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介護・看護・リハビリ 2021-05-14

ファッションショーを介護に導入した革命家! /介護リレーインタビューVol.12【介護士 井手雄大さん】#1

介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、介護業界の魅力、多様な働き方のあり方をご紹介する本連載。今回お話しを伺ったのは、 第8回「介護甲子園」の在宅部門で最優秀賞に輝いた「株式会社ありがたい」社長の井手雄大さん。

前編では介護士から介護施設の社長までのぼりつめた経緯、後編では可動率90%以上のデイサービスの人気の秘訣を伺います。

《お話を伺ったのは…》

株式会社ありがたい 井手雄大さん…介護士として介護施設で10年従事する傍ら、モデルとしても活動。介護施設でファッションショーを行うボランティアや「介護甲子園」などで注目を浴びる。2019年に「株式会社ありがたい」の取締役社長に就任。介護福祉に関わるセミナーやコンサルティングでも活躍。

感謝の気持ちからファッションショーを企画。それが人生の転機に

ファッションショーのボランディアの経緯を
語って下さっている井出さん

―― まず、介護士を目指したきっかけを教えてください。

もともと役者を目指して18歳の時に上京しました。しかし、父から「大学に行く」「就職する」などの理由がないと上京を許可できないと言われ、待遇や働きやすさからたまたま選んだのが訪問介護の仕事でした。

研修期間中にヘルパー2級を取得し、ファッションモデルの仕事や芝居を学びながら介護士を続け、訪問介護、特別養護老人ホーム、デイサービスなどで合わせて10年ほど、介護の仕事に従事しました。

―― たまたま始めた仕事を10年も! 何か魅力があったのでしょうか?

上京してはじめての一人暮らし、知り合いも友達もいないなか緊張の連続で、当時の私は、体も心も疲れきっていました。そんな時に、優しく支えてくれたのが利用者様であるお年寄りの方々でした。介護のことがわからないなか飛び込んだ業界でしたが、お年寄りとの時間は楽しく、仕事を辞めたいと思うことはありませんでした。

―― 介護施設でファッションショーのボランティアをされていたということですが、どういった経緯だったのですか?

やっと仕事に慣れてきた頃、モデルの仕事の関係で当時働いていた施設を辞めることになってしまって…。上京して初めての連続で心身ともに疲れ果てていたときにおじいちゃんおばあちゃんにたくさん支えてもらったので、必ず恩返しをしたいという思いがありました。

そこで当時のモデル仲間やスタイリスト、カメラマン、メイクさんに協力してもらい、働いていた介護施設でファッションショーを行いました。「かっちゃんのモデル姿を見てみたい」と言ってくれていたおじいちゃんおばあちゃんは泣いて喜んでくださり、私も感謝の想いが溢れて最高の時間になりました。

そのショーをきっかけにボランティア団体を立ち上げて活動をスタート。そこで代表を務め、運営の難しさを体験し、経営に興味を持つようになり、自らも介護事業を行いたいと思うようになりました。

居酒屋での運命的な出会いから介護施設の社長へ駆け上る

居酒屋の常連客から社員になった井手さん。
そのバイタリティはインタビュー中にも感じることができました

―― ボランティアのファッションショーが起業へとつながったのですね。そこからどうやって施設を立ち上げたのですか?

団体で活動していた当時、通っている居酒屋があったのですが、そこの店長や代表の人間力に強く惹かれていました。彼らの考え方を介護に生かしたらとてもいいのではないかという話に賛同してもらい、居酒屋を経営している「株式会社絶好調」に入社。「デイサービスありがたい」の創設メンバーとして新事業の立ち上げや人財育成事業などを、代表の吉田氏のもとでスタートしました。

―― 運命的な出会いですね。どんな考えをお持ちの方だったのですか?

