「自分の常識は、相手の非常識」と心に留めておくのが、利用者さまの心を開くコミュニケーションのコツ! 介護リレーインタビューVol.15【理学療法士 舟越智之さん】#2
介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、介護業界の魅力、多様な働き方のあり方をご紹介する本連載。今回お話しを伺ったのは、東京都墨田区を中心に歩行訓練に特化したデイサービスを展開する「株式会社エバーウォーク」で理学療法士として働く舟越智之さん。
前編では、店舗管理者も兼任する舟越さんの業務内容や、歩行訓練に特化したデイサービスの魅力をお伝えしました。後編では、舟越さんならではの仕事の流儀、利用者さまとのコミュニケーションのコツを伺います。
《プロフィール》
株式会社エバーウォーク 理学療法士 舟越智之さん…大学で理学療法士の資格を取得。東京都内の総合病院で勤めたのち、「株式会社エバーウォーク」に入社。墨田区・両国店の管理者を担い、利用者様が掲げる目標に寄り添い、個々の運動能力にフィットした運動プログラムを提供している。
入社2年目、26歳で管理職に。その心は?
―自ら希望して店舗管理者に就かれたのですか?
はい。経験は浅かったのですが、リーダーとして責任のある仕事を担って、デイサービスを盛り上げていきたいと思ったんです。僕のモットーは、「迷ったらやる」。例えば、A案とB案があって迷ったとき、一日迷って失敗するよりも、5分で考えて答えを出したほうがいい。A案がダメだった場合、B案に10分で辿り着けるので効率もいいですよね。
また、人生には失敗がないと思っていて、例え失敗しても、後々の話のネタになることも。過去の失恋した経験は、その時点では失敗だけど、その先もっといい人と出会えたら幸せですよね。過去の失敗は教訓になるし、糧になる。過去の苦い経験をどう捉えるか、自分の心の持ちようだと思うんです。その考えを部下にも伝えますし、利用者さまにもお話しています。
利用者さまの中には、過去に傷を抱えていたり、嫌な思い出を引きずっている方もいて、それが身体にも影響していることがあります。そうした方を元気にするためには、「辛い経験があって○○さんは生きているし、僕と出会えているじゃないですか! 僕と出会えているってことは幸せですね」っていうスタンスです。
―ポジティブな発言に、利用者さまも前向きになれそうですね。
まずは、会話で心を開いてもらわないと、どんなにいい運動指導をしても響かないんです。会話で心を開いてもらった上で、サービスを提供した方が相手に響くし、信頼関係も築けます。医療・介護って、人との関わりなので信頼関係が全て。僕と関わる高齢者が幸せになってくれると嬉しいし、こういった考えが後々、エバーウォークの売りになればいいなという思いもあります。僕のイズムを受け継いでくれるスタッフをどんどん増やしていきたいです。
「自分の常識は、相手の非常識」と心に留めておく
―利用者さまに心を開いてもらうために、どんなことを心がけていますか?
コミュニケーションに一番大事なことは、「自分の常識は相手の非常識、相手の常識は自分の非常識」というのを念頭においておくことだと思っています。「みんな違ってみんないい」という金子みすゞの言葉と同じ。Aさんが目玉焼きに醤油をかけるのを見て、「えー目玉焼きにはソースじゃん!」とBさんが言うとします。それぞれの好みがあるのに、自分の常識を相手に押し付けてしまうと、コミュニケーションエラーが起きてしまいますよね。
今まで、80年、90年と違う人生を歩んできた利用者さまと対峙をするので、僕の常識は相手の非常識ということを頭に入れておかないと、「何言っているの?」ということに。僕自身は「目玉焼きにはソース」という常識を持っていたとしても、「目玉焼きには醤油ですよね」と受け止めてあげると、相手も理解してくれたんだなと思いますし、どちらも幸せです。
―なるほど。相手の常識に歩み寄る感覚でしょうか。
そうですね。いろんな方と会った上でたどり着いた教訓です。よく「相手に興味を持つ」っていうじゃないですか。それはわかるんですけれど、自分が興味なかったら難しい。僕はその壁にぶち当たったんですよね。その結果、その先の「相手の興味に興味を持つ」っていうのが深いなと思いました。
―相手の興味に興味を持つとは?
