地域の美容室だからこそできるダイバーシティのカタチ【ヘアサロンSketch 荒谷陽一さん】#1

美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方に向けて、独立して成功されている先輩オーナーの方々の経験談をお届けする本企画。

今回は、乳幼児連れのお母さんや発達障がいのお子さんをお持ちの保護者の方など、様々な事情で美容室に気軽に行けないお客さまたちが厚い信頼を寄せる、ヘアサロン「Sketch」オーナーの荒谷陽一さんにインタビュー。

前編では、華やかな自由が丘での勤務時代から一転、地元の江戸川区瑞江で独立。地域に寄り添う街の美容師として道を切り開くまでをお聞きします。

お話を伺ったのは…

荒谷陽一さん

デパートの販売員を経て、一念発起して美容師の道へ。自由が丘のヘアサロンに18年勤めた後、2013年に「Sketch」をオープン。

自由が丘を離れ地元・瑞江を選んだ理由

―華やかな自由が丘のヘアサロンから独立。地元に戻って開業した理由は?

以前の職場は土地柄もあって、お客さまはヘアスタイルに強いこだわりをお持ちの、感度の高い方ばかり。技術やセンスはもちろん、非日常的なラグジュアリーな雰囲気も求められました。僕自身、若いころはそんな環境で働けることに誇りを持っていましたし、毎日とても楽しかったですね。

ところが結婚して子どもができると、価値観に変化が出てきて。もっと生活の場に近い、アットホームな美容室で働きたくなったんです。それに、スタッフとして勤務していると拘束時間が長く、子どもと接する時間も少ないし、学校行事にもなかなか参加できません。

美容師としてこの先もずっと楽しく働きたいなら、家族と住んでいる街に自分のお店を開くのがベストだと考え、地元の瑞江で独立する道を選びました。

―独立にあたって難しかったこと、苦労したことはありましたか?

40歳での独立でしたから、「失敗したら後がない」という強い覚悟は持っていましたね。開店に必要な知識は本で勉強したり、美容ディーラーさんに相談したりして、具体的な作業を進めていきました。そうそう、不動産屋さんも美容室のオープンにたくさん関わっているからか事情に精通していて、お店探し以外の面でもすごくお世話になりました。

地域の美容室だからこそ生活者の視点を大切にした店づくりを

ベビーカーや車いすの方、高齢の方が来店しやすいよう、段差のないフルフラットのアプローチに

―開店にあたってこだわった点を教えてください。

瑞江は都心から離れているぶん、町全体がアットホームで飾らない雰囲気。お店の内装も高級感より親しみやすさを重視しました。

自分自身も生活者として暮らしている街なので、その経験からお客さまは乳幼児連れのお母さんや高齢の方も多いことが予想できました。ベビーカーや足が不自由な方でも来店しやすいよう、お店探しの条件に「1階」「地面から入り口までスロープがついている」こと入れました。

また、自分の子育て経験から絶対につくろうと決めていたのが、靴を脱いでくつろげる、じゅうたん敷きの小あがりです。テレビを置いているので、親御さんがカットしている間、お子さんが飽きずに待っていられるんです。眠くなったらここで寝かせることもできます。開店当時、近隣にキッズスペースのある美容室はなかったので、すごく喜ばれましたね。

―自由が丘時代との違いはどのくらいありましたか?

予想以上に、自由が丘のお客さまが求めるものとの違いに驚きました。いい意味で、瑞江のお客さまはヘアスタイルやお店へのこだわりがないんです。髪の毛って、どんどん伸びていくものですよね。必然的に定期的に切らなきゃいけないからこそ、スーパーやかかりつけ医と同じで、地元で気軽に行けるお店を求めているんですよ。

もちろん、その方に似合うスタイルの提案はしますし、希望するスタイルがあればそれに似合わせるアイデアもお出しします。でも何より、お客さまがリラックスできて、通いやすいと思っていただける雰囲気づくりを重視するようにしています。

一人オーナーであることが多様なお客さまを受け入れる強みに!

カーペットを敷いたキッズスペース。親御さんがカットしている間、お子さんがテレビを観たり、おもちゃで遊びながらゆっくりくつろぐことができます

―「Sketch」のスタッフは荒谷さんのみ。一人での運営は大変ではありませんか?

それが、瑞江では僕一人でやっていることで得るメリットのほうが多いくらいです。たとえば、当店は男性のお客さまがとても多くて、男女比にすると半々。スタッフがおじさんの僕しかいないので(笑)、美容室のキラキラした雰囲気に敷居の高さ感じていた男性が、安心して来店できるようなんです。

小さなお子さま連れのお客さまからも、「店内にほかのお客さまがいないから気兼ねなく利用できる」という声をよく聞きます。僕自身、子育て経験があるので、子どもがうるさくしたら周りの方に迷惑かなと心配する気持ちはすごくよくわかるんですよ。

だからこそキッズスペースをつくったのですが、ワンオンワンでお店をやることも、お客さまがより利用しやすい雰囲気の醸成に役立っていたようです。これがのちに、発達障がいのあるお子さんを積極的に受け入れるという、新たなお店の方向性にもつながっていきました。

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まったく商圏の異なる場所にお店を構えながらも、短期間で地域の方々の信頼を得た荒谷さん。その極意をまとめていただきました。

1.地域の方々が何を求めているか予想する生活者としての視点

2.老若男女さまざまなお客さまが来店しやすい雰囲気づくり

3.不動産屋さんなど地域の事情に精通している人を味方につける

後編では、この数年ニーズが急増しているという発達障がいのあるお子さんの接客など、荒谷さんが目指すサステナブルな美容室像についてお聞きします。

取材・文/池田 泉
撮影/柴田大地(fort)

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Salon Data

hair S ketch

住所:東京都江戸川区南篠崎2-11-10
TEL:03-5664-2508
営業時間:平日 9:00~20:00、土・日・祝 9:00~19:00 (要予約)
定休日:毎週火曜日、第1・3水曜日
http://sketch-mizue.com/

※店舗情報は発達障害の方が気兼ねなく行けるヘアサロンの情報サイト「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」からもご覧いただけます。

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