「検証オタク」としてカラーに関する情報を発信しフォロワー数1万人に! 美容師・兄さん
毛束を使ったヘアカラーの検証とその考察をひたすら発信するという、一見変わったインスタアカウントがあります。運用しているのは、美容師の兄(あに)さん。ストイックに研究を続ける姿勢は、勉強熱心な美容師から絶大な支持を集め、現在フォロワー数は1万人となっています。
前編ではその運用方法についてお話を伺いました。驚いたのがインスタで発信を始めたのは、信頼できる美容師とつながり、転居したお客さまを紹介できるように考えた結果とのこと。インスタ発信では自分の検証結果を正解だと言い切らず、一美容師の見解として伝えることで、みんなで勉強をしていく姿勢を大切にしているそうです。
今回お話を聞いたのは…
兄さん
6年前の独立を機に、ヘアカラーについて研究を始める。2年前から「兄」名義のインスタアカウントを開設し、毛束検証の結果を発信。これが多くの美容師の話題を呼び、フォロワー数が1万人を超える。現在は雑誌「経営とサイエンス」に掲載されるなど、メディア出演も多数。弟と共同経営するサロンは、2カ月後まで予約がとれないほど人気を集めている。
兄さんのInstagram:@anino_boyakilab
商材が変わり施術ができなくなったことをきっかけに、カラーの研究を開始
――カラーについて発信するアカウントを運用されていますが、研究をするようになったきかっけはあるのでしょうか?
6年前独立したときに商材ががらっと変わって、今までと同じように施術ができなくなってしまったことがあったんです。それまで勤めていたサロンではあるひとつの商材だけを使っていたのですが、共同経営をしている弟に自分が使いなれたものにしたいと言われ、別の商材を使い始めて。そこで初めてメーカーによってこんなにも特性が違うんだと気付いたんです。前のサロンには10年くらい勤めていて、なんでもできる気になっていたけれど、そうではなかったんだと。商材の違いをちゃんと知って、もっと幅広いお客さんに対応できるようになろうと思い、勉強を始めました。
――具体的にはどのような研究をされたんですか?
カラー剤やカラーに関する薬剤を毛束に塗って、どのような変化があるか、どのような違いがあるかなどを検証してきました。そのカラー剤の持っている特性を自分でもきちんと知りたいと思ったんです。料理にたとえると、オムレツを作るとき、先に白身をあわだてておくとふんわりするとか、塩を入れておくと味がぼやけないとか、オムレツをおいしく作るためのコツがあると思うんです。
僕の場合その先が知りたくなってしまうんですよね。なんで塩を入れるといいのか、砂糖じゃ代用できないのかとか。塩でなきゃだめな理由がわかるとほかのもので代用できたりしますし、仕組みがわかってくるとバラバラにしても、自分で組み立てることもできる。同じようにカラー剤についてきちんと知っていれば、もっとさまざまなお客さまに対応できると思いました。
引っ越してしまうお客さまを信頼できる美容師とつなぐため、インスタでの発信をスタート
――インスタグラムでカラー検証の発信を始めたのはなぜでしょうか?
日本各地の美容師さんとつながり、僕が担当していたお客さまを引き継ぐためでした。お客さまが引っ越すときに、その地域で信頼できる美容師さんを知らないか聞かれることが多々あったんです。そこでインスタグラムでよさそうな方を探して何人かにDMしてみたところ、ほとんど既読スルーされてしまいました。それ自体はしょうがないことかなと思っています。人気の美容師さんでしたら、DMもかなりくるでしょうから。でも僕のフォロワーが10万人いるアカウントだったら、結果が違ったんじゃないかと思っていて。信頼してもらうにはある程度フォロワー数が必要だなと思ったんです。何かいい方法がないかと考えたときに思いついたのが、インスタで自分がこれまでに研究してきたカラーについて発信することでした。
――お客さまのために!素晴らしいですね。
よく変わっているねと言われます(笑)。当初は画像のなかにテキストを入れたりすることもなく、ただの写真と本文にずらーっと説明を書いて投稿をわざと読みづらいものにしていました。僕の目的は信頼できる美容師さんにお客さまをつなぐことだったので、僕の面倒な投稿もすべて読んでくれるような、同じ思いの人、勉強熱心な人とつながれたらいいなと思ったんです。
――美容師さんとつながるという目的は果たせたんでしょうか?
はい。おかげさまで日本全国どこでも市単位であればご紹介できるくらい、各地のインフルエンサー的な美容師さんとつながりをもつことができました。本当にありがたいつながりで、先日も僕のお客さまでどうしても予約のタイミングがあわない方がいて、ふたつ先の駅の美容師さんを紹介することができたんです。
正解は常に変わっていく。言い切らないことを大切に
――インスタ発信で心がけていることはありますか?
これが正しい、正解ですと言い切らないようにします。インスタにも「一美容師の見解に過ぎないので、参考程度にして自分でやってみてくださいね」と注意書きを入れています。僕の投稿はあくまで、カラー剤によってこんなことが起こりうるという気付きになるものであって、僕の投稿が正解で、その通りにやったらうまくいくと思ってほしくないな、と思っているんです。というのも僕が勉強するときに、人が言った通りにやってみてうまくいかないことがたくさんあったんですよね。でもそれはその人が嘘をついているわけじゃなくて、自分の環境ではたまたまうまくいかなかっただけ。それでも勉強して知識が身についていくと、うまくいかない理由もよくわかるようになります。フォロワーさんにもそのように思っておいていただきたいなと。
正解は常に変わっていくことが大前提だと思っていますし、そう思っていないと学ぶことをやめてしまうと思っていて。僕は常にそのことを肝に銘じるようにしています。
――インスタでの発信がきっかけで、HAIR CAMPさんでの講演や、雑誌の掲載などが決まったとのことですが、フォロワー数が多くなるにつれて声がかかったのでしょうか?
HAIR CAMPさんからお声がけいただいたのは、インスタの発信を始めて半年くらいで、まだフォロワーさんが2000人くらいのときに、熱心な僕のフォロワーさんが推薦してくれたようなんです。そこでお話する機会をいただくことができました。
雑誌は現在「経営とサイエンス」で掲載させていただくことが増えています。そのきっかけとなったのは、10年以上前から毛束検証などを紙面でされてきた先輩美容師さんたちとつながったことです。その方たちからはお兄ちゃんと呼んでいただいているんですけど(笑)、「こういった仕事は次の若い世代に引き継いでいかないといけないから、お兄ちゃんがんばってみなよ」と言ってくれて。真面目にコツコツやってると、自分と同じような研究熱心な方の目にはとまるようで、ありがたいなと思っています。
インスタ発信で心がけてきた3つのポイント
兄さんがインスタ発信で心がけてきたポイントを伺うと、以下の3つでした。
1.地道にカラーの研究を続けてきた
2.自分と同じような思いの人とつながるために、読むのが少し面倒なアカウントにした
3.これが正解だと言い切らないようにした
後編では2カ月先まで予約がとれないという兄さんに、その秘密を伺いました。ポイントとなっているのは、自分がどんなサロンだったら通いたいかを考えたお店作り。指名してくれるお客さまは自分と似ているという考えから、自分が居心地のよいサロンを実現し、お客さまに支持されてきたそうです。また指名をしてもらっても担当する時間が10分という形態に疑問があったという兄さんは、独立してマンツーマン施術ができるようにし、ひとりひとりのお客さまと向き合える時間を大切にしているといいます。後編もお楽しみに!