【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本vol.45】昼夜問わず頻繁にコールする利用者にうんざり。どうすればいい?
介護現場で感じがちな困りごとの対処法をご紹介する当企画。今回は、居住型介護施設で介護職として働くXさんの困りごとをご紹介します。日常生活にも活用できるテクニックなので、ぜひ実践してみてくださいね。
緊急性のないことで一日に何度もコールする利用者Kさん。昼も夜も頻回すぎてイライラしてしまいます。
介護職Xさんは、入所して半年になるKさんが昼夜を問わず、何度もコールをすることに困っているそうです。入所して間もない頃は慣れないことも多いだろうと思い、呼び出しの回数が多くても対応していたそう。ですが、最近は頻度が高すぎる上に、用件を伺うと以前教えたことや緊急性のないことばかり。夜も何度もトイレに行きたいとコールされ、その都度イライラしてしまうだけでなく、出勤前でもKさんのことを考えるだけで沈んだ気持ちになるそうです。
今回は、Kさんへの対処法と一緒に、自分の負の気持ちへの対処法をご紹介していきます。
お話を伺ったのは…
中浜 崇之さん
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役
1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。
ポイント1:まずは利用者Kさんの現状を把握
まず、Aさんの心身の状態はどうでしょうか? 必要以上にコールしてしまう裏には、「かまってほしい」「助けてほしい」という気持ちが隠れていないでしょうか。入所時の認知の検査や健康状態の診断結果と合わせて、介護記録を確認しましょう。記憶力や筋力の低下、体調の変化はないでしょうか。数値に表れない「心配」や「不安」なども含めて検討し、<かまってちゃん>になってしまう根本原因へ目を向けましょう。
ポイント2:自分自身の中にあるイライラの正体を把握
イライラしてしまう原因は、利用者Kさんの中だけでなく、介護職であるXさん自身の中にもあります。自分の中の怒りの正体を把握することも心穏やかに介護の仕事をするためには大切です。怒りの原因には、自分自身が思い込んでいる「べき」が関わっています。例えば今回の場合だと、「1度聞いたら覚えるべき」「夜はちゃんと寝るべき」のような考えがないでしょうか。自分の中の「べき」と違う行動に遭遇すると人はストレスを感じます。それがイライラにつながるのです。
ポイント3:具体的対策を講じる
頻回なKさんからのコールにイライラして、「この前も教えましたよね!」「トイレ、さっき行ったばかりじゃないですか!」というだけでは、何も状況は変わりません。ポイント1・2で分かったことに対して、具体的な対策をしましょう。例えば、何度も同じことを聞かれるのであれば、利用者Kさんの目につきやすい位置に目立つようにメモを貼っておく。夜目が覚める回数を減らすために、昼間に体を動かす機会を増やす、夕食の水分摂取量を見直す、というようなことです。
利用者Kさんだけに原因を求めず、自分の中の怒りの原因である「べき」をゆるめたり、叶えてもらうためのルートを整備したりすることにも思慮を向けると、お互いに良い循環が作れるはずです。
自分のイライラの傾向を把握するための3ステップ
1. イラッとしたら記録する
2. いつ/どこで/何があったのか/何を思ったのか/怒り指数
3. 記録を振り返り、パターンを見つける
介護の現場に限らず、私たちは常日頃何らかのストレスにさらされています。何となくイラっとしたり、イライラに悩まされたりすることがあっても、対策を立てずに過ごす人も多いのではないでしょうか。自分のイライラの記録を重ねていくと、自分自身の怒りポイントが見えてきます。
ポイントさえ分かれば、対策を立てられるのでイライラせずに過ごせるようになってきます。イライラしがちな人はぜひ試してみてください。記録の時は、因果関係などは深掘りせず、事実だけを書くように心がけるといいですよ。
監修・中浜さんの「実際にこんなことありました!」
コールが頻繁で何度もお部屋に伺わなければならない。施設系で働いたことがある方なら、そんな利用者に一度は出会ったことがあるのではないでしょうか。「また?」「こんな事で呼ばないでよ〜!」なんて思ったことのある人も多いかもしれませんね。
ですが、よくありがちなこととはいえ、それをそのまま伝えてしまうのは、介護サービスを提供している者としては良い対応とはいえません。もちろん、介護職も同じ人間ですので、苛立ちなど感情があるのは当たり前です。感情に振り回されないための自分なりの方法を見つけておくといいですね。
私自身はあまり感情に振り回されるタイプではないのですが、今回は「頻繁にコールを呼ぶ理由」からアプローチしてうまくいった経験談をお話ししたいと思います。
私はまず、コールを使う根本的な理由は何なのかの仮説を立てました。それは<ご利用者さんが「不安」と「寂しさ」を感じている>ことが原因になっているのではないか。「呼んだら本当に職員は来てくれるのかな?」「呼んだら来てくれたけど、用事がないと職員はすぐ帰ってしまうんだな…」といった感情から悪循環に陥ってしまっているのではないかということです。
そこで私はこういった感情に向き合うために、1回の訪室時に滞在時間を長くしたり、その方の要件以外にもこちらから「○○は大丈夫ですか?」などと提案してみたりしました。とにかく、雑談なども含めて【しっかりあなたを見ているよ。安心してくださいね。】というメッセージが伝わる対応を心がけたんです。すると、関わりの中からメッセージを感じ取ってもらえたのか、コールの回数は減っていきました。
一見、時間と手間が取られてしまうように見える対応ですが、「急がば回れ」で根本原因と向き合うことで、施設内に良い循環が生まれるのだと思います。このような行動は、自分一人ではなく、チーム内で共有して実施することでより実感できる変化が現れるはずです。ぜひ試してみてくださいね。
文:細川光恵
参考:「高齢者に「キレない」技術」小学館