「愛とは信じ待ち、許すこと」。これはスクール・ウォーズというドラマの名台詞なんですが、やってくれるのを待つ、失敗しても許すなど、介護にも通ずることで、とても腑に落ちました。

―― さいたま市にも施設を増やし、大忙しの井手さん。一日の業務内容を教えてください。

労務、経理、採用、人財育成など職場環境を整える経営全般を担っています。そのほかは、各施設のフォローを行います。介護事務のフォローが多いですが、必要であれば現場にも立ち、清掃やトイレ介助、レクリエーションなども行っています。

―― こちらの施設はとてもアットホームな雰囲気ですね。笑い声が飛び交い、お客様やスタッフのみなさんが明るくて楽しそうです。

「リハデイありがたい浦和」のコンセプトは、生きている喜び、人生を思いっきり楽しむことを、リハビリを通して取り戻すきっかけをつくることです。お年寄りの「出来ることを奪わず」「持っている能力の維持と向上」を生活に近いレベルで発見していただけるよう、過度な介護は行っていません。

ほかの利用者さまとの交流やイベントを楽しんだり、自分らしく過ごせるように、温かくて安心な空間を目指しています。

利用者さまの言葉に感銘を受け、介護の本質を再確認

利用者さまとの思い出深いエピソードを回想する井手さん。
言葉の選び方や常にスタッフを気遣うお人柄に惚れ惚れしました

―― お仕事で思い出に残っているエピソードはありますか?

「デイサービスありがたい大宮」を立ち上げて2か月ほど経った頃、重度の認知症のおじいちゃんを来所させてほしいと相談があり、来ていただくようになりました。

その方は、他のデイサービスに行っても自宅に帰りたいと強く感情的になってしまい、少し大変な方と伺っていたのですが、ありがたいに通うようになってからは、大変だと感じることはなく、むしろ現場の手伝いやスタッフの子どもと遊んでくれるなど、一緒に何でも取り組んでくださる前向きな方でした。

おそらく、私たちが介護という枠に捉われずに、自分の親と接するようにその方と向き合ったことで、心を開いてくれたのだと思います。

そしてあるとき、その方と施設のソファに座りながらいつものように雑談をしていると「君は私の一番若い心友だよ」と言っていただいたんです。その時は震えるほど嬉しかったです。

その方はご家族の希望でその後施設に入所してしまいました。我々にとって入所はある意味で一番つらい別れです。最期まで関われなかったのは悔しいですが、その後、この時の私たちが親身になって寄り添う姿が印象的だったということで、 奥様もありがたいに通って下さるようになりました。

―― 井手さんと利用者さまが心を通わせている情景が目に浮かびます。利用者さまから直接、感謝の言葉をいただくことはありますか?

「デイサービスありがたい大宮」が満4周年を迎えた周年祭でのことです。

当日は弊社グループ企業の飲食店からも総勢7名のシェフが来て、美味しい料理を御馳走してくれました。

周年を迎えられる事は決して当たり前ではなく、毎日利用者さまであるおじいちゃん、おばあちゃんが来てくださるからです。そんな感謝を周年祭では皆さんに私達からお伝えさせて頂く場でした。

そこでおばあちゃんが「私は93歳になるけど生きる意味や目標なんて何も無かったよ。でもね、デイサービスありがたいがあるから生きる理由があるんだよ! スタッフの方も優しいし、仲間がたくさん出来たし、ここがなかったら自殺したいくらい私には何も無かった。ここは私の生きがいだよ。本当にありがとう!」と、皆さんの前で涙を流しながら伝えて下さいました。

「デイサービスありがたい」を立ち上げて現在に至るまでたくさんの困難や課題もありましたが、周年祭の場で伝えて下さった心からの言葉に、私たちスタッフも今まで歩んできた道のり、介護に対しての想いが間違いでは無かったのだと、全てが救われるような想いでした。そして、これからも理念を大切にして、利用者さまとともに歩んでいきたいとあらたに決意しました。

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利用者さまの感謝の気持ちが伝わってくる、素敵なエピソードをありがとうございました。「自分の親を預けたくなるような安心安全で心寄り添う介護」を理念に、自分の親と接するように利用者さまと拘らせていただいているとおっしゃっていた井手さん。利用者さまの可能性を信じ、自発的にリハビリに取り組めるアットホームな環境づくりをされていました。

後編は、可動率90%以上を誇る施設の人気の秘訣をお伺いします。

▽後編はこちら▽
介護するより感謝する、お世話するより共に生きるがモットー/介護リレーインタビューVol.12【介護士 井手雄大さん】#2>>

取材・文/ながいまき
撮影/石原麻里絵(fort)

Infomation

株式会社ありがたい

住所:東京都新宿区西新宿7-7-26 ワコーレ新宿第一ビル313
TEL:03-6304-0396

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