ボリュームラッシュ専門店にしたことで客幅も時間単価もUP 【Fast Lash 錦織桃さん】#1
美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方へ成功している先輩オーナーの経験談をお届けする本企画。
今回お話を伺ったのは、まつエクサロンでは珍しいボリュームラッシュ専門店「Fast Lash」オーナーの錦織桃さん。圧倒的な技術力と経験値を持ち、一人ひとりに似合うデザインをプロデュースしています。会社のトップになったのはふとした理由からですが、技術者としての視点を忘れず、独自のスタイルでお店を導いてきました。
前編では、会社のトップ就任後に労働環境を見直したこと、ボリュームラッシュ一本化に踏み切ったことで回転率が上がったこと、専門店に必要な「提案力」について教えていただきます。
サロンワークと同じくらい教えることが楽しくて
――オーナーになる前は講師活動をされていたと伺いました。
講師経験も長いですね。日本で4〜5年、そのあとシンガポールでも講師を任されていました。
技術者としてサロンで働くのが大好きだったので、お客様との時間が減るのは嫌でしたが、実際にやってみたら案外楽しくて、これも自分に向いていると感じました。
――技術者とはまた違う楽しさがあったんですね。
一人ひとり違う人間なので、教え方も千差万別。私が苦もなくできたことが、他の生徒さんにとっては難しい…ということがよくありました。でも、いかにそれぞれに合ったスタイルで教えていくかを考えることが楽しくて。何より、教え子がどんどん成長していく姿が自分のこと以上に嬉しかったです。
労働環境を見直すことがお客様満足度につながる
――どのようにして今のポジションに?
実をいうと、独立する気は全くなくて。どちらかといえば、雇われて安定した収入がほしいタイプでした。そんな中、まつエクサロンを経営していた姉に「タイに行くことになったから会社を任せる」と言われて、急遽トップに立つことになったんです。
――トップに立ち、どんなことに苦労しましたか?
一番は従業員の定着率を高めることですね。そのために就業時間や給与制度を見直したり、早番遅番のシフトを一本化したりして働きやすい環境づくりを徹底しました。さらに、無駄な居残り時間や電気代を省くためにも、最後のお客様が帰られたらすぐにサロンを閉めて帰るように。そのおかげで就業時間より30分〜1時間早く帰社できることが増えましたね。
――就業時間を待たずにお店を閉めるのは、売り上げのことを考えると惜しくなかったですか?
長く働いている従業員がいるということは技術力や接客力が安定しているということで、きっとお客様にとって一つの安心材料になるのではないかと考えていました。労働環境の見直し=スタッフを大切にすることは結果的にお客様の満足度やリピート率にもつながるのではないかと。
スタッフの信頼を得るために自分が実際現場に出て売り上げをつくるなどして、背中を見せてきたつもりです。けれど、あくまで自分は従業員が活躍できる場を与える裏方役に徹し、まずは従業員第一で考えるようにしてきました。
時間単価UPのポイントは「一本化」
――なぜボリュームラッシュ専門にしたのですか?
もともとはシングルを取り扱っていたのですが、ボリュームラッシュを導入してみたら反響がすごく良くて。
ボリュームを出せるのはもちろん、実は自然なデザインにも対応できるんです。シングルよりデザインの幅が広いですし、地毛への負担もシングルより少ないです。太い毛を地毛一本ずつにつけていくシングルに対し、ボリュームラッシュはシングルの4分の1の細さの毛を束にしてつけていくため、すべての地毛に装着しなくても十分にボリュームを出せるんです。地毛が少ない人にも向いているので、お客様の幅も広がりました。
しばらくすると、お客様の8割くらいがボリュームラッシュを選ぶようになっていましたね。
――ボリュームラッシュを打ち出す上で何か工夫はしましたか?
シングルラッシュを廃止してボリュームラッシュに1本化したことで、仕入れ価格を抑えることができ、在庫管理もしやすくなったため、メニュー価格を下げることが可能になりました。なので、「リーズナブルな価格」を全面的にPRし、差別化をはかることにしたんです。
――ボリュームラッシュはシングルよりも施術時間が長いイメージですが、回転率に変化はありましたか??
ボリュームラッシュは地毛に装着する作業が減る分、施術時間が短縮されるんです。おかげで時間単価が上がりました。
――時間単価アップですか!
うちのサロンでは1時間コースの他に、「150本30分」という最速コースも用意しています。例えば、1時間6000円のコースを一枠だけしか取らないとなると、その1時間では6000円しか売り上げが取れません。でも、30分4000円のコースがあれば、1時間に2枠取ることができるので、1時間で8000円の売り上げになるんです。
また、遅刻してきたお客様に対応しやすいのもボリュームラッシュの良いところ。例えば、1束3本でつけていたものを1束4〜5本に調整すれば、トータルの本数を変えずに時短が可能なんです。それはシングルではできないことですね。
――なるほど。遅刻客にも対応できるため、サロンワークにおいてもスムーズなんですね。
ボリュームラッシュ専門店だからこそだと思います。うちの場合はボリュームラッシュに特化して特訓しているので、施術スピードが早いんです。一般のお店だとボリュームラッシュに2時間かかってしまうこともありますので…。
一人のお客様に5種類のエクステを使い分ける
――錦織さんの施術スタイルは「あなたにはこのデザインが似合う」というプロデュース型ですよね。
提案を大事にしていますが、もちろんこだわりや要望が強い方もいるので、「提案=お客様の否定」にならないように塩梅は大事かなと思っています。「この方はこっちのデザインの方が似合うのになぁ」と思っても、それをストレートに伝えてしまうと否定になってしまう。だから、まずは希望のデザインをつけてあげて、徐々にアドバイスを加えながら自分色に染めていくという感じです。
基本、最初におおよそのデザインは決めますが、つけていく過程でエクステの種類を変えることが多いです。どのお客様も地毛一本ずつ微妙に生えグセが違うので、人によっては最終的に5種類くらいを使いこなす場合もあって、かなり試行錯誤しています。
――コース一辺倒のデザインではないのですね。
まつエクをする人って「目をぱっちりさせたいから」という理由が大半だと思いますが、私は長さを出すだけが正解ではないと思っています。人によっては短めのエクステにした方が目が綺麗に見える場合もあるんですよ。みなさんが抱きがちなまつエクへの固定概念を上手く崩してあげたいなと思いやってきました。
――施術後に「イメージと違った」とならないために工夫されていることはありますか?
施術途中に一度起き上がった状態でバランスをお客様と確認する、ということを全スタッフに教育しています。提案力とセットで大事になるのがお客様との綿密な確認作業。施術後のクレーム回避だけでなく、仕上がりの満足度も上がり、「専門店」としての価値アップにつながるんです。
お客さんに信頼してもらえるだけの技術力を備えた上での「ボリュームラッシュ一本化」だったのですね。最後に、錦織さんがボリュームラッシュ専門店を運営するために工夫してきたことをまとめていただきました。
「ボリュームラッシュ」の専門店として機能するための心構え
ボリュームラッシュのメリットを見抜き、思い切って一本に絞ったことで、売り上げや回転率UP、客層の幅が広がるなどあらゆる面でプラスに転じました。そこには「専門店ならでは」の切り口も必要だったようです。
1. リーズナブルな価格にして、他店と差別化を図る
2. 30分枠を用意して効率良く予約を入れ、時間単価をUP
3.「コースはあくまで基本」という意識を持ち、提案力をつける
▽後編はこちら▽
「下積み期間」のムダを省き、未経験者が育つお店へ 【Fast Lash 錦織桃さん】#2>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/柴田大地(fort)