発達障がいのお客さまが教えてくれた美容室にできる社会貢献【ヘアサロンSketch 荒谷陽一さん】#2

美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方に向けて、独立して成功した先輩オーナーの経験談をお届けする本企画。

前回に引き続き、今回もヘアサロン「Sketch」オーナー荒谷陽一さんにお聞きします。自由が丘から心機一転、地元の江戸川区瑞江で地域に根差したサロンをオープンした荒谷さん。後編では、発達障がいのあるお子さんの接客を通して気づいた、美容師としての新たな使命についてお話いただきました。

お話を伺ったのは…

荒谷陽一さん

デパートの販売員を経て、一念発起して美容師の道へ。自由が丘のヘアサロンに18年勤めた後、2013年に「Sketch」をオープン。

発達障がいがあっても安心してカットができるサービスとは?

―発達障がいのあるお子さんを積極的に受け入れているそうですが、そのきっかけは?

たまたま、お客さまに発達障がいのあるお子さんがいらした、というのがはじまりです。福祉の知識があったわけでも、社会貢献しようという目標があったわけでもないんです。目の前にニーズがあったから、自分なりに工夫して対応していくうちに今に至る、という感じなんです。

―どんな接客を行なっているのですか?

発達障がいの方は、音にとても敏感。はさみで髪を切るチョキチョキという音ですら、怖いと感じてしまいます。また、経験がない物事に対して警戒心がとても強く、初対面の人に対して「何をされるんだろう⁈」と壁をつくってしまう傾向があります。

そのため新規の時は、まず僕という人間を信頼してもらうことからはじめます。いきなりカットすることはありません。学校やテレビ、興味があることなど、たくさん世間話をして、「この人は自分が嫌がることはしない」と認識してもらえてはじめて、カットに進みます。

1回目はお話だけで、2回目から切らせてもらえることが多いですね。なかには、4回目にやっと切らせてもらえたこともありますよ。

発達障がいの方に配慮したさまざまなサービスを提供

―時間をかけてじっくりコミュニケーションを取るんですね。

発達障がいの方には、そのプロセスがとても大事なんです。通常のカットは1時間もあれば十分ですが、1時間30分ほど予約の枠を取り、時間をかけてゆっくりカットするようにしています。もちろん割り増し料金はいただきません。

カットに慣れてからも、気分が乗らない時は絶対に無理強いはしません。イスに座りたくない時は床に座ったり、寝転がったり、お子さんがしたい姿勢に合わせて切っています。はさみは刃物ですから、本人がしたくない姿勢で無理に切ると、逆にケガにつながってしまうので。途中までしかカットできなかった日は、料金の半額だけいただくようにしています。

美容室探しに悩んでいた親御さんの喜ぶ顔が一番がうれしい

―きめ細かい対応、親御さんにとっては助かりますね。

じっとしていられなかったり、大声を出してしまったりしても、うちは同じ時間帯に他のお客さまがいないので、「迷惑じゃないかな?」と気兼ねしなくてすむそうです。僕自分、自分の子どもが小さいころに外出先でぐずって苦労した経験があるので、親御さんが「ここなら周りの目を気にせず、安心して連れて来られる」といってくださるのが、一番うれしいですね。

―遠方から来店してくださる方も多いと聞きます。

発達障がいのお子さんを持つお客さま同士が、クチコミで広めてくださったおかげです。もっとたくさんの人にうちのお店を知ってほしくて、発達障害の方が気兼ねなく行けるヘアサロンの情報サイト「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」にも掲載しています。掲載後2カ月で、このサイトをきっかけに約20人も新規のご来店がありました。

お店をオープンした時は、美容師としてこんなカタチで地域や社会の役に立てるなんて考えもしませんでした。今、世の中では事業活動にサステナビリティが求められていますよね? うちみたいな街の小さなお店でも、いつもの仕事の延長で無理なくできることがあるのが、うれしいですね。

父親として取り組んだPTA活動がお店の運営にもメリットに

PTA活動では会計監査を担当。「仕事で自ら経理もしているので、数字の間違いを見つけるのは得意なんです(笑)」

―キッズフレンドリーや発達障がいのお子さんの受け入れ以外で、地域に溶け込むための工夫はしましたか?

じつは小学校のPTAで会計監査をやっているんです。一番上の子が小学生の時にはじめたので、かれこれ10年以上かな。瑞江は自営業の方が多く、お父さんのPTA参加率が高かいんですよ。PTA活動を通じて知り合ったパパ友がお店の常連になってくれたり、同年代の友人にクチコミしてくれたりしたおかげで、地域とのつながりがとても強くなりました。

もし自由が丘で独立していたら絶対にできなかったことですし、職住近接のメリットですよね。江戸川区周辺は高齢者施設が多いので、そういった施設へ訪問カットの活動ができたらいいなと考えています。

―商圏が小さいことで集客に心配はありませんか?

広く集客するより、クチコミをベースに常連さんを大切にしたいので、不安はありません。経験上、お客さまは自然に入れ替わっていくのも分かっていますから、一時的にお客さまが減っても焦らないですね。

そうそう、ここにお店を開いた決め手の1つが、隣に素敵なケーキ屋さんがあったからなんです。ケーキを買いにくる方は美容室にも興味があるだろうって予想していたら、見事に当たって。ケーキ屋さんの常連の方がうちに来てくれるケースがけっこう多いんですよ。その逆もあって、周囲の小売業の方々とうまく共存するのも、小さな街で成功する1つのポイントかもしれません。

独立を目指すあなたへ

一人オーナーでやりたいことをマイペースにできるというのは、大型店の経営にはない魅力だと思います。発達障がいのお子さんが気兼ねなく来店できるという特色も、一人で経営しているからこそできること。毎日の仕事の延長で地域や社会の役に立つという、僕らしい美容師像をこれからも追及していきたいと思います。

取材・文/池田 泉
撮影/柴田大地(fort)

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Salon Data

hair S ketch」

住所:東京都江戸川区南篠崎2-11-10
TEL:03-5664-2508
営業時間:平日 9:00~20:00、土・日・祝 9:00~19:00 (要予約)
定休日:毎週火曜日、第1・3水曜日
http://sketch-mizue.com/

※店舗情報は発達障害の方が気兼ねなく行けるヘアサロンの情報サイト「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」からもご覧いただけます。

 

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