未来が描けるサロン作りとは?LIPPSディレクター・吉沢ジュンさん #2
LIPPSディレクター・吉沢ジュンさん2回目のインタビューでは、LIPPSが考えるサロン運営と教育についてお伺いします。オープンから18年で9店舗を展開し、社員は現在約160名。オーナーの的場タカミツさんと共に、今や日本を代表するサロンにまで成長させた秘話についてお伺いします。
学びやすい環境こそ人材が育つ
――個人運営のサロンがここまで成長する裏には、きっとご苦労もあったと思います。その中で現在の経営理念はなんでしょう。
「オーナーの的場の考え方として、美容業は人ありきですから“人が育つ会社”の構築に注力しています。毎年行う会社説明会では、新人のスタッフでも3年後が描けるサロン作りをしていることを、具体例を挙げて説明しています。最近の美容学生は僕たちの頃と違って、先が見えないことに大きな不安を感じやすいため、3年間でどのように歩めばスタイリストになれるか… そんなことを話したりしますね」
――でも3年後はまだアシスタントの方が多いですよね?
「それが、LIPPSの場合は早ければ丸2年経ったらデビューのチャンスがあるんですね。だいたいスタイリストまで3年以内という考えです。原宿界隈のサロンの中ではとてもスピーディなデビューだと思います。もちろん、カリキュラムをこなすことは最低条件にはなりますが」
――それは夢と意欲が湧きそうです。
「あと、当たり前ですが、労働環境を整えることも大事です。週休2日はもちろんですが、弊社は週4日間がサロンワークなんです」
――ということは、2日でなく3日休みということですか??
「2日休みで、もう1日は昼から夜までの9時間、社内向けのアカデミーを行っています。アカデミー参加者は入社1年目と中途採用スタッフが対象ですが、週に1回、1日かけてしっかり学べると覚えるスピードも格段に上がりますから、これはとても効率的です」
65歳まで働ける美容室を目指して
若い年齢で離職してしまう人が多い美容業界。そんな中、LIPPSはシニアになっても働ける環境を構築中です。
――シニアも活発的に働ける環境とは、美容界では珍しいですね。
「一般的には、美容室は若い人が多い印象かもしれませんね。例えば50代以上はオーナーしかいないなんて環境はザラだったりしますよね」
――はい。
「LIPPSでは、65歳まで働ける環境作りを今、目指しています」
――高齢化が進む中、例えばかっこいい60代がズラリといるサロンって、これからの時代はありなのかな… なんて思ったりしたのですが。
「そういったサロンも出てくるかもしれないですね。それはそれで、かっこいいかもしれないです(笑)。でも、僕たちの現状のイメージとしては若い世代とシニア世代が混ざりながら働くサロン作りなんです。その中で幅広い層のお客様を満足させることができたら最高ですね。ただ、サロンワークだけに限ると限界がある人もいるかもしれません。
なので、LIPPSではマネージメント他、オフィスワークに興味のある人は専門の勉強をしてもらっています。僕たちはプロダクツも作っていますし、外部活動も多い。サロンワークだけが仕事ではないですからね」
“ダメ”と否定から入らない。先ずはできることを認めることが重要
――ところで、吉沢さんはとても実直な印象です。本当に真面目でお話しも丁寧。的場さんにとても似ていますね(笑)。師匠と弟子という厚い信頼関係が、お人柄にあらわれています。
「そうですか(笑)。でも、的場は本当に実直です。スタッフひとりひとりに対し、責任をとる姿勢が熱い。的場にとっては、責任とは成功させることで、任せると決めたらとことん任せられる人なんです。僕が若い頃、的場のデザインをどうにか自分のものにしたくて営業後は毎日、自主練をしていました。というのも、それまでほとんどの撮影依頼が的場指名だったのですが、ある時期、僕にポツポツと撮影がくるようになって」
――チャンス到来ですね!
「とはいえ、当時は的場の現場に同行していましたからね。的場が編集さんに“これからは吉沢をよろしくお願いします”って頭を下げてくれていたお陰なんです。だから、もうそれまで以上に夜な夜な勉強ですよ(笑)。すると的場がやってきて“これでもいいと思うんだけど、ここはね、僕ならこうだと思うよ”と横について教えてくれるんです。いつもそうでした。的場は、それまでの僕の技術は絶対に否定しない人です。その上で選択肢を与えながら教えて下さる。“ダメ”がない。これってなかなかできないことだと思うんです」
――素敵なお話しですね。
「ですから、LIPPSは基本的にこの姿勢で教育しています。先ほどもお話ししましたが、未来が描けるカリキュラムや雇用体制、あと仕事に対する選択肢を用意するなどスタッフへの向き合い方を徹底させることで、離職率は減っています」
美容を福祉として捉える学生が増加している
――美容の世界は離職される方が多いですから、この問題は業界全体の課題ですものね。
「最近、美容学校の先生と話す機会があったのですが、美容の捉え方が少しずつ変化しているようです。美容師とはデザインを創る仕事だと僕たち世代は捉えるのですが、ここ数年では、ホスピタリティ職として美容を選ぶ若者が多いそうです」
――おもてなしですか?
「はい。と同時に介護などの福祉関係の仕事として美容職を選ぶとか。つまり、デザインありきではないんですね」
――時代ですね。少々驚きます…
「モチベーションが物づくりではない人たちをどう教育するか、またどう生かしていくのか。これからの美容界の課題のひとつだと感じています。時代によって変化が生じるのは当然ですから、これからも様々な方向性から未来の見えるサロン運営を考えていきたいと思います」
吉沢さんは、優れたヘアデザイナーでありながら、時代を見据えたサロン作りに積極的な方でした。また、LIPPS全体が美容業界の新しい体制づくりのモデルとして、多大な影響を与えている印象です。技術に対し真摯で、教育改革も率先して行う。これからのさらなる飛躍が楽しみなサロンです。
取材・文/小澤佐知子
撮影/田中大三
Salon Data
LIPPS(リップス)
原宿、表参道、銀座に2店舗、吉祥寺に2店舗、二子玉川、自由が丘、大宮の合計9店舗のヘアサロンを運営するLIPPS。フェミニンで軽やかな女性向けヘア、リッジ感と空気感に満ちた男性ヘアなど、男女問わず時代にマッチしたスタイルを提案してくれる。“毛束感”というキーワードを流行らせた先駆者的存在で、その独特なスパイキーなスタイルを求め、日本全国から男性客が集結。
http://www.lipps.co.jp/
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