな当たり前のことも、日々忙しく働いていると、人間って忘れてしまうんです。だからこそ、今の若い子たちに伝えたいんです。仕事で忙しい時期こそ、意識して親孝行しておきなさいよって。仕事で忙しい時期というのは、いちばん元気な時期でもありますからね。親孝行する余力がある証拠なんですよ!」
50歳、慌ててはじめた親孝行(笑)
そう思うが早いか、さっそく今までの穴埋めをするように親孝行をはじめたという松本さん。
「だって、このままぎくしゃくした関係がずっと続いたら、父は私と反目しあった思い出しかないままになってしまうと思って、私、焦ったんですね。だから“気づいた今が親孝行のチャンス”と思って、父と母をいろんなところに連れていきました。
当時は時代もバブル期で、私も経済的に潤っていましたから、豪華な旅行でしたが、親孝行って賭けた金額じゃないと思うんです。離れているなら週末に電話を入れてあげるだけでもいいし、近くに住んでいるならランチを一緒に食べるだけでもいいんです。親にとって、子どもっていくつになっても子ども。永遠に心配で愛おしい存在なんです。こまめに近況を話したり、元気な姿を見せてあげてください。
私、あのとき気づいて親孝行して、本当に良かったと思っています。じゃなきゃ、絶対に後悔していたはず。父は3年前に91歳で亡くなりましたが、寝たきりになってもうわごとのように『洋子がいろんなところに連れていってくれたよなぁ』と言ってくれて……。なかなかお互いの愛情に素直になれなかった父娘でしたが、最後、少しだけ素直になれたかな。だからこそ、気持ち良く、最期、父とお別れできた気がします」
取材・文/児玉響子
profile
松本洋子さん
1948年東京生まれ。15歳で少女モデルとしてデビュー。1970年写真家・西宮正明氏にスタイリストとして師事。1975年に独立し、フリーのスタイリストになる。「明治製菓」「サントリー」「ライオン」などのCMを中心に活躍。その後、布施明氏、小柳ルミ子氏、ディオンヌ・ワーウィック氏などのステージ衣装を担当。1990年芸能プロダクション「オフィス松本」を設立。2002年映画製作会社に改めたが、2005年映画製作を断念。55歳で無一文に! しかし一念発起して、60歳からシニアモデルとして再デビューを果たす。
写真/石田健一(「人生、いつだってスタートライン 美しく暮らすおしゃれのヒント」より)
Information
松本さんの著書「人生、いつだってスタートライン 美しく暮らすおしゃれのヒント」¥1,296(朝日新聞出版)
モデル、スタイリスト、芸能事務所社長……普通の人の3倍速で生きてきた松本洋子さんのライフスタイルエッセイ。“シニア女子”のファッション、メイク、ダイエットはもちろん、“お一人様暮らし”の食事や経済事情についても赤裸々に語った1冊。
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