サロンの空気を変えたのは、何でも受け入れるのをやめたこと「BEKKU hair salon EBISU」吉永峻さん
恵比寿で2010年にオープンし、2023年に移転リニューアルオープンした「BEKKU hair salon EBISU」。その店長を務めているのが、吉永峻さんです。前編では吉永さんの大きな転機となった、ある失敗について伺いました。店長に就任したあとスタッフに優しく接することを心がけてきたという吉永さん。一見とてもいいことだと思えますが、その対応こそが、スタッフの成長を止め、サロンの空気まで悪くしていたことに気が付いたそうです。
今回、お話を伺ったのは…
吉永峻さん
美容師/「BEKKU hair salon EBISU」店長
都内1店舗を経て、2017年に「BEKKU hair salon」に入社。2020年より恵比寿店店長。お客さまそれぞれの骨角に合わせたフィット感のあるショートスタイル、透明感のあるカラーを得意とする。
スタッフに優しくすればするほど、サロンの空気は悪くなる
――店長としてスタッフの方の育成面で心がけていることはどんなことでしょうか?
少し突飛な話になるのですが、自分を幸せにすることを心がけています。美容師の仕事は、自己犠牲の上に成り立っているのが当たり前という意識の人が多いと思うんです。店長になったばかりの頃の僕もそうでした。さらに今の時代は、厳しくされれば辞めてしまう美容師も多い時代です。スタッフが心地よく過ごせるように、辞めないようにすべてを受け入れる。何かが起きたときは自分が無理してカバーすればいい、それが正解だと思って対応していました。たとえば休みやレッスンの時間の要望などは、すべてスタッフがいう通りに全部受け入れていましたし、もし休みなどで穴があいていても自分が動くことでカバーしていました。
でもそんな対応を続けていて2年ほど経ったとき、スタッフが不満を募らせ、連続して何人かが退職してしまうことが起きて。それにサロンの空気もあまりよくありませんでした。これまで自分がやってきたことは何だったのかと本当に落ち込んでしまって。そのときに優しく接することは自分が楽をしていただけなんだと気が付いたんです。自分が対応を変えると、店の空気も良くなりましたし、スタッフも成長していきました。優しくすればするほど、サロンの空気は悪くなると気が付いた出来事でしたね。
――それは意外です。
そうなんです。僕も驚きました。おそらくですが、上にいる人間に余裕がなかったり、笑顔がなかったりすると、その空気が下のスタッフにも伝播するのではないかと思います。
自分を幸せにしなければ、人を幸せにすることもできない
――落ち込んでいたところから、どうやって活路を見出したのでしょうか?
何もやる気が起きないくらい落ち込んでいたのですが、たまたまインターネットで「仕事 悩み うまくいかない」というような感じで検索をかけてみたんです(笑)。そうしたら、心理学について書かれているページに行き着いて「自分を大切にできない人は、人も幸せにできない」と書かれているのを目にしました。それがすごく腑に落ちて。自分が幸せじゃないから、人を成長させることもできないし、求められているものを与えることもできないんだと気が付いて、自分を変えることにしたんです。
――スタッフの方への対応はどう変えたのでしょうか。
スタッフへの対応で意識したことは、2つあります。まずは過程よりも結果を大切にするということ。スタッフが今心地よく過ごせるかという過程より、将来のスタッフのためになるかという結果の方に目を向けて対応を決めるようになりました。
たとえばスタッフから「教わってないからできません」と言われたとき。以前の僕であればそうだよね、と受け入れていました。でも当時から内心では、美容師の仕事は、自分から学んでいく姿勢がとても大切だと思っていて。常に技術を追求しなければならない仕事ですし、それができなければお客さまに求められることも提供できません。
今はスタッフが美容師として、より成長する結果の方から逆算して、そのスタッフに必要なことを伝えるようにしました。「教わっていないからできないじゃなくて、美容師として成長していくためには、できなくても学んでいく姿勢が大切だよ」というような感じで。怒ったり、叱ったりするというより、やり方を教えるという感じに近いかもしれません。
――心がけていることのもう1つは?
スタッフとのコミュニケーションは大切にするのですが、要望をどれくらい受け入れるかのバランスを見ることです。スタッフの意見をすべて聞くことは、結果的にどこかにしわ寄せがくることもあると思うんです。それでパンクしてしまったら、結果的に下の子にも悪影響が出ることは経験上わかっているので。ただ、これはスタッフのことを考えないようにするということではなく、技術や接客の面でつまずいていることがないかは注意深く見るようにしています。
どんなに繕っても、お客さまには全部伝わっている
――吉永さんが変わったことで、スタッフ以外にも何か変化はありましたか?
自分に自信が持てるようになって、お客さまから顔色が変わった、明るくなったと言われましたね。それまでも、たとえ別のところでうまくいかないことがあっても、接客中は明るく接するようにしていましたが、やはりお客さまには伝わるんだということがよくわかりました。それからは余計に、自分の心の余裕を気にするようになりました。
――店長という仕事は、ある意味中間管理職のような立ち位置で、大変なことも多いかと思います。モチベーションはどのように維持していますか?
自分を幸せにするという考え方に変わったことで、すべての仕事は自分の幸せにつながると思えるようになり、それがモチベーションになっていったと思います。それまでの僕は、仕事を「やらなくてはいけないこと」ととらえていたんです。考え方が変わると、仕事の1つ1つの行動が結果的に自分を幸せにし、お客さまやスタッフの幸せにもつながっていくんだと思えるようになり、前向きに取り組めるようになったと思います。
吉永さんが確立した、人材育成術の3つのポイント
1.まず自分の幸せを考え、余裕を持って対応をするようにした
2.過程ではなく、結果を大切にするようにした
3.大変なことが起きても、自分の成長につながると捉えるようになった
後編では、元々恵比寿と広尾にあった2店舗を統合し、2023年に移転リニューアルオープンをすることになった理由について伺います。多店舗展開を進めているところだったそうですが、店舗統一したことによって効率があがり、結果的にお客さまの満足にもつながっているといいます。後編もお楽しみに!