SNSで見つけた一筋の光。独立で形にした「お客様ファースト」【美容師 畑中里志さん】♯2
LA発祥のケラチントリートメントを導入しており、「自分史上一番の髪質を叶える」サロンとして話題を集める美容室「ico」。今回は代表を務める畑中里志さんに登場いただきます。
前編では畑中さんの新人時代にフォーカスを当てて、お話を伺いました。
後編では、スタイリストデビュー後の壁、そして「ico」設立までの歩みを伺います。「ico」では開業当初から、お客様はもちろん、スタッフ目線を大切にしてきたという畑中さん。経営が軌道に乗ってから会社の制度を整えるのではなく、最初から理想のサロンを作り、早く経営を軌道に乗せることを意識してきたといいます。
お話を伺ったのは…
畑中里志さん
ico
代表取締役
1990年生まれ。神奈川県出身。山野美容専門学校を卒業後、「HAIR DIMENSION」、「KILLA」を経て、2020年に独立し「ico」を設立。デザインカラーやLAケラチントリートメントを得意とし、「自分史上一番の髪質を叶える」サロンとして、多くの支持を集めている。
順調なデビューの一方で、お客様をつけることに苦戦。SNSが転機に

――スタイリストデビュー後はいかがでしたか?
すぐにはお客様がつかず、苦戦しました。というのも僕はデビューが早かった分、モデルさんを呼んで施術を行う経験が少なかったんです。一方でデビューに時間がかかった先輩たちは多くのモデルさんの施術をこなしており、その方たちがのちにお客様として来店するケースが多くありました。
そうした下積みの経験が乏しかった僕にとって、新規のお客様をつけること、そしてリピートしていただくことがなかなか難しく、売上形成が最初の大きな壁となったんです。
お客様が安定してつくようになったのは、スタイリストデビューから2年ほど経ってからでしたね。
――その壁はどのように乗り越えたのですか?
専門学校、アシスタント時代と同じく、「人に聞く」姿勢は変えませんでした。ただ、技術練習は正解を出す人が決まっているので、その正解を知っている人に聞けば解決することが多かったのですが、売上の作り方は人によって答えが異なります。「お客様に再来してもらうにはどうすればいいですか?」と聞いても、答えがバラバラで、かえって迷ってしまうこともありました。
それでも、聞いたからには必ず一度は実践することを意識しました。実際にやってみて「これは違うな」と思ったら別の方法を試したり、自分なりのアレンジを加えてみたり。そうして試行錯誤を繰り返すうちに、自分なりのやり方が少しずつ固まっていったように思います。
――何かブレイクスルーのきっかけになったことはあったのですか?
大きな転機は、1社目のサロンが閉店して2社目に移ったころです。ちょうどその時期、Instagramで集客する美容師が増えていました。僕もInstagramでの発信を始め、これが大きな追い風になったんです。
当時、僕が打ち出していたのは「ブリーチを使わないグレージュカラー」。その投稿を見たお客様が来店されるようになりました。集客サイトの場合はさまざまなニーズのお客様が来店されますが、SNS経由だと目的が明確なので、その分、自分に合ったお客様に出会いやすかったですね。求められていることと提供できる技術が一致していたので、施術後の満足度も高かったと思います。
しかも当時はブリーチを使わないカラーを得意とする美容師がまだ少なかったので、差別化にもつながりました。こうして月の売上が100万円を超え、さらに上を目指せるようになっていったんです。
コロナ禍での決断。設立したサロンはお客様とスタッフのために
――その後、独立された理由は?
働いていたサロンがコロナ禍で縮小されてしまったのが大きなきっかけです。フル出勤ができず、お客様も減ってしまい、「このままでは厳しい」と感じました。そこで一旦フリーランスとして働くことにしましたが、そのまま続ける未来は見えず、ならば自分で出店しようと決意したんです。
もちろん不安はありましたが、「もし失敗してもフリーランスに戻って借金を返せばいい」と、ある意味で腹をくくっていました。
――サロンを立ち上げるときに、どのようなコンセプトを考えられたのですか?
念頭にあったのは「お客様がまた来たいと思えるお店を作る」ことでした。商材・設備はお客様目線で厳選し、シャンプーやトリートメントは可能な限り上質なものを導入。豊富なドリンクメニューやタブレットを用意して、滞在時間の快適さにも配慮しました。さらに知人から紹介されたLAケラチントリートメントを試してみたところ、とてもよい製品だと感じたので、すぐに導入を決めたんです。
――スタッフの働く環境はどのように整えたんですか?
自分がこれまで理不尽な経験をしてきたからこそ、スタッフには「働きやすい環境を作る」と決めていました。休みをしっかり取れるようにし、無駄な残業はなくす。また有給も整備しました。
指標にしたのは、かつての先輩の言葉です。「自分の子どもがこの会社に入りたいと言ったとき、勧められるか?」。雇用される側では環境は会社次第ですが、経営者になればよくも悪くも自分の責任。だからこそ、身内にも自信を持って勧められるような、働きやすさを土台にしようと決めたんです。
――会社が軌道に乗ってからではなく、最初から環境作りを意識されていたんですね。
そうですね。「会社が安定してからスタッフの待遇を整える」のでは遅いと思っていました。優秀な人材が辞めてしまったら、会社は成長できませんから。
最初からスタッフが長く働ける環境を整え、その上で経営を早く軌道に乗せることを目指しました。結果的に、この考え方はよい方向に作用したと思います。
仕事とは「学び続ける場」。お客様目線が成長を導く

――畑中さんが美容師として心がけてきたことは?
一番は「お客様目線」でいることです。そして、現状維持は後退だと考え、常に自身が成長し続けることを意識しています。
年齢を重ねてもトレンドを把握し、お客様に似合う形に落とし込んで提案する。長く通ってくださるお客様が多いからこそ、変わらず信頼してもらえるように提案を続けていきたいと思っています。
――畑中さんが考える美容師のやりがいとは?
ただこなすような仕事ではなく、やはり「お客様と深く関われること」だと思います。サービス業のなかでもとくにお客様との距離が近く、信頼関係のなかで仕事ができるのが最大の魅力です。
――美容師として長く働いていると、結果を出すことやお客様と向き合うことに疲れてしまうことはありませんか。
たまにあります。そういうときは、「お客様にどう喜んでもらえるか」を考えると、自然と前向きな気持ちに戻れるんです。
ゴールを見失うと、人はネガティブになりがちです。落ち込んだときこそ、何のためにこの仕事をしているのかを思い出し、「あのお客様のために」、「この技術を提供できるように」と具体的に考えれば、次にすべき行動が見えてくると思います。
私生活では旅行に行ってリフレッシュすることも、気持ちの切り替えに役立っていますね。
――畑中さんにとって「働く」ということは何でしょう。
もちろん、生きていくために必要なこと。でもそれだけではなく、「成長するための場」だと考えています。大人は学校に通わなくなりますが、仕事を通して新しい挑戦ができたり、学んだりできる。それが働くことの本質ではないかと。
これからもお客様に喜んでいただける自分でいられるように、成長を続けたいと思っています。
一線で活躍しながらも、終始しなやかな語り口調が印象的だった畑中さん。言葉の端々から理不尽な扱いに屈せずに、自分の居場所を切り拓いてきた静かな強さが感じられました。その思いこそが、「ico」の確かな成長を支える原動力なのでしょう。
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ico
住所:東京都渋谷区神宮前6-10-4COMS神宮前2F
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