利用者さまに元喫茶店のマスターでナポリタンを作っていた方がいたんです。ナポリタンを作る、喫茶店で働くっていうのが、趣味であり仕事であるということが読み取れますよね。そこからもう少し掘り下げる必要があって、なぜ、喫茶店のマスターをやっているのか? なぜ、ナポリタンを作っているのか? とその先の理由を考えるんです。もしかしたら、食べるのが好きかもしれない、人にサービスするのが好きかもしれない、ビジネス、商売が好きだからしていたのかもしれない。そういう利用者さまの背景にあるストーリーを紐解きながら会話するのが、相手の心をひらくテクニックだと管理者になって感じています。
―プロファイリングのような作業と似ていますね。
そうなんです。僕は相手の髪型や服装などからも、いろいろなことを汲み取るようにしています。そうやって相手のこれまでの背景を聞いて、言葉を投げかけないと心を開いてくれないんですよね。今ちょうど、200人の利用者さまがいるんですけど、みなさんの今日だけを見るんじゃなくて、80年、90年の歴史のストーリーも把握する。今日だけの関係で発する言葉と、その方の人生を知った上で投げかける言葉って重さが違うじゃないですか。それを意識して言葉をプレゼントしてあげようって想いがあります。それが、介護の本質だと思っています。
「当事者意識を持て」は通用しない。まずは当事者になってもらう
―管理者になってから、仕事の変化や気づきはありましたか?
自分の部下を持つようになってから、自分自身も成長しました。その経験から、若い子は成長したければ、早く自分の部下を持ったほうがいいと思うんです。当事者意識を持てとか、経営者目線を持てとか言われても、当事者にならないとわからないから他責の言葉なんです。リーダーの気持ちでみんな頑張ろうぜと言っても、リーダーにならないとわからない。だから、リーダーをやらせてみるんです。
先日、入社一週間目の人に、運転を任せたんです。なぜかというと、隣で座っていても運転のテクニックは身につきません。運転しないとスキルはつかないからやってみようと。そのスタッフはどんどん挑戦してくれました。
「責任感を持て」と言わなくても自然と責任感が身に付く教育が理想だなって。だから、僕は教えない教育が最上級だと思っています。
―舟越さんの今後の課題や目標を教えていただけますか?
テクノロジーによって、人間の負担軽減は随分進みましたが、介護という仕事は人間がこれからも担わないといけない仕事です。極論をいうと、家族の介護は家族がしてはダメなんです。家族の介護はプロに任せたほうが、お互いに幸せ。なぜかというと、今までそういう経験をしていないから、前述の「相手の常識は自分の非常識」になってしまうんです。そうすると、お互いコミュニケーションエラーが起きて不幸になる。
自分の親を通わせたいと思うデイサービスをつくることが目標なので、もし必要になったらここに通ってほしいと思いますし、胸を張って僕はこういう仕事をしています、お父さんお母さん来てみる?って伝えたいです。
子どもが幸せな仕事をしているのことが親の幸せでもあると思います。これからは、介護をプロがやる当たり前の時代になってくると思うので、僕たちはキャパを広げていかないといけない。そのためには、デイサービスをたくさん作らなきゃいけないとも思っています。一緒に働いてくれるスタッフをたくさん採用しなければならない。そのためには、いい人が来てくれるようにこれからも取材を受けたり、SNSで発信して伝えていきたいです。
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「利用者さまもスタッフも、エバーウォークに来てもらえたら幸せにできる」とおっしゃっていた舟越さん。何事もポジティブに捉え、確固たる自信を持つ姿に、リーダーとしての品格を感じました。貴重なお話しをありがとうございました。
▽前編はこちら▽
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取材・文/ながいまき
撮影/石原麻里絵(fort)