新人時代には技術と同じくらい大切な「好かれる」力。自然と身についた末っ子気質で早期デビューを実現 【美容師 畑中里志さん】♯1

LA発祥のケラチントリートメントを導入しており、「自分史上一番の髪質を叶える」サロンとして話題を集める美容室「ico」。さらにハイトーンやインナーカラー、ブリーチなしのグレージュカラーなど、デザインカラーの幅広さも強みです。

今回お話を伺うのは、「ico」の代表を務める畑中里志さん。前編では美容師歴14年目となる畑中さんの新人時代にフォーカス。同期より1歳年上だった畑中さんは、1年年上の先輩まで含めて誰よりも早くデビューをしたいと、人一倍の努力を重ねてきたといいます。

最短距離でのデビューをする上で鍵となったのは、意外にも幼少期から自然に身につけてきた「好かれる」力だったそうです。

お話を伺ったのは…

畑中里志さん

ico

代表取締役

1990年生まれ。神奈川県出身。山野美容専門学校を卒業後、「HAIR DIMENSION」、「KILLA」を経て、2020年に独立し「ico」を設立。デザインカラーやLAケラチントリートメントを得意とし、「自分史上一番の髪質を叶える」サロンとして、多くの支持を集めている。

Hatanaka’S PROFILE

お名前

畑中里志

出身地

神奈川県

出身校

山野美容専門学校

趣味や休みの過ごし方

愛犬と遊ぶこと、映画鑑賞など

憧れの人

特定の人はいませんが、先輩後輩問わず、普段の生活のなかで「こういうところが素敵だな」と思うさまざまな人から学ばせてもらっています。

道具へのこだわり

質感に合わせて使い分けられるよう、シザー2丁、セニング3丁を使用しています。商材やアイロンも、髪への負担が少ないものを選んでいます

インスタグラム

大学への指定校推薦を辞退。フリーターの末に見つけた美容師への道

これまでの美容師人生を振り返る畑中さん

――美容師になったきっかけは?

実は、これといった直接的なきっかけはなかったんです。元々は大学進学を考えていて、指定校推薦も取っていたのですが、その大学の評判があまりよくなくて。「4年間も気が進まない学校に通いたくない」と思い、先生には止められましたが、思い切って推薦を辞退しました。

その後、1年間はどの学校にも入れないというルールだったため、フリーターとして働きながら自分の進路を考える時間を持ちました。その期間に初めて「美容師になろう」と思ったんです。

――なぜ美容師の仕事に惹かれたのですか?

まずひとつは、服装が自由だという点です。スーツを着て、髪型も制限されるようなサラリーマンの仕事には、あまり希望を持てませんでした。また当時よく読んでいた『チョキチョキ』という雑誌で、美容師さんが頻繁に特集されていたこともあり、徐々に興味を持ち始めたんです。元々ファッションやヘアセットをすることが好きだったので、自然と美容師を目指す気持ちが芽生えていきました。

きっかけは偶然の積み重ねでしたが、どうせ目指すなら、有名な美容専門学校に入り、ゆくゆくは有名サロンで働きたいという思いが強くなっていきました。そこで活躍しているOBが多い山野美容専門学校に進学したんです。

――美容専門学校時代はどのようなことを感じましたか?

卒業生が学校でヘアショーを開いてくれることもあり、美容業界の華やかさに憧れを抱きました。

技術面では難しさを感じることもありましたが、あまり悲観的にはならなかったですね。「そのうちできるようになる」と信じて、コツコツと練習を続けました。

それに、人に聞いてコツをつかむのは得意なほうだったと思います。器用な子や、上達が早い子がいれば、意識しているコツやポイントをすぐに聞くようにしていました。自分ひとりで悩むより、人から学ぶほうが早いと考えていたんです。

有名サロンでの挑戦。1年の遅れを取り戻すべく努力を重ねる

就職した直後の畑中さんを支えていたのは、誰よりも早くデビューしたいという思いだった

――1社目のサロンはどのように選んだのですか?

これも美容専門学校のときと同じで、どうせ入るなら一番有名なところがいいと考え、就活先を絞りました。入社試験は面接のみでしたが、そのサロンの4店舗すべてに定期的に通い、それぞれの店長に髪の毛を切ってもらって顔を覚えてもらうように努めましたね。通うことによって熱意ややる気を伝えられますし、面接時に既にしゃべったことのある人がいるというだけで、自分が緊張しないと思ったからです。

――入社後はどのようなことを感じましたか?

