美容・理容の働き方を考える (1) 〜『訪問カット』という働き方〜

美容・理容の働き方を考える。『訪問カット』という働き方 #1

多様性が叫ばれる現在、美容・理容業界を取り巻く環境も変化を見せています。今まで当たり前だった「人気サロンでのスタイリストを目指す道」という働き方の他にも、築き上げた美容・理容の技術を様々な働き方で活かせる時代になりました。
中でも後期高齢者会を迎えつつある日本で注目されるのが『訪問カット』。元々は「訪問介護」の分野から障害者や高齢者が美容・理容サービスを求めるカタチで誕生したと言われています。でも実際のところ、『訪問カット』とはどんなものなのでしょうか? そして、その魅力や働く環境などは? 実際に訪問カットをしている美容師に話を聞いてみました。

人の役に立ちたいという気持ちから始めた『訪問カット』

訪問カットをメインに活躍中の女性美容師、酒井リエさん。東京・代官山のサロン『CHARAMAN』で活躍しながら、約3年前から『訪問カット』を始めたとのこと。そもそものきっかけはなんだったのでしょうか?
「以前から、外に出て新しいことにチャレンジしてみたいとは思っていました。代官山のサロンはスタッフと家族のような付き合いで気心も知れていて居心地もいい。でもそこに甘えてばかりではいけないと思って、自分なりに調べていくうちに『訪問カット』に出会ったんです」

そもそも『訪問カット』は、身体的に障害を持った人や自分で歩けなくなった高齢者や患者さんに向けた美容・理容サービス。通常のサロンでの業務をすべて訪問先でこなさなければいけない部分もあり、かなり重労働かつ閉鎖的なイメージをお持ちの人も多いのでは?
「とにかく技術の向上はもちろん、人気スタイリストを目指す方向性もありました。でもある日、多くの障害者の方たちも髪型でおしゃれしたい気持ちを持っていることを知り、今まで私が培ってきた経験を踏まえて人の役に立てることを考えたとき、『訪問カット』をやってみたいと思うようになったんです」

『訪問カット』についてもう少し知ってほしい

「以前は『訪問カット』に対して無知だったので、実際に働いてみてかなりイメージが変わりました。どんな人でもヘアカットやカラーリングをすることで、元気で前向きになってくれる。その場面に立ち会える喜びは大きいですね」
と語るリエさん。興味はあっても、どのように特定のお客様と知り合うのかが心配な人も多いのでは? どのようにすれば『訪問カット』を始められるのか、どれくらい忙しいのかなど、働く環境について、全体の流れを簡単に整理してみましょう。

リエさんの場合は、大きく分けて3種類の仕事の斡旋があります。
1つは登録した『訪問カット』サービスを請け負う訪問介護サービス会社からの依頼。法律的に「様々な理由でサロンに行けない人」に向けたケア・サービスの一環です。近年規制緩和によって、家族などの介護でサロンに行けない介護者にも同様のサービスができるようになりました。契約のある施設や病院などから介護サービス会社にカットの依頼が入ります。リエさんの場合は、スケジュール的に稼働可能な日を提示し、介護サービス会社が日程を調整した上で派遣されるスタイル。カット料金などは介護サービス会社が設定した基準があり、歩合給なので売り上げは折半が多いようです。
もう1つは、知り合いの介護相談員(ヘルパー)からの依頼や自作のチラシなどによる売り込み、お客様の紹介などで新規のお客様から訪問カットの依頼が来るパターン。
3つ目は、在籍していた代官山のサロンで指名されたお客様に対して、通常のカットやカラーリングをするサービス。こちらは在籍していたサロンに場所を借りて予約時間になると、代官山でお客様と合流してサロンでカットをすることになります。

酒井さん

「美容院(理容室)に来たくても来れない人」を対象にした訪問カットは、現在注目されている美容・理容サービス。寝たきりの人や高齢の方が多く、通常のサロンとは違うアプローチでヘアカットするスキルが必要。

すべてを管理する難しさの反面、自分の時間を増やすことが可能

「登録している会社には、自分の稼働可能日を連絡して仕事を斡旋していただいており、定期的に通う施設や病院などもあります。この場合はケア・サービスの一環ということで、一律で価格設定されていることが多く料金も低めなので1日で何人もカットしなければならない時もあります。その分日程的なスケジュールが組みやすいメリットもあります」
紹介によって直接のやり取りでカットする場合は、その収益はすべて自分の売り上げに。
「最初は右も左もわからず、収入も未知数でしたが、続けていくうちに安定した売り上げが見えてきました。とにかくスケジュール管理にヘアカット業務、収益の計算まで自分でしなければいけないので、サロン勤務でお給料をもらっていた時代では見えなかった社会の仕組みも学ぶことができました。責任感も含め自分自身が成長できたと思っています」

美容・理容関係者にとって魅力的なのは、時間の使い方に融通がつくことでしょう。
「今までは決まった曜日しか休めませんでしたが、今ではスケジュールを調整することで、週末休みの友達と会えるようになりました。例えば派遣先の近くにいる友人と、仕事終わりに会ったりすることも。またフルタイムのサロンワークのような雑務が減少したおかげで、自分のために使える時間が増え人との出会う場面も増え、プライベートも充実するようになりました」

酒井さん

与えられた環境で準備、カット、カラーリングやパーマ、後片付けまでをこなすリエさん。その反面、訪問カットをメインにすることで、週末に休めるなどスケジュール管理がしやすくなったとのこと。

訪問カットのメリットをおさらいしてみると…

なかなか聞きにくい収入面や、身体的な苦労などはどうなっているのでしょうか?
「収入に関しては、サロン専属スタッフ時代よりも若干アップしました。もちろん通常のサロンでのカット価格とは違うので(訪問カットの場合、ケア・サービスの一環となるため安価に設定されるケースが多い)、派遣だけでは数をこなさなければ収入的には厳しい部分もあります。私の場合は、幸いにも個別で訪問カットの依頼をいただくお客様もおり、代官山のサロンにも週2回程度は予約が入るので、安定した収入を得られています」
また、週末に休みを取れたり(施設や病院は基本的に平日に訪問カット)、代官山のサロンで現在のトレンドのヘアカットをしているので、いいバランスで仕事ができているとのこと。
店舗勤務にとらわれず、自由に働く環境を自ら設定できるのは大きなメリットとなりそうです。

後編では、実際の訪問カットの現場をお伝えします。注意点や雰囲気など、さらにリアルに『訪問カット』をご紹介します。

PROFILE

酒井理恵(Sakai Rie)

短大卒業後、下着メーカーの企画室で3年勤務。しかし自分のやりたいことを見直しアルバイトをしながら美容専門学校に通う。恵比寿や代官山のサロンに3店舗勤務しスタイリストに。現在では10年以上の経験と人脈を活かし、フリーランスとして代官山のサロンでカットしながら訪問カットをも手がける美容師。

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