求めてくれる人がいるなら、やろうと思ったときにやったほうがいい 独立を目指すあなたへ vol.5【ONEone二子玉川 中山雄太さん】#2
独立経験者の体験談から、独立・開業を学ぶ本企画。前編に引き続き、「ONEone 二子玉川」代表の中山雄太さんに、お話を伺います。美容師になることをあきらめ、一度は美容業界から離れた中山さん。さまざまな経験がつながり、産後に復帰が叶わなかったママ美容師と一緒に出張カットをスタート。ニーズの高さから、ヘアサロンをオープンすることになりました。後編では、サロンというかたちをとることになった「ONEone」のお店作りと今についてお伺いします。
『ママ向けサロン』にとって大切なことは何か?
——子連れの方向けの訪問カットで、ママ向けサロンのニーズを感じたそうですが…。
訪問カットに行っている間、訪問先のママたちに、どんな美容室がいいか意見を聞いていたんです。キッズスペースがあるサロンなんかも、多くはないけどあるじゃないですか。そこだとなぜダメなのかとか、美容室に行けない理由とか…。そういうのを聞いて、それなら僕ができるかもしれないと思ったんです。あと、ご自宅に訪問してお子さんの髪を切っていたとき、「美容室じゃ泣き叫んでカットできないのに」ってママが驚いていたことがあって。それって、家だから大丈夫で、美容室っていう空間が子どもは苦手なのかもしれない…。子どもが気持ちよく過ごせる美容室って、どんなところだろう? そういう考えをまとめて、サロンを作ることにしました。
——店舗を持つと決めて、最初にしたことは?
実は、開業資金は、訪問カットをスタートしたころから貯め始めていました。だから、ある程度はなんとかなるって。あとは、物件探しですね。お店を開こうか考えていたころに、テレビで二子玉川の特集をしていて、絶対ここにお店を出そうと思ったんです。それまで二子玉川って知らなかったんですけど、都会的な部分と自然が共存しているところとか、子育て世代が暮らしやすい場所だって知って、サロンのコンセプトにぴったりだったので。なかなかいい物件が見つからなかったんですけど、諦めかけたころに、この場所を見つけました。
——美容室用の物件ではなさそうですが(笑)。
そうなんです(笑)。古いアパートで、シャンプー台もよくつけられたなって感じで…。どうにか見た目だけでもキレイにして、お店に上がる階段も子どもを抱っこしてても危なくないように付け替えたり…。「ここで大丈夫かな?」と思ったんですけど、条件を考えると、ここしかなかったんです。家賃が安いのもあるんですけど、とにかく立地がよくて。子連れだと駅から徒歩10分は厳しいなと思っていたので、駅近でこれならアリだなと。
——美容室っぽくはないけれど、居心地のいい空間ですよね。
子どもは美容室のかしこまった空間が苦手。だから、ちょっと古い家みたいな感じをイメージして、物件を選びました。このサイズ感も安心感があるのか、お子さんがリラックスして過ごしてくれるんです。「おじゃましまーす」って、友だちの家に遊びに来たような感じで。靴を脱いであがるのも、家っぽいですよね。内装も、子どもにとって危ないものがないようにこだわりました。玄関の前に柵をつけたり、ハンガーラックに足をつけなかったり、コンセント類もすべて高い位置にしています。
——開店にあたって、人材はどうやって集めたんですか?
知り合いのつながりでママ美容師を紹介してもらったり、インスタグラムでも募集しました。みんな長く働いてくれていて、求人もありがたいことに苦労はしていません。つまり、美容師側からの需要もあったんですよね。やっぱり、ママになってサロンワークに復帰できる方って、そんなに多くないですから。少しの時間でもいいから、美容師を続けたいと思っている人は絶対にいます。
——子どものことで休みがちになると、続けにくいですよね。
うちは、僕がスタッフの子どものお迎えに行くこともありますし、子どもを連れて出勤してもOKです。どうしても出勤がむずかしければ、子ども優先。他のスタッフも、お客様もママなので、予約やシフトの変更も協力的なんです。ママ同士のいいところですよね。
「何より子どもを優先する」サロンのニーズに確信を持つ
——結果として美容業界に戻られたわけですが、その心境は?
たしかにヘアサロンなんですけど、僕はここを美容室と思っていなくて(笑)。なんというか、子育て支援センターみたいなものだと思っているんですよね。「ママのため」と謳っていますけど、基本は子どもをメインに考えていて。ママがカットしている間、僕はお客様のお子さんの相手をしたり、スタッフの子どものお迎えに行ったりしているんですが、子どもが愚図れば施術を中断することもあります。でも、そのほうが結果的に満足してもらえるんですよね。子どもが泣いていたら、ママがそわそわして、リラックスできませんから。
——子ども優先にすることで、お客様もスタッフも満足できるんですね。
子ども優先を徹底してママたちに満足してもらうことが、集客につながっているところもあるんです。お店を始めたばかりのころは、お客様を集めるのが本当に大変で…。僕は美容師から独立したわけではないので、顧客もいませんでしたから。1日1組来てくれたら「神様がきてくれた!」と思うくらいうれしかったし、できる限りのことをお客様に尽くしました。そうしていたら、8カ月くらいでドッと予約が入るようになったんです。その理由が、ママたちの口コミでした。今も新規の方のほとんどが、お客様からの紹介です。
——早々に月の予約も埋まっているようですね。
ありがたいことに。お断りしなきゃいけない方も出てきているので、ゆくゆくは拡張移転も考えているところです。本店が固まったら店舗を増やすことも考えていますが、「ママと子どものために」という想いを大切にしたいので、自分で管理できる範囲でやっていけたらなと思います。
——最後に、オーナーになって、よかったですか?
はい。お金ではない、やりがいが見つけられたと感じていますし、ここをずっと残していきたいと思っています。サロンで直接お客様と対面して、自分のサービスでお客様が喜んでくれて、お金を払ってくれる。美容師だと当たり前のことかもしれませんが、こんなすごいことはないです。長文でお礼のメッセージをくださる方もいて、毎度すごく感動するんです。これからも、子どものため、ママのためという気持ちを大切に続けていきます。
独立を目指すあなたへ
「僕は、美容師としての経験もなければ、経営の知識もありませんでした。1年目は何もかも手探りで大変でしたけど、なんとか生活もできているし、赤字にもならずに続けられています。ニーズがあるという確信だけで始めたお店ですが、何とかなった。求めてくれる人がいるなら、やろうと思ったときにやったほうがいいです。意外とできるものです!」(『ONEone 二子玉川』代表 中山雄太さん)
▽前編はこちら▽
独立を目指すあなたへ vol.5【ONEone二子玉川 中山雄太さん】#1>>
取材・文:山本二季
撮影:廣江雅美