仲野弥和 interview #2:日本の鍼灸業界に必要なこと
ますます健康についての意識が高まっている昨今、不調の時でも薬に頼らず、より体に優しい治療を求める人が増えています。
そこで、今回は鍼やお灸で体の自然治癒力を引きだす鍼灸に注目。公益社団法人日本鍼灸師会会長の仲野弥和さんに、鍼灸についての基本的な知識や施術者に必要な力について語っていただきました。中編では、一流の鍼灸師に必要な力や鍼灸業界の課題などについて伺います。
日本独自の細い鍼だからこそできる治療
――治療で使用する鍼について教えてください。
「日本の鍼灸は中国に由来がありますが、中国とはまったく違う鍼を使用しています。日本では、独自に作られた世界一細い鍼を使用しているため、無痛で治療することができるんです。また、刺入した鍼に微弱な電流を流し、痛みや筋肉のこり、血液循環の促進を図ることもあります」
――お灸とは、どのような治療なのでしょうか?
「燃焼させたもぐさを患部にすえる治療法です。ちなみに、灸には直接灸と間接灸があり、直接灸のもぐさの大きさは、米粒大の細いものから小指大のものまであります。最近は、熱い刺激を好む人が減ったため、直接灸は少なくなりましたね。一方、間接灸は、味噌、薄く切った生姜、にんにくなど熱の緩衝材を入れて、もぐさと皮膚の間に空間を作ります。温和な熱さになるので好む人が多いですね。その他にも、刺入した鍼の先端に、そら豆大のもぐさを取り付けて点火する灸頭鍼という方法や、熱の刺激源を遠赤外線やレーザーとする科学的な試みも実用化されています。自宅でもできるお灸もありますので、鍼灸師に聞いてみてください」
日本の医療業界に必要なカウンセリング力
――鍼灸師には、どのような力が必要でしょうか?
「症状を的確に判断できる一流の鍼灸師になるためには、患者さんの話をしっかりと聞き取り、そして情報を引き出すコミュニケーション力が必要になります。なお、鍼灸をはじめ日本の医療業界は全体的に世界と比べてカウンセリングの技術が遅れていると感じますね。海外では、小児から産科まで、幅広い知識をもったうえで精神療法を専門的に行う先生がいるんです。患者さんは話をするためだけに病院を訪れ、先生はその訴えをもとに問題を解決していきます。日本で鬱病がなかなか減らないのは、カウンセリング不足も影響しているのかもしれません」
技術が高い鍼灸院は、口コミで業績をあげている
――現状の課題があれば教えてください。
「鍼灸師の質をあげることです。以前は、年間で誕生する鍼灸師は2,000人ほどでしたが、今はその3倍の鍼灸師が生まれています。というのは、15年ほど前に専門学校が一気に増えたため、鍼灸師を志す人も多くなりました。そのため、数は増えましたが未熟な鍼灸師も増加しております。また、最近はネット広告を出している鍼灸院が多く、腕がよければ何の問題もありませんが、技術力が低いとその情報はすぐに広まってしまいます。技術がしっかりしている鍼灸院は、口コミで確実に業績を上げているので、まずは技術を高めてほしいですね」
フランスやアメリカ、イギリス、オーストラリアにも広がっている鍼灸。ちなみに、日本の鍼灸は高い技術力を持っていますが、社会的な認知は海外と比べると低いそうです。「これからも、鍼灸が世のなかに浸透するよう努めていきたいです」と話す仲野さん。後編では、今後の目標や若手に期待することについて伺います。
Profile
仲野弥和さん
公益社団法人日本鍼灸師会会長
東京農業大学(1960年卒)、国立三重大学医学部医学研究科(1989年修)、仲野整體整骨本院院長、米国政府公認カイロプラクティックドクター(D.C)、ドクターオブカイロプラクティック1977年卒(L.A.C.C)、日本体育協会スポーツトレーナーなど。誰もが安心して鍼灸医療にかかることができる社会を目指し、活動を続けている。
Information
公益社団法人 日本鍼灸師会事務局
住所:東京都豊島区南大塚 3-44-14
TEL:03-3985-6771
https://www.harikyu.or.jp/index.html
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