僕は1年間のフリーター期間を経て入社したため、同期より1歳年上という状況でした。それもあって同期はもちろん、1年上の先輩も含めて一番早くデビューしたいという気持ちが強かったです。

当時は、朝はなるべく早く出勤して、終電で帰るのが当たり前の時代。理不尽だと感じることも多かったですが、早くデビューしてしまえば関係ないと考えていたんです。15人ほどいた同期も、1年後には4人ほどしか残らない厳しい環境ではありましたが、早くお客様を担当する、その思いだけを心の支えに練習に励みました。

当時勤めていたサロンは、基本的に3年ほどでデビューできるカリキュラムが組まれていましたが、なかには5、6年ほどかかる人も。そんななか僕はなんとか2年半ほどでデビューまでこぎつけることができたんです。

早期デビューを叶えたのは、「好かれる」力。聞き方にも工夫を凝らして

アシスタント時代、畑中さんは「聞き方」に工夫を重ねていたという

――早期デビューするために意識していたことは?

ふたつあります。ひとつは誰よりも練習を重ねること。同期のなかに手先が器用でどんどんカリキュラムを進めていく子がいたんです。その子に比べて自分は確実に手先が不器用だと分かっていたので、単純にその子よりも練習量で勝つことは意識していました。

もうひとつは、直近でカリキュラムに取り組んでいた人に、実際のチェックのときにどんな点を注意されたかを聞いたり、自分のカットしたものを見てもらったりしてアドバイスをもらうことです。期間が空いているとアドバイスが曖昧になるので、1年上の先輩や同期など、最新の情報を持つ人に聞くことを心がけていました。

当時在籍していたサロンでは、ふたりの先輩から合格をもらうことが必要だったんです。一方の先輩がOKでも、もう一方がNGということもよくあり、何が正解か分かりづらい状況でした。だからこそ、先に合格した人に「どうしたら通るか」を細かく聞いていたんです。

できないことがあっても落ち込むより、「できる人に聞く→即実践」を徹底していたので、モチベーションが下がることはなかったですね。

――人には聞きづらいという人もいると思うのですが、そういったことはあまり感じなかったですか?

当時勤めていたサロンでは、「聞かないと怒られる」という空気があったので、あまり抵抗はなかったです。というのも毎晩21時からアシスタントが全員集まって練習をし、スタイリストがローテーションでその内容をチェックしてくれる仕組みでした。練習を見に来た先輩からするとせっかく来たのに、練習後のスタイルを見せたり、質問をしたりしないと何のために自分が来ているか分からない。だから何も行動しないアシスタントはよく怒られていました。

一方でチェックしてもらったらもらったで、「この前注意したところが直ってない」と怒られることも(笑)。途中から「どちらにしても怒られるのであれば、聞き方を変えるよう」と思うようになったんです。

――具体的には、どのように変えたんですか?

「この前、ここがダメだと言われたので、工夫をしてみたのですがうまくいかなくて…」という言い方をするようにしました。そうすると、先輩も「じゃあここをこうしてみたら?」と具体的に教えてくれる。試行錯誤している姿勢を見せることで、怒られるよりもアドバイスをもらえることが増えました。

――先輩との関係性も大切だったのですね。

ええ。アシスタント時代は、技術だけでなく人間関係も重要だと思います。同じぐらいの技術力でも、先輩に好かれるアシスタントの方が仕事を任せてもらえる傾向にあります。ですから新人時代は技術だけでなく、先輩に好かれる方法も常に考えていました。

苦手な先輩がいても、「この人のチェックを受けるまでは我慢」と割り切っていましたね。合格さえしてしまえば、あとは距離を取ればいいので(笑)。周囲からも「畑中は技術というより、人間関係の作り方がうまい」と言われることもありました。

理不尽だと思うこともありましたが、人間ですから、好きな人には優しく、そうでない人には厳しくなるのは自然なこと。その影響が技術チェックに出てスタイリストデビューに苦戦する先輩もいました。そうならないためにも日々の生活も含めて人間関係は良好に保つように意識はしていました。

――なるほど。もしかして畑中さんは末っ子ですか?

そうです(笑)。兄が2人います。兄の友達ともよく遊んでいたので、自然と年上に可愛いがられるコツをつかんでいたのかもしれません。空気を読んでうまく立ち回る感覚は、子どものときに培われた気がしますね。


後編では、スタイリストデビュー後の壁、そして「ico」設立までの歩みを伺います。「ico」では開業当初から、お客様はもちろん、スタッフ目線を大切にしてきたという畑中さん。経営が軌道に乗ってから会社の制度を整えるのではなく、最初から理想のサロンを作り、早く経営を軌道に乗せることを意識してきたといいます。


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ico
住所:東京都渋谷区神宮前6-10-4COMS神宮前2F

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