価格競争の少ない山梨で高技術・高価格のブランディングに成功【Vesper オーナー 齊藤良さん】#1
山梨県甲府市に構える、ひときわ目を引くお洒落サロン「Vesper」。オーナーの齊藤良さんは都内で10年間働いたのち、故郷に戻り、同店をオープン。カット料金6600円という、山梨の相場以上の価格帯でスタートしましたが、見事ブランディングに成功し、瞬く間に山梨県随一の人気サロンへと成長させました。
前編では、地方における立地・物件選びで気をつけること、いかにして山梨県売上トップサロンに導いたかについて教えていただきました。
教えてくれたのは…
「Vesper」オーナー 齊藤良さん
高校卒業後に上京。都内で10年間働いたのち、地元の山梨県甲府市にUターン。2017年に「Vesper」をオープン。席数4席の小規模サロンでありながら、山梨県内売上トップの人気サロンへと導く。現在は髪質改善サロンにシフトし、スタッフがより働きやすい労働環境づくりに尽力中。
土地勘のある地元で開業。往来の多い通り沿いに「ガラス張り」の物件を借りた
――以前は都内で働かれていたとか。どういう経緯で帰郷されたのですか?
東京の専門学校に行き、そのまま東京で就職しました。三軒茶屋と表参道のサロンで働き、一時期ヘアメイクを兼務しながらフリーランスとして働いていたこともありました。
もともとは東京でお店を出したいと思っていたんですけど、テナント料も高いし、競争も激しいので、そんな厳しい環境で美容師をやっていても楽しくなさそうだなって。マーケティング的なことを調べたところ、山梨でも大丈夫そうだなと思い、地元の甲府市に戻ることにしました。
――地元の山梨で開業するにあたり、どんな下調べをしましたか?
まず、大手クーポンサイトを見て、人気上位のサロンがどのくらいのレベル・内容・価格でやっているのかを調べました。
都内は価格競争になっているところが多く、低価格なのにお洒落でセンスのあるお店がたくさんありますが、山梨の場合は底値がそこそこ安定しているわりにレベルがあまり高くなさそうだなと感じました。
僕は撮影も得意だったので、きれいなスタイル写真を載せて、クーポンも工夫して打ち出せば、ある程度クーポンサイトからの集客は見込めると想定。顧客ゼロからのスタートでしたが、フリーランス経験もあったので、集客にそこまでのハードルを感じませんでしたね。
――どのくらいの価格帯に設定したのですか?
最初はカット料金を6600円にし、「カット+トリートメントorヘッドスパ」で7000円で打ち出していました。それなりに高めに設定したんです。
――カット料金6600円というと、山梨では結構高い方でしょうか?
山梨では高いと思います。当時のカット料金の相場は4000円くらいだったので。でも、あえて価格設定を高くすることで違いを出せるというか、期待値を上げてもらえると思ったんです。
正直、カットにはすごく自信がありました。新規のお客様の髪の毛を見れば、前にカットした美容師の技術力がどのくらいのものか大体わかるので、その上で「クオリティ勝負でもやっていける」「高価格にしてもお客様はわかってくれる」という確信が持てました。
――Vesperのコンセプトが「都内の一等地にあるような一流のヘアサロン」でしたね。
はい。技術にしても、サービスにしても、仕事の質にはすごく自信があったので、高品質路線でいってみようと。だから、内装にもすごくこだわったんです。この辺のエリアでは内装にこだわっているお店があまりなかったので、そこでも違いを見せられるかなと。
――内装、すごくお洒落ですよね。話は逸れますが、物件を探すのに苦労しませんでしたか?
それが全然。実家がこの近くだったので、どの辺りが人目につきやすいのかなど、土地柄が頭に入っていましたから。それで、車が多い通り沿いで物件を探し、ガラス張りのこのテナントを見つけたんです。この店は3面ガラス張りなんですけど、車で通ったときに店の中が見えやすく、「何かお洒落なお店できたのかな」って認知されやすい場所なんですよ。
――車で通ったときに目につきやすい場所を選ぶと良いんですね。
そうなんです。でも、渋滞が多いところはのちのち不便になるので注意が必要ですが。ちなみに、こっちではみんな車なので「駅チカ」であることは全く関係ありません。
実をいうと、車社会であることを忘れていて、うっかり駐車場のない物件を借りてしまって…(笑)。急いで近くに駐車場を借りたんです。この辺だと一台3000〜5000円くらいで借りられるので、安くて助かりました。
山梨の平均の3倍の客単価で勝負。席数4で県内トップの売上を記録
――オープン後、客足はいかがでしたか?
最初のうちは一人でやっていたのですが、毎日3〜4人、月に150人くらいの新規客が来てくれました。大手クーポンサイトをメインに集客していましたが、当時はまだ大手クーポンサイトがあまり活用されていなかったこともあり、一人勝ち状態だったんです。最初は全員新規なので、関係性ゼロからはじめなければいけなかったのが少し大変でしたけどね。
2ヶ月目くらいでアシスタントを一人、10ヶ月目にはスタイリストを一人入れることができ、それでも常に人手が足りていない状態だったので、一年目からわりと好調でしたね。
――席数4席にも関わらず、山梨県内でトップの売上を記録したと伺いました。その勝因とは?
うちは山梨の平均の3倍くらいの客単価でやっていて、ブランディングもできていたので、スタッフ数が少ないことはハンデになりませんでした。
カット技術にしても、ショートを得意としていたので、新規の方は「バッサリ切りたい!」というオーダーが多かったんですね。だから、違いを感じてもらいやすかったし、「これだったら値段が高いのも納得だわ」と言っていただくことも多かったです。
――サロンワークをする中で、東京と山梨とでギャップはありましたか?
ありました、良い意味で! 地方ってすぐに噂になるんですよ。良い仕事をしても、悪い仕事をしても広まるのが早いんです。ネットの口コミとかではなく、口伝えのリアルな口コミがね。現在は、うちも紹介による来店が多いですね。
あと、こっちの人たちは時間に対して寛大ですね。東京の人はスケジュールをギチギチに入れているので、施術時間をすごく気にしますよね。けど、山梨のお客様は「時間が伸びても気にしないよ〜」と言ってくださる方が多いんです。美容室に来ることがメインイベントなんですよね。だから、こちらとしても焦らされることもなく、モチベーションも上がります。
――出だしから順調だったようですが、これまでに経営危機はなかったのですか?
売上面では特にありませんでしたが、求人には苦労しました。レベルの高いカット技術を打ち出したことで、自分の首を絞めてしまったんです…(笑)。
地方で開業するにあたり、抑えておきたいポイント
1.車移動で目につきやすい立地や物件を選ぶ
2.技術やサービスの質、空間づくりで違いを見せる
3.小規模サロンは、高品質・高単価ブランドとして打ち出す
高技術・高価格というブランディングに成功した一方、「カットの価値を上げてしまったことが失敗への入り口でもありました」と齊藤さんは話します。どうやら、東京とは違う山梨の求人事情に苦労したようです。後編では、求人の課題を解決するべく齊藤さんが行った働き方改革について詳しく伺います。
取材/佐藤咲稀(レ・キャトル)