泥臭かった人生はネタの宝庫。逆境も笑いに変えられたら人生は楽しい【ヒーリングヘッドセラピー Tiphareth(ティファレス)オーナー山本幸恵さん】#2
「頭をマッサージするとリフトアップする」「頭をほぐすと体調が良くなる」。そんな美容知識を突き詰めた方がセラピストの山本幸恵さん。いわばヘッドスパの生みの親とも言えるでしょう。日本発のヘッドスパ専門店を開き、何万人もの「頭」を触り、研究、研究、研究の日々。一見すると輝かしい成功者のようにも見える山本さんですが、実は「地べたを這いつくばってきた」人生だったよう。
後編では、ヘッドスパを深めていく過程や、ようやくたどり着いたプライベートサロンについてお聞きします。
結果が先にあり、そのメカニズムを解明していく日々
――「頭をマッサージすることによってフェイスラインが上がったり、体調が良くなったりする」という知識も一般化してきましたが、山本さんが突き詰めたことなんですよね。
すごくシンプルなことで、施術が終わったあと、みんな顔がすっきりしているんです。じゃあ何で顔がすっきりしているんだろう?と、筋肉のことを勉強したらその理由がわかり、納得。
他にも「体が楽になるのは何で?」「腰の痛みが和らぐのは何で?」「足のむくみが取れるのは何で?」とお客様から疑問が上がれば、その度に分析して。その繰り返しです。いつも結果が先にあったんです。
――その後、ヘッドスパをホリスティックケアとして深められましたね。
きっかけとなったのは娘二人が交通事故で大怪我を負ったことです。事故の後遺症でひどい頭痛と不調に悩まされている娘たちを見ていられず、自分で色々と調べた結果、その原因として「脳脊髄液」にたどり着いたんです。そして、頭のマッサージが脳脊髄液の循環を良くするということに気づき、「自分の施術は単なるマッサージじゃない。人の体調を良くするものなんだ」と治療の域にまで深めていくことにしました。
娘たちの怪我を治したいと思い、独学で「創傷治療」について学ぶうちに、肌について化学的にわかるようになり、創傷治療と肌美容は全く同じだということに気づいたんです。同時に「世の中の化粧品じゃ肌が良くなるわけがない」ということも。
それがきっかけで、化粧品の開発にも意識を向けることになります。
――最初に開発したのがシャンプーでしたね。
美容師時代はずっと手が荒れていたんですが、パーマ液やカラー剤によるものではなく、シャンプー剤のせいだったんです。「手が荒れるもので頭を洗って良いの?」という疑問をずっと抱えていたのですが、それに真剣に向き合いたいと思ったんです。
今思うとこれも縁なのですが、私は学生時代に化学がかなり得意だったんです。成分を勉強し、製造会社を探し、「こういうシャンプーをつくりたい。この成分は絶対に入れないで。でも洗浄効果は成立させて」と無茶な要求をして(笑)。そうして、赤ちゃんでも使えて、体や顔も一緒に洗えるシャンプー剤を完成させたんです。
地べたを這ってたどり着いたプライベートサロン
――7年続いた白金のサロンを閉め、現在の「ヒーリングヘッドセラピー Tiphareth(ティファレス)」をオープンするまでの空白期間について伺ってもよろしいですか?
この期間に離婚しました。それも結構な泥沼劇で、一文無しで家を飛び出したんですよ(笑)。二人の娘なんて明日のご飯さえないかもしれない…という状況でした。
――順風満帆な美容人生を送られていたのかと思っていましたが、まさかそんな展開が…。
第二ステージでは数々のメディアに取り上げられ、白金のサロンを一流のお店にすることができました。けれど、その裏には大変なこともたくさんあったし、「もう辞めたい」と何度思ったかわかりません。
でもね、「私、人生で血反吐を吐いて倒れた経験をネタとして持っていても面白いかも」って思ったんですよ(笑)。結局、どんなに苦しいことがあっても血反吐を吐くことはなかったので、辞めるに辞められなかったんです。
「辞めたい」と思いながら続けるよりも、「血反吐を吐いてやろうじゃないか」と思いながら続ける方が楽なんですよ(笑)。第二ステージはいわば「修行」でしたが、そのおかげで精神面も強くなり、今では何も怖くないですね。
――そして第三ステージの場がこちらのサロンということですね。
はい。離婚をきっかけに夢を叶えようって。それがプライベートサロンだったんです。
白金のお店ではスタッフを雇い、講師の役目もこなしました。けれど、「違う。私がやりたいのは先生じゃない」と思ったんです。私はやっぱり施術家であり、職人でもあるから、自分のサロンで自分の施術をしたかったんです。
断捨離の意味でも、前のお店を引きずって第三ステージには行きたくなかったので、白金のお客様には何も告げませんでした。
――とっても素敵なサロンですが、実はゼロからのスタートだったとは。
そうなんです。お金がない中ではじめたサロンです。何も事情を知らない人は「まぁ素敵なサロン!成功者はやっぱり違うわね」と思うかもしれませんが、全然そんなんじゃないですから(笑)。地べたを這って、やっとたどり着いた場所なんです。
「頭」を通してその人を丸ごと良くしたい
――プライベートサロンを構え、施術や人への向き合い方は変わりましたか?
そうですね、根本は同じですが、頭のマッサージを通して「人」としての部分をケアしたいと思いながらやっています。その人を丸ごと良くしたいというか。会話もすごく多いです。この空間で一人のお客様と1対1で向き合う。それはプライベートサロンにしかできないことで、私が本当にやりたかったことなんです。
治療家としての資格は有していないけど、一般的な治療院には負けないくらいの「治療」を施していると思っています。
――コロナ禍で来店されるお客様に変化は見られましたか?
振るい分けされましたね。私、美容面にも精通しているので、美容目的の来店も多かったのですが、コロナ禍では「精神面を楽にしたい」という目的でいらっしゃる方が顕著に残った感じです。そういう意味でも、このサロンは治療室になってきているなと実感しています。
――最後に、山本さんの成功の秘訣とは?
やっぱり「継続は力なり」なんですよ。そのためには「好きなこと」をすること。そして「好きなことをやる」と決めたらやり尽くすこと。その終止符をどこで打つかは自分で決めることですが、私は多分死ぬまで打ちたくないですね。だから、第四ステージがもしかしたらあるかもしれない(笑)。実は鍼灸師の資格を取りたいと思っていて、数十年後に「70歳・治療家」の人生を送っているかもと思うと、それもネタになって面白いですよね。
――そのポジティブな生き方の秘訣も教えてください!
楽しむこと。辛いこともネタと思えばだんだんと面白くなっていきますから。未知のことに対する恐怖は誰しも持っていますが、「私にできるかな…?」と思ったところでそれは誰にもわからない。だから、怖がるんじゃなくて楽しんじゃえば良いんです。そういう転換力はみんな持っていた方が良いと思いますよ。だって、環境なんてそう簡単には変わらないから。自分の考え方を変えるしかないんです。
どんな経験も無駄にはならないし、寄り道だったと思っていたことが不思議と後に繋がってくるんです。無駄にするか、寄り道にするかは「どれだけ今を楽しめるか」にかかってきますよ。
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山本さんの成功の秘訣
1.疑問を抱いたことには徹底的に向き合い、探究する
2.やりたいと思ったら言い訳を捨てて実行に移す
3.すべての経験は人生の彩りになると考えて楽しむ
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