歩合40%、スタイリストの離職率5年間ゼロのサロンが本気でつくる、風通しの良い職場「ANFINI」堀江宇紘さん
社会保険や休暇制度、固定給による安定を得られる一方で、「業務委託ほどは稼げない」「人間関係のわずらわしさがある」と思われがちな正社員という働き方。本企画では、そのリアルに迫ります。
今回お話を伺ったのは、「ANFINI」のオーナーである堀江宇紘さん。同店では、正社員でありながら指名・フリーともに歩合率40%、平均月収約40万円という高い還元率を実現しています。さらに、実働8時間、残業ほぼなし、有給取得率約95%と、私生活を大切にできる環境も整えています。
こうした待遇面に加えてANFINIが重視しているのが、相談やミスの報告が安心してできる環境や、年齢や役職に関係なく意見を伝えられる組織づくりです。教育や売上の悩みも本人だけに任せず、仕組みによって支えています。その結果、オープンから約5年間、スタイリストの離職はゼロとのこと。
今回は、心理的安全性を高める取り組みや、技術と売上を伸ばす教育、高還元と無理のない働き方を両立する仕組みについて伺いました。
今回、お話を伺ったのは…
堀江宇紘さん
「ANFINI」オーナー

青山・表参道の美容室や大型サロンで経験を積み、店長や技術統括などを務める。若手美容師が安心して成長し、長く働ける環境をつくるために独立。髪質改善とエイジングケアを軸に、お客様の生涯に寄り添うサロンを目指している。
「仲がいい」と「働きやすい」は違う。役職に関係なく意見を伝えられる職場へ

――堀江さんがスタッフの働く環境を重視するようになった原点を教えてください。
私がアシスタントだった頃は、技術を身につけることに必死でした。練習用のウィッグを購入するために家族の援助を受け、大切な家族の行事に参加できなかったこともあります。
ただ、当時の会社や先輩を否定しているわけではありません。先輩方は自分の時間を使い、熱心に技術を教えてくださいました。仕事への向き合い方や、後輩に時間をかける大切さを学べたことには、今も感謝しています。
一方、経営者になってからは、技術を身につけることと、お金や私生活を犠牲にすることは、必ずしもセットである必要はないと考えるようになりました。美容師が安心して技術を磨き、夢を育てられる環境をつくりたいと考えたのが、「ANFINI」の原点です。
――堀江さんが考える「人間関係がいい職場」とは?
私たちが大切にしているのは、分からないことを分からないと言えること、困ったときに助けを求められること、ミスを隠さず報告できることです。役職や年齢にかかわらず、必要な意見を伝えられる心理的安全性の高い職場を目指しています。
スタッフ全員がプライベートでも仲良しで、いつも一緒に過ごすことが人間関係のよさではないと考えています。仲がよすぎるために、お客様に迷惑をかける行動を注意できないのであれば、働きやすい関係とはいえません。
店長もほかのスタッフより立場が上なのではなく、任されている役割が違うだけです。後輩の教育でも敬語を使うことをマニュアルに盛り込み、相手を傷つける言葉を使わないよう徹底しています。
――悩みをひとりで抱え込ませないために、どのような仕組みを設けていますか。
日常的な声かけだけでは、すべての悩みに気づくことはできないため、月1回のアンケートや1on1を行い、メンターの役割も設けています。
相談相手も限定していません。技術はその分野が得意なスタッフ、売上や集客は私や責任者、人間関係は直属の上司以外にも相談できます。誰かひとりとの関係がうまくいかなければ相談できない、という状態を避けるためです。
――それは、声をあげやすいですね。
ええ。あとは、評価制度には売上だけでなく、ANFINIが掲げる行動指針も反映しています。私たちのビジョンである「生涯顧客の創造」を実現するために大切にしているのが、「学び続ける」「仲間とともに歩む」「自責で考える」「ポジティブでいる」「誠実でいる」という5つの行動です。売上が高い人だけではなく、こうした行動を実践し、周囲やお客様と誠実に向き合っている人を評価する仕組みにしています。
こうした取り組みもあり、オープンから約5年間、スタイリストの離職はゼロです。今後もメンター制度や管理職育成の体制をさらに整えていきたいです。
指導者の感覚に頼らない。チームで支える教育と売上アップの仕組み

――スタッフ同士が自然に教え合う風土は、どのようにつくられていますか。
教育責任者はいますが、教える人をひとりに固定していません。カット、カラー、カウンセリングなど、スタッフにはそれぞれ得意分野があります。複数のスタッフが教育に関わることで、質問できる相手が増え、コミュニケーションも生まれます。
一方で、指導内容が人によって変わらないよう、技術動画と評価項目を用意しています。カラー塗布であれば、確認すべきポイントを10~15項目ほどに分け、一定の割合をクリアしたら合格とします。感覚だけで判断せず、誰が見ても同じ基準で評価できる仕組みです。
――売上に悩むスタイリストには、どのような支援をしていますか。
売上が上がらないときに、本人の努力不足だと決めつけることはありません。新規のお客様の数、再来率、客単価、施術スピード、カウンセリングなどに分解し、どこに課題があるのかを一緒に確認します。
おおよその傾向として、売上50万円未満の場合はカウンセリング、50万~100万円では施術スピード、100万~150万円では客単価に課題があるケースが多いです。ただし、答えを一方的に教えるのではなく、1on1を通して本人が強みや課題に気づくコーチングを意識しています。
実際に、入社前の売上がゼロだったスタイリストや、月25万円ほどで伸び悩んでいたスタイリストが、1~2年ほどで月80万円まで売上を伸ばした例もあります。急激な成長を求めるのではなく、1人ひとりに合う方法で安定した売上をつくることを重視しています。
歩合40%、残業ほぼゼロ。スタッフの心の豊かさがお客様の満足につながる

――正社員スタイリストの給与と働き方について教えてください。
スタッフの平均月収は約40万円です。正社員には安定した基本給を設けたうえで、それを歩合給が上回った場合は、指名・フリーを問わず技術売上の40%を支給しています。
高い還元率を継続するには、会社として利益を生み出せる仕組みが必要です。「ANFINI」の客単価は約1万3,000円で、リピート率は約90%。安売りや無理な回転型の施術ではなく、お客様に長く通っていただくことで生産性を高めています。
掲げているビジョンは「生涯顧客の創造」です。その実現のためには、スタッフも美容師を長く続けられる環境が必要です。売上をつくれる環境を会社が整え、その成果をスタッフに還元することを大切にしています。
――高い還元率を実現する一方で、長時間労働にならないよう、働き方にも配慮されているそうですね。
はい。実働8時間を基本に、予約状況に合わせて出勤時間を調整しています。施術時間が延びた場合や時間外に講習を受けた場合は、別の日に遅く出勤したり、早く退勤したりして調整することが可能です。ミーティングや練習もできる限り営業時間内に行い、残業はほぼありません。
有給取得率も約95%です。制度があるだけでなく、実際に使えることに意味があると考えています。今後も育児や介護など、スタッフのライフステージに合わせた働き方を整え、20代だけでなく、30代、40代、50代になっても美容師を続けられる会社を目指します。
「ANFINI」が目指しているのは、人間関係や教育、売上の悩みを本人の問題にしない組織です。スタッフの離職ゼロという実績の裏には、相談できる関係性をつくり、成長を具体的な仕組みで支える堀江さんの姿勢がありました。美容師として成長しながら、自分の人生も大切にしたい人にとって、新たな可能性を見つけられるサロンといえそうです。